DWNの海上基地への奇襲は成功したように見えていた。
けれど戦況が徐々に変化していく。最初は押され気味だった基地側の勢いが強くなる。守りに徹していたのが攻めに転じたようで、その底力に動揺を隠せない。
「恐らくあの基地のボスです!物凄いスピードでコチラのロボットが撃破されてます!」
「もう戻ってきたというのか!?」
本船のブリッジ内は予想を上回る相手の動きにざわめく。けれど一度始めてしまった以上、下手に引いては追い打ちをかけられ自滅しかねない。
「本船後方より敵船確認!」
焦って上ずる声で叫ばれた内容にリーダーらしき男が悔しそうな声を上げた。
2
ウェーブが海中を進んでいくとすぐに基地と海賊の交戦区域に突入した。全体を見渡して押し戻しているように感じられ、損害も予想範囲内に収まっていた。それに少し安心しながらウェーブは戦闘を開始する。
『自己を持たないロボットなど相手になるか!!』
水中で戦闘を続けるロボットの大半は、AIも積んでおらず単調な動作を繰り返す機械と変わらない。その間を器用に泳ぎ抜けて銛で破壊し、ウォーターウェーブで水流を作り出して押しのけ、周囲の敵ロボットにぶつけて自滅させていく。
そんな事を繰り返していくと、すぐに数は減っていき、ウェーブの部下たちも勢いづいたように追い打ちをかけていく。その様子を確認するとウェーブは、基地に帰るため水路の入り口を目指す。
そこは潜水艇も通れるほど大きなもので、そのまま進んでいくと波止場のような造りの格納庫へとたどり着く。だからこそ水路には門がしっかりとあるはずなのだが、今は爆発で凹み抉れたように門が破壊されて敵のロボットが侵入しているのが見えた。
『海賊どもめ!!』
侵入されたという事実を見せつけられてウェーブは、目つきがキツくなり移動するスピードも上がっていく。そして、今侵入しようとしている敵ロボットを破壊して、水路内へと進む。水路内でもやはり敵ロボットが居て、このまま放置すれば侵入は増える一方なのは簡単にわかった。
ウェーブは、とりあえず最高速度に近いスピードで泳ぎ抜け、格納庫を一気に目指す。
「誰だ!?」
「待て!ウェーブ様だ!」
スピードを保ちつつ水面を突き抜けるように飛び上がり、格納庫へと着地する。そして、身構えると周囲は、部下たちばかりだった事に気づいて一息つく。けれど戦闘音は格納庫に響いており、見れば格納庫にあった木箱やコンテナで仮のバリケードを作って海から上がってくる敵ロボットを迎撃している所だった。
「ウェーブ様!ご無事でしたか!」
この場で統括機の役割があるらしいジョータイプのロボットが駆け寄ってくる。ウェーブは、問題ないと右手で払う動作をすると何かを理解したように一定距離を保ってジョーたちは立ち止まった。
「基地の状況は?」
「海上での迎撃は滞り無く。しかし海中からの攻撃に苦戦し、通信妨害のため有線以外で管制との連絡もままなりません」
会話している間もバリケードの一部が破壊されたり、基地自体に何処か爆発したような振動が伝わってくる。海上で持ちこたえても海中から侵入され、中から崩されては意味が無い。ウェーブは、後方にある格納庫と基地区域を繋ぐ通路が1つしかないのを思い出し、すぐに叫ぶ。
「後退しろ!隔壁を使え!」
その声に瞬時にジョーたちは反応する。同時にウェーブが前に出てウォーターウェーブで敵の陣形を撹乱させて、銛などを打ち込み時間を稼ぐとジョーの合図で一気に通路と格納庫の間にある隔壁まで走る。その間に少し被弾したけれど、問題なく隔壁の内側へと避難し一息ついた。
「立て続けに悪いが、グラビティーはこの基地の何処に居る?管制か?」
「グラビティー様が居らっしゃるのですか!?」
居場所を確認したかったのに存在すら知られてなかったらしく、その場に居た全員が驚きを見せた。勿論ウェーブでさえ予想外の状況に驚いていた。
「今何処に居るかわからないのか!?」
「戦闘に入る直前には管制や主だった施設内には居られなかったと記憶しております!」
その言葉にウェーブは頭を抱えそうになる。少なくとも基地内に居る事はストーンたちから知らされていたので心配しつつもグラビティーなら管制に行くだろうと思っていたら見当違いな現実。主だった施設にさえ居ないなら通路をフラフラしているかもしれない。そうなれば更に敵と遭遇する機会が増える。それは予想外続きの最悪の事態だ。
「お前たちは他に侵入者が居ないか警戒にあたれ!グラビティーが居たなら最優先で管制へ連れて行け!!」
ウェーブが強い口調で言い放つと、その場に居た者達は命令通りに通路をかけていく。そして、残されたウェーブをかけ始めたけれど、後ろの隔壁の向こう側から攻撃が続いていて、段々とそれが大きくなっている事に隔壁も長くはない事に舌打ちする。
「グラビティー!何処だー!」
基地内を捜索すると、特別荒らされた形跡はないが、少しずつ戦闘の痕が点々と残っていた。倒れているのは敵のロボットである場合が多いけれど、基地側に一切損害が無い訳でもなく、偶に紛れてるのは見知ったデザインのロボット。そんな様子を視界の端に入れながらも通路を駆けていた。両用の機体とはいえ、陸専用の機体と違いそれ程速く走れないのが難点だった。
「なんでこんな時にッ」
少しずつ戦闘音が聞こえ、正面の通路を突き当たり右から音は聞こえていた。そこまで行くまでにも通路の床には破壊されたロボットの部品がゴロゴロと転がってる事に気付き、激しい戦闘が出来る者が近く居るのを瞬時に理解していた。
意を決して右に曲がり銛を構えた途端に待ちかまえていたように通路の奥から放たれたバスターの集中攻撃にウェーブは、咄嗟に姿勢を低くしようとして転んでしまう。相手はそれに対して一瞬攻撃を止めて集中させようとしたようだけれど、それを好機に変えるように転んだままのウェーブは、左手で床を殴りつけた。その意味がわからなかったらしい敵ロボットは、構わずバスターを打ち返そうとしたけれど、すぐに悲鳴が広がる。
その間にウェーブは、起き上がると次々とウォーターウェーブで撹乱させ、銛で追い打ちをかけて崩していく。
「DWNめ!よくもリーダーを破壊したな!!」
「知るか!俺の邪魔をするな!!」
唯一、飛びかかるように迫ってきたロボットに対してウェーブは、睨みつけながら右手を上げて狙いを定めたと同時に銛が敵ロボットへと突き刺さって倒れた。
「リーダーを破壊・・、まさかグラビティーか!」
敵の言葉に思い当たるのはそれだけ。しかも今ウェーブが対峙した敵と同等の能力を持つロボットが居るのなら、部下たちでは相当時間がかかるか押し負けるかだろう。そうなると答えは1つだ。ウェーブは、グラビティーも一緒に対処してくれると感じると嬉しそうに笑う。
「さすがグラビティーだ!」
感嘆の声を上げると瞬時に戦闘中の顔に戻る。そして、それまでよりも動きも良くなり、次々と邪魔なモノを減らしながら赤い姿を探していく。そんな中、少し開けたホールに到着して、警戒しながら壁の影から顔を出すと、そこは荒れ放題だった。敵機と思われるモノの他に基地の天井の瓦礫や剥がれた床、壁など普通の状態じゃない。なのでウェーブも一瞬、この場を後回しにするかと悩んだけれど、見慣れた赤がそんな荒れた場所に紛れていたのに気づいて飛び出した。
「グラビティー!?」
慌てて駆け寄る先にはうつ伏せに倒れるグラビティーの姿。見える範囲で機体の損傷はないけれど、今はグラビティーがうつ伏せだからであって正面がどうなっているかわからない。ウェーブは、周囲を警戒しつつ膝をついて屈み込み、少し不安げにグラビティーを抱き起こし仰向けにさせた。そして、グラビティーの様子を見て少し安心する。
仰向けになったグラビティーは、粉塵などで粉っぽくなっている事はあるけれど、損傷箇所も見受けられず、いつもの状態のまま倒れてるだけに見えた。
「しっかりしろ!グラビティー!!目を開けてくれ!!」
「・・ん?あれ?ウェーブ君?おはよう?」
周囲の状況から無傷でも何かあったのではないかとウェーブは心配しながら声を上げる。簡単には目を覚まさないのではないかと思っていた部分もあるので、眠たそうな声と共にグラビティーがすぐに目を覚ましたのにはウェーブは驚いて言葉を失っていた。
「ね、寝てたのか?グラビティー」
「うん?そうみたいだね。ログが途切れてる」
ボンヤリと眠たそうな視線をウェーブに送り、マイペースな言葉を伝える。するとウェーブは今までの緊張感や心配事が一気に吹き飛んだらしく、屈みこんで膝をついていたのだが、気が抜けたように足を崩して蹲ってしまった。それを見てグラビティーは、小首を傾げながら起き上がる。
「どうしたの?今帰ってきたの?」
「グラビティー!無事で良かった!!」
蹲るウェーブにグラビティーが指で突っつくとそれに反応したようにウェーブは起き上がってグラビティーの肩部分を避けて器用に抱きしめた。グラビティーは、突然の事にも冷静でウェーブの様子をジッと眺め続けていた。そして、ウェーブが我に返ったように悲鳴を上げてグラビティーから離れて取り乱すまでじっくりと観察する。その結果、グラビティーは普段と違うウェーブの機体状況に気づいたらしい。
「ウェーブ君、損傷してる」
「えッ、いや今その、襲撃を受けて、そのッ」
グラビティーは、少しふらつきながらも立ち上がり周囲を確認する。そして、それを見たウェーブも慌てて立ち上がった。会話に夢中で意識する事を忘れていたけれど今は戦闘中だ。グラビティーも理解しているらしく、先ほどから索敵するようにキョロキョロしている。そしてそんな事をさせてしまう状況を作ってしまったのは自分だとウェーブは考え始めて途端に勢いが弱くなっていく。
「うぅ・・、不甲斐なくてスマン・・」
「どうしてウェーブ君が謝るの?」
とても不思議そうに言うグラビティーに他意は感じられず、純粋にそう思っているらしい。だからこそ尚更ウェーブは、グラビティーの質問に困っていた。
「え?いや、俺が悪くて、こんなで・・」
「謝るのはアッチでしょ?」
グラビティーの最後の言葉と同時に一方向へバスターを向ける。すると悲鳴や機械同士が擦れるような特徴的な音が響き、ウェーブが確認すると重力に負けて床へと沈んでいく敵機の姿が2,3体あった。支えようとする手足も次々と音を上げて折れていくのが見える。
「まだ居るんだね。勝手に上がり込んでおいて、逃げれると思ってるのかな」
「ぐ、グラビティー!少し落ち着け!とにかく今は管制に!」
つまりグラビティーが倒れていた周囲の惨状は、彼自身による攻撃の結果だったらしい。それだけの戦力があるとわかっていても、ウェーブにしてみればこんな所に居るよりも管制に居てくれたほうが何倍も安心できるので焦りながらも勧めることを止めない。
「僕の邪魔したのはアッチだよ?」
「それでもッ」
ウェーブ言葉に反応して振り返るグラビティーの表情は、眠たそうなものに不満が加わって珍しく不機嫌さが際立っていた。その表情にウェーブも驚いて機体を硬直させる。
「全部、見つけて潰してからだよウェーブ。そうでしょ?」
いつもと同じ口調だったけれど、声色は少し違う。静かな怒りを感じたし、何よりウェーブの名前を呼んだと同時にウェーブの機体へのセーフティを解除していく。それが本気である事の証明になり、システムからセーフティ解除を提示されてウェーブは一気にパニックになった。
「・・ぐ、グラビティーが怒ってる!うわぁああッ!アイツらのせいだぁああッ!」
「ウェーブ君!邪魔しにゃいでよ!」
ウェーブが叫ぶと丁度やって来た敵機に突撃していく。それは今までよりも激しく周囲の被害もお構いなし。勢い余って壁や床、天井が穴だらけになっても一切意を返さずに、ただグラビティーへの謝罪ばかりで悲鳴を上げて暴れていた。その後方からはグラビティーがウェーブへ完璧なフォローをしていて、追い打ちをかけていく。
その後、近くの基地から空からの応援が来て海上での戦闘も結果的に一方的な戦況へ変化してDWNの圧勝となっていた。そんな中で基地内に侵入して命からがら奇跡的に逃げてきた者は、手出し致しませんと震えながら言っていたそうだ。
そして応援に来た同ナンバーのストーン、クリスタル、ジャイロは管制で基地全体の状況を確認していた。
「容赦無いな」
「基地内で暴れた後に追い打ちとしてサイバー攻撃をしかけましたからね」
「グラビティーなら当然だ。まさに壊滅って言葉が似合うな」
ディスプレイに映しだされたのは、敵襲で荒れた基地内よりもグラビティーとウェーブが暴れた事により荒れた場所がほとんどだった。基地としてだけでなく、通路や部屋など基本的な形は残っているだけまだマシかもしれない。
「それで元凶のアイツらはどうした?」
「一緒にメンテルームですよ」
その返事に誰もが一安心した。
終
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二周年記念リクエストありがとうございました!
ご期待に添えられたかわかりませんが、出来る限りをもって書かせて頂きました!
リク募集にお付き合い頂きありがとうございます!
もう少し波重力な場面を作りたかったのですが、波がヘタレるような性格とマイペースな重力なので、いつも調子でしょうか。
少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。
それでは失礼しました。
また機会がありましたらよろしくお願いします。
2014.11.11
2014.11.11