影踏 2
シャドーを探し始めてから3日目、タップは会議室に呼ばれていた。
そこには円卓があり、奥には博士が居て、左右にメタルとグラビティーの姿。そして、目の前には怒りを惜しみなく表すニードルの姿。それはいつかの注意を受けた時と同じ状態を今回はタップ独りで受けていた。

「今日呼ばれたのは何故かわかるな?」
「・・はい」

それは呼び出しをくらう直前に終えた任務についてとタップは理解出来ていた。
その任務は特別難しいというものではなく、DWNにとっては通常業務の如くこなせるもので、ミスや失敗なんて珍しい事でしかないし、余程の事が無い限り問題が起こらないはずだった。なのにタップは、今回に限り小さなミスや失敗の連続で周囲が驚き心配したほど散々なものになっていた。

「ならその理由を自己分析して言ってみろ!」
「え〜・・?」

説教を受けるだけと高を括っていたタップは、予想外に自分の言葉を求められて首を傾げた。そして、直前の任務について思い返してみると自分自身ではいつも通りにやったつもりで、何故かすべて思わぬ方向に転がったという感覚でしかない。だからこそ答えようもなくて考えをまとめるのに少し時間がかかる。
そうなるとニードルの機嫌は悪化するばかりだ。

「それぐらいわかんねぇのか!」
「いや、俺は少し機体のメンテサボり過ぎたかなって・・」

更に日常的な事で思い返すと時間があるとシャドーを探していた。けれど見つからず今に至る。その間メンテも後回しに探したりしていたので、ふとその事を思い出して呟いてしまった。そして呟いてしまってからタップは、ハッと我に返る。目の前には先ほどよりも明らかに怒りが爆発しそうなニードルが腕を組んで立っていた。

「ほ〜う?メンテサボってやがったのか?あ?」
「やべぇ!!墓穴掘ったァッ!!!」

悲鳴のように声を上げたのが決定打。
ニードルは、ブチギレで怒鳴り、奥に居た博士は笑い出し、メタルやグラビティーは呆れた顔をしつつ既に興味は失せたと手元の資料を確認し始めていた。

「とっととフルメンテ行って来いや!!その後ログ提出!忘れんじゃねぇぞ!」
「了解ッ」

そこから叩き出されるように会議室を後にしてメンテルームへと急いだ。






あれからまた1日経ってフルメンテ後、タップはログ提出をしてからまた呼び出されてこってり叱られていた。任務についてもメンテのサボり過ぎによる機体不調という事で一段落する。けれどメンテ後というのにタップは疲れたようにゆっくりと通路を滑走して自室に向かっていた。

「ハァ〜、アレから散々だな〜」

任務でも散々だったけれど、その後のフルメンテからのログ提出と説教で特別機体を動かしてもないのに戦闘を1,2回こなしたような気分だった。そして、通路の曲がり角に差し掛かった時、足音に気づいて念のためにスピードを更に落とす。

「あ!ジェミ兄じゃん、久しぶり〜」

通路を曲がった先で出会ったのは、定期メンテと任務でしばらく顔を見てなかったジェミニだった。その隣にはしっかりホロも居て、ヒラヒラと挨拶のように手を降っている。けれどジェミニと視線が合った途端にジェミニの表情が少し曇った。その反応にタップは驚いて完全に足を止める。

「ジェミ兄?どうしたの?」
「タップこそ大丈夫ですか?」

その返しにタップは、戸惑う。けれどジェミニが心配するような表情を作ってまで冗談を言って誂う事なんて今までに無かった。だからこそタップはどうして良いかわからず言葉を詰まらせる。すると隣にいたホロもタップを上から下へとじっくり確認してから何故か頷く。

「私も思っているが、メンテ行ったほうが良いんじゃないか?」
「え?」

その言葉に更に驚くしか無い。確認するようにタップがジェミニを見たとしても、ジェミニは相槌を打つだけで当然の如く同意見らしい。けれどタップには意味不明な提案でしかない。

「俺、フルメンテしてログ提出したばかりだから!」
「「は?」」

今度はジェミニたちがタップと同じぐらい驚いた顔をしていた。そこまでされるとまだ何か本当に異常があるのではないかと錯覚してしまいそうになるけど、先ほどフルメンテして異常はないと出ているし、ログを提出しているのだから他に答えようもない。

「だからフルメンテ終わったばかりだよ!もう機体に問題ないって!」

証明するように目の前にメンテログを表示させるとジェミニは驚きつつ納得したらしい。けれどすぐにまた考えこんでしまったのでタップは次は何を言われるのかと警戒していた。すると意外な一言にまた驚かされてしまう。

「もしやシャドーと喧嘩しましたか?」
「え?なんで知ってんの?スネークから聞いた?」

メンテの話からそこへ行き着くとは思ってなかったため、タップもそれまで以上に動揺を隠せないで焦る。けれどジェミニは更に冷静になり納得してホロと一緒に「なるほど」と口をそろえていた。その納得の仕方にまたタップは驚くしか無い。慌てて言葉を探しているうちにジェミニは、横を通り過ぎて行く。

「早めに仲直りする事をおすすめします。それでは」
「がんばれよ。私も心配しているからな」

言葉に詰まりながらも振り返ってジェミニを見たけれど、ジェミニはそれ以上何も言う事なくホロと一緒に歩いて行ってしまった。何か声をかけようとしたけれど、なんと言えばいいかわからず、気づけば視界からジェミニの姿は無くなっていた。

「・・誰かと喧嘩したって雰囲気出てるのかな」

ポツリと負け惜しみみたいに呟いても誰もいない通路に寂しく響くだけ。
するとタップは思いつめたように、またシャドーへ通信回線を開こうとする。でもあと一歩が踏み込めず、溜息をして通信を取りやめた。それから気を取り直し、今日のスケジュールを確認する。フルメンテをしていたため少しずつ更新されており、シャドーの名前の部分を確認してから、いつもより少し速いスピードで通路を滑走していく。

「マグ兄ー!スネーク!」

たどり着いた先は、第三ハンガー。今まさに飛空艇が格納されたばかりのようで、周囲も慌ただしく動きまわる者達であふれていた。その中に目立つ赤と緑に向かってタップは滑走していく。途中、荷物を運ぶロボットに邪魔されて飛び越えながらも器用に避けて目の前まで辿り着いた。

「どうした?何かあったのか?」

手には何かの資料を持ちながらもマグネットは、いつも通りに快く反応を返してくれる。そして当然、スネークの方は「邪魔臭ぇのが来た」という嫌そうな表情で出迎えてきたけれど、タップにとって馴染みある反応なので気にせず笑って返す。

「突然で悪いんだけど、シャドー見てね?」

その言葉にマグネットは、驚いていた。スネークは、シャドーの名前が出た途端に何か思う事でもあるのか更に嫌そうな顔をしてあからさまにタップから視線を逸らし、周囲の部下たちへ指示を飛ばして仕事に専念し始めた。その様子にタップがキョトンとして見ていると、マグネットは苦笑しながら伝える。

「シャドーなら博士に報告すると行ってしまったよ」
「そっか!サンキュー!」

マグネットの言葉にタップは、いち早く駆けつけたいように踵を返し、いつも以上に急な加速を見せた。それにマグネットは驚いたようだけれど、タップが気づくはずもない。途中で他のロボットにぶつかりそうになりながらも避けきって第三ハンガーを後にする。その後ろ姿をマグネットは、苦笑してずっと見ていた。

「なるほど、荒れてるはずだな・・」

何気なくポツリと呟かれたマグネットの言葉に、近くにいたスネークが反応して大袈裟に溜息を漏らす。その解りやすい反応にマグネットは更に苦笑してスネークを見た。

「別にスネークの言葉を疑ってた訳じゃないさ」

弁明するように言えば、スネークは呆れた顔をしていたけれどすぐに何か思いついたようにニヤリと笑う。その表情を見てマグネットは表情を引き攣らせた。

「じゃあ信じてくれるってならもう一つ。当分はタップに近づかない方が良いぜ?嫉妬に焼かれるから」
「笑えないよ・・」

ニヤニヤと面白いモノを見るかのように笑うスネークにマグネットはため息混じりに言葉を漏らしていた。そして、タップが消えた方向を心配そうに見てから、再び仕事へと頭を切り替える。


博士がラボとして使っている場所は基地内に数カ所あれど、メインやサブというランク分けがしてあり、最近ではメインで色んな実験をしているのを知っていたタップは、真っ直ぐラボへ突撃する。すると丁度休憩してたららしい博士が椅子に腰掛けたままマグカップ片手に話しかけてきた。

「なんじゃ?緊急か?」

突然しかもスピード系のタップが飛び込んできた事もあって、博士なりに考えられる理由を考えて解釈したらしく、マグカップを置くとすぐに立ち上がり、未だに少し焦った様子を見せるタップの目の前までやってきた。

「緊急ではなくて・・、シャドー来ませんでしたか?」
「あぁ、報告して帰ったとこじゃ」

タップの言葉に安心しつつ博士は納得したように言葉を返した。するとタップは、驚いて博士を凝視する。そんな反応に今度は博士まで驚いていた。今タップの頭の中には、滑走して通ってきた通路の記憶が流れていて、その中にシャドーらしき姿や影すら見受けられなかった。他にも行き方はあるので一概に言えないにしろ、今の状況で行き違いはタイミングが良すぎた。

「なんじゃ?どうした?」
「シャドーは何処へ行ったかわかりますか?」

色々考えていた所を博士の言葉に気づいて慌てて言葉を返す。けれど博士は、不思議そうな顔をするだけだ。

「用があるなら通信で呼べば良かろう?」
「そ、そうですね・・失礼しましたー」

当然の事を言われてしまい、その次の言葉を上手く創りだす自信が無くなったタップは、逃げるように博士のラボから姿を消した。それを見送った博士は、最後まで不思議そうにして見送っていた。
ラボを後にしてから制限ギリギリのスピードで通路を駆け抜ける。周囲に接近する機体があれば極力落としていたものの、まだ十分に速い。けれどタップは、止まることなく走っていった。

「・・シャドー、何処に居るんだよー」

最初の変な意地や純粋な怒りはすっかり身を潜め、今は見つからない事に対しての何かが渦巻いて不快にさせたり、落ち着かなくさせたりしていた。それは注意力などにも影響を及ぼしかねず、今になって任務の失敗の数々に納得していく。

「なんで見つからないんだよ・・」

そんなはずもないのに、まるでそれは元から本体が存在しないかのように出会うことがなかった。

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