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残骸が広がるその中心に無表情のままなタップが立っている。
スネークは、自分の機体状況を確認しながらも立ち上がり、スネーキーに下がるよう指示を飛ばす。けれど先ほど蹴り飛ばしてきたタップは、何も反応せずに無表情で宙を見ているようだった。その反応の仕方にスネークは少しばかり予想を立て、何度目かの舌打ちをした。
そうこうしているうちに追撃するように敵機の集団がスネークが通ってきた扉とは反対側の扉から突撃し、押し寄せてきた。
「スネーキー!全部焼き払え!!」
バスター攻撃になども備えて身を低くしながらコンテナの後ろへとスネークは転がり込む。そして、その指示に従ってスネーキーが暴れるが、同時にタップも反撃をしていた。その様子をスネークはコンテナの影から眺めて先ほどの予想を確信する。
タップは、敵機を無表情で迎撃していく。いつもより容赦無く効率的な動きは、とても機械的で一切タップらしさが感じられない。
「おい、タップ!テメェ寝ぼけてんじゃねぇぞ!!」
敵機が尽く残骸となっていく中、スネークも影からバスターで応戦しながら叫ぶ。けれどタップは、戦闘優先で何一つ反応が返ってこない。別の理由でスネークは、焦りを感じ始めていた。
『スネーク殿、現状報告を願いたい!』
「今、タップを確認した」
そこへ先ほどよりは落ち着いた声のシャドーから通信が入り、スネークも尽かさずに返答する。すると一気にシャドーの雰囲気が明るく普段に近くなった。
『状態は!?ご無事で?』
「視認だけなら損傷は軽微、高速移動も可能で戦闘も問題ない。だが完全には機能回復してやがらねぇよ!」
嬉しそうな声と今の状況のギャップに苛ついて八つ当たりのように言い捨てると、シャドーの言葉がまた詰まった。それはスネークの態度よりも通信の内容に反応したらしい。そして未だにタップは、淡々と敵機を迎撃していて一言も声を発していない。そろそろ敵機の数も少なくなってきたので、スネークが密かにスネーキーたちを下がらせて自分の元へと待機させていた。
『それは・・内部に異常が?』
「見た感じじゃ只の再起動の失敗だろ!今立てこんでんだ!邪魔すんな!」
通信で会話している間に、ついに敵機がすべて処理されてしまい、タップの動きがピタッと止まったかと思えば、隠れるスネークやスネーキーが居る方向を振り向き立っていた。その表情はやっぱり無表情で待機状態になっている。それをコンテナの影から確認したスネークは心底面倒くさそうな顔をしていた。
『ならば、せめて中央で暴れて参る』
「は?馬鹿言うな!お前でも今からは無理があるだろ!エネルギー残量わかってんのか!?」
データの回収も終わり、通常なら脱出のために動く頃合い。そうなるとどう動いたとしても自然にエネルギー残量もそこそこになってくる。なのに今から尚更暴れる場所へ向かうという事は、いくらシャドーであっても物理的に無理がある。しかも先ほどからシャドーの機体情報は、詳細確認出来てないので損傷箇所があるとも限らない。けれどスネークの言葉など気にした様子もなくシャドーは軽く散歩する事のように返すだけ。
『しばしの時間稼ぎでござるよ。その間に対応してくだされ。では御免!』
「おいシャドー!」
通信での反応がなくなり、スネークは表情を尚更歪めた。そして思い切ったようにコンテナから飛び出し、サーチスネークを撃ちまくる。するとタップが反応して襲いかかってきた。それを控えていたスネーキーも加わって迎撃する。
幸い、敵機の残骸が邪魔になりタップ特有の高速移動が出来ないらしく、スネークにも対応できる範囲で収まっていた。
「面倒臭ェ事しやがって、このクソ独楽!!!」
スネーキーたちの噛み付きを避けている隙にスネークがサーチスネークを撃ちこむ。それに反応してタップが飛び退いた所をスネーキーたちが更に襲いかかり、体当たりでタップをコンテナに叩きつけ、予想以上に大きな音を鳴らした。
それにはスネーキーも慌てたようにタップから離れ、スネークも焦ったように顔色を悪くしながら駆け寄ると、タップはその場にずり落ちるように座り込んで俯いたまま動かなくなった。
「おいタップ!!」
屈みこんでタップの肩に触れても反応がない。振動を与えてみたくても内部がどうなっているかわからないので、とにかくゆっくりと横に寝かせようと背中に手を回した時、独特の起動音がしてスネークの動きが止まる。
「・・?あれ?蛇ちゃん?え?なんで俺こんな?え???」
一瞬身構えたスネークを他所に、タップは今やっと目が覚めたらしく今の状況に純粋に驚き動揺していた。そして、スネークが硬直しているのを良い事に慌てて腕の中を抜けだして立ち上がり、自分の機体を見回して確認していく。その様子から本当に何処も異常はないように感じられた。するとその安心感と共になんとも言えない腹立たしさがスネークを襲う。
「ッこのクソ独楽!」
「え!?」
屈みこんでいたスネークがいつもの調子で右手を振り上げてタップに殴りかかる。殴りかかるといっても、実際は小突く程度のもの。普段ならお互い笑いながらしたりする。今回もスネークはその感覚だったのに、タップはスネークの右手を掴むとそのままの勢いを殺さずに後ろへと引き倒してしまった。突然の事でもスネークは、しっかりと受け身をとれたものの、お互い驚いて顔を見合わせ、しばらく無言になった。
「・・何してんだ?まだ寝ぼけてんのか?」
「いや、ごめん!でも、あれ!?目の前に居るのは、確かにスネークなはずなのに戦闘での認識が不明機になって警告出まくってて超うるせぇ!なんだコレ!!気持ち悪!!」
驚きながらもスネークが不機嫌な顔で良いながら再度近づいていくと、タップは気圧されるかのように後退りし、必死に自分の状況を説明していく。そこでやっと原因を理解したスネークは、盛大に溜息をついてスネーキーたちを自分の後方へ来るよう指示を出す。
「認識関係の不具合だな。サーチスネークから間接的に機能補助するから自分で繋げ。それぐらいできるだろ?」
「た、多分・・」
今も警告がうるさいらしくタップの表情は、辛そうだ。それを見てスネークは、少しずつ離れてから床に特別製のサーチスネークを置いてタップの元へ向かわせる。するとタップもそれを拾おうと屈みこんでも、更に辛そうにしていた。
するとスネークは拾わせるのを諦め、タップに床へ手をつくように言い、サーチスネークがそれを伝って登る事に変更した。けれどそれでも辛いのか、払い落としそうになるのを必死で耐えるタップに、スネークはイライラしながらサーチスネークを操っていく。そして、やっとタップの首元まで登らせてサーチスネークの口から出したコードで直接回路につなぐ事が出来た。
それからすぐにタップの表情が晴れて、驚いたように立ち上がる。そして、嬉しそうな顔と共にスネークを見た。
「さすが蛇ちゃん!やっと頭スッキリした!サーチスネークもありがとな!」
先ほどまでサーチスネークを拾おうとするのでさえ、苦痛でしかなかったのに、治った途端に嬉しそうに首元にいるサーチスネークを撫でていた。するとスネークは、何か気に入らなかったらしく、ムスッとした顔でツカツカと早足で歩み寄り迷わずタップの頭に手刀を繰り出した。
「イッテェッ!!何すんだよ!いきなり!」
それほど音もしなかったので大して力が入ってなかったのにも関わらず大袈裟に痛がるタップ。それを見てスネークは、満足そうにしていた。
「もう大丈夫そうだな」
「あ、そっか!いやでも叩くなよ!これ以上不具合起こしたらどうすんだよ!」
納得しそうになり、タップが慌てて抗議する。でもスネークには、サーチスネークからの間接的な情報でタップの内部トレースが完了していて、異常がなかったため容赦がない。
「うるせぇな!もう異常ねぇだろ!」
「俺が驚くだろ!!」
「それはこっちのセリフだ!なんで急に落ちたんだよ!」
言い争いのようなものが始まり、周囲に居たスネーキーは落ち着きなくソワソワし始め、タップの首元にいるサーチスネークは必死にタップの装甲にくっついていた。けれどスネークの指摘した言葉にタップの言葉の勢いが鈍くなり、視線が泳ぎ始める。するとスネークは尚更苛立った雰囲気で追い立てていき、逃げ場をなくしたタップが気まずそうに口を開いていく。
「あー・・それは多分、最後のロボットを倒した時の爆発に巻き込まれて転んだ衝撃で頭ぶつけて落ちちゃったかなーって・・?」
転んだという言葉にスネークはポカンと呆れた顔をし、さすがのタップも物凄く気まずそう且つ恥ずかしそうにしていた。それからすぐにスネークは盛大な溜息をつく。スネークは柄になく焦っていた自分が馬鹿らしくなるくらい単純な理由に頭が痛くなりそうだった。
「普段も任務でも人騒がせなんだよテメェは!ついでに言ってくけどな!?お前さっき俺に蹴り入れやがったからな!?」
最後の八つ当たりだとばかりにタップが暴れた様子を簡単に説明して加えると、気まずそうで何処か恥ずかしそうにしていたタップが血相を変えてベタベタと触りながらスネークの機体を確認し始める。それをまたスネークが手刀で迎え撃って痛そうにしながらタップは一歩下がった。
「・・本当にごめん」
叩かれた事に抗議する訳でもなく、シュンと落ち込んだように視線を落としながら言うタップにスネークは面白く無さそうに溜息を軽くする。それが呆れての事だと感じたらしいタップは益々表情を深刻にさせていくが、すぐにまたスネークが手刀をくらわせた。
「いってぇ!なんで今回はそんなに叩くんだよ!」
深刻だった顔が少し不満そうな顔に変化して視線が上がってきた事にスネークは、満足しながらも顔は不機嫌を装い言葉を続けていく。
「謝罪が全然足りねぇし、どれだけ迷惑被ったと思ってやがるんだ!」
「じゃあ、どう謝れば良いんだよ!つーかマジ叩きすぎだろ!馬鹿になる!」
「今更だろ!」
『スネーク殿〜・・』
そして何故かまた言い争いが始まろうとした時、専用回線から少し情けない声が聞こえてきて2機の動きがピタリと止まった。そして、スネークは気が削がれたように溜息をして気が抜けた顔になり、タップは声の様子に驚いただけのようで、すぐに通信の向こうにいるシャドーの会話へ集中する。
「どうしたんだ?シャドー」
『タップ殿!?ご無事で!?』
「当たり前だろ!」
そういうば報告してなかったとスネークは思い出し、先ほどの情けない声から一気に嬉しそうに声を弾ませるシャドーに呆れ返る。それはタップも同じようで、苦笑しながらシャドーの相手をしていた。それからスネークは、会話に集中して忘れていた周囲の細かな状態の確認をして、話に参加して状況を進めていく。
「こっちの苦労も知らずに無駄に元気で居やがるから、安心してお前もさっさと脱出しろ」
『いやそれが・・、余りよろしくない事態になり申して、その・・』
それまでとは打って変わって突然の凄く歯切れの悪い言葉に、スネークは一瞬で表情を急降下させた。タップだけは、意味がわからずに首を傾げて通信の向こうのシャドーを気にかけながらスネークの様子にただ驚いている。
「・・俺は忠告したよな?」
『誠に申し訳ない!』
スネークとシャドーだけは通じているようなやりとりにタップは少しだけ不満そうに表情を変える。
「何がどうしたん?」
「お前のせいでシャドーがジリ貧になってんだよ、迎えに行くぞ」
その言葉と同時にスネーキーやサーチスネークが一足早く動き始め、続くようにスネークもココまで来た道を走りだす。それを見て慌ててタップが追いかけた。
「シャドー!今から行くから全力で隠れてろ!俺のせいでごめん!」
『いや情けない事に拙者の独断ゆえ、タップ殿が気負いなされる事ではござらぬ!しかし、より早めが喜ばしい状況ではござるな・・』
その微妙な言葉から、タップはやっと事態が飲み込めたらしく、最初よりもどんどん速度を加速させていく。そして、チラリとやや後方になったスネークを見て、先に行くように首を振る様子を確認するとタップも笑って頷き、更に加速していった。
【・・そういえばさっきの件、お前の休み1日俺に寄越せ】
「えー、蛇ちゃんの仕事代役とか面倒くさそー」
加速して離れてからすぐに思い出したように個別回線でスネークがタップへと伝えると、タップも動揺する事なく敵機を処理しながら向かいつつ会話に応じていた。忘れがちだったけれど、未だにしっかりと首元にはサーチスネークが必死にちゃんとくっついているため個別回線も更に作りやすかったらしい。
【うるせぇ黙って1日寄越せ!】
「・・わかったよ!俺も悪いと思ってるし、1日くらい交換してやるよ!」
少し納得がいかない様子で八つ当たりのように敵機を蹴り飛ばす。それから段々と中央に近づいてくると、シャドーが戦闘を繰り返した跡が見つかり、それを目印にタップは進んでいく。
【なら一週間後の休みで決定な】
「は?その日って・・、あれ?スネークも休みの日じゃね?意味なくね?」
加速して戦闘しながらだったものの、自分の先一週間のスケジュールはすぐにわかったので首を傾げながら言葉を返す。スネークは、通信の向こう側でニヤリと笑うだけで特別な反応は一切返さない。それがまたタップを困惑させていた。更に言葉を貰おうと口を開こうとすれば、割って入る様に専用回線から声が響く。
『まだでござろうか!タップ殿ぉお!』
『うるせぇ!少しは辛抱強さ見せろよクソ忍者!!』
シャドーの耐えかねるという声に間髪をいれずにスネークが瞬時に回線を切り替えてバッサリ切った言葉に、タップは移動しながら笑い出す。それは相手側にも伝わったらしく、それぞれの反応が返ってきていたが、更に笑いの足しにしかならなかった。
『今の状況を単機ではさすがに辛いでござる!』
『単機なのは、いつもの事だろうが!!』
「あはははッ!ぼっち忍者シャドー!」
『酷いでござるよ!タップ殿ぉおッ!早く加勢に来てくだされぇぇえッ』
泣きそうな声にも笑いを誘われタップの笑い声が止まらない。シャドーもシャドーで本気なのか冗談なのかわからない言葉ばかり並べ立ててキリがない。そんな中でスネークは、密かに回線をまた切り替える。
【とにかく一週間後、お前は俺が部屋に行くまで待機だからな】
「は?なんで?」
『む?どうなされた??』
思わずタップは切り替えるのも忘れて専用回線で喋ってしまい、慌ててシャドーに訂正してから回線を切り替える。その様子にスネークが笑っているのは雰囲気で理解出来ていて、タップは悔しそうにしていた。
【実はお前、不器用じゃねぇの?待機は追加の罰に決まってんだろ?】
「不器用じゃねぇし!つーか、マジかよ!?交換は別の日なのか!?その上に休みの日1日篭ってろって言うのかよ!?仕事あった方がマシじゃねぇか!!」
まさか追加が来ると思ってなかったタップは、動揺するのを隠さずに声に表し、実はまた転びそうになっていたのをなんとか堪えていた。ダンスを始め、動く事が大好きなタップにとって大人しくジッとしている事が仕事よりも苦痛なのは同じナンバーズなら誰もが知っている事だ。だからこそ、その仕打ちに動揺も大きい。
【俺が行くまでだからな?絶対に忘れるなよ?】
「くっそー!俺は大人しくしてるの大嫌いなんだからな!」
自分の落ち度があった手前、それ以上強く出れなかったらしく渋々タップは、追加の条件を飲む。それに対してスネークの声は、明らかに楽しそうになっていった。それがまたタップを不満にさせて、残っていた敵機も綺麗に八つ当たりの標的にされていく。
「覚えとけよ!スネーク!」
【あぁいいぜ?覚えといてやるよ!】
ニヤリとスネークは、笑った。
シャドーを回収した後、すぐに帰還し、任務中の詳細な報告を受けたニードルからまた説教を受けたのは言わずもながら。けれどそんな中で、普段なら一番悪態つくスネークが割と素直に説教を受けていた事に周囲は拍子抜けしていた。
ニードルでさえ逆に何処か不調な箇所があるのではないかと疑いを持ち始め、果ては説教の途中から気遣い始めたのだから明らかにおかしい事態だ。けどスネークの機嫌は終始変わらず、理由もはっきりしないまま不気味に解散となった。
「またドル兄に怒られたのに蛇ちゃん機嫌よかったな・・」
解放されてからスネークの足取りは軽く、スタスタといつもの調子ではあるが独りで先に帰ってしまっていた。残された形になったタップとシャドーは、のんびりと自室へと歩いている途中だ。
「スネーク殿については、如何なされたのか皆目検討もつかぬ」
話題はやっぱり怒られ説教受けた事よりもスネークの機嫌の良さだった。普段なら説教中の悪態から、説教後の八つ当たりがフルセットで行われるのにそれが無いと逆に不気味で仕方がない。タップもシャドーもそれを感じて戸惑うばかりだった。
けれど、ふとタップは、任務中に交わした約束を思い出して首を傾げる。
「例えばさ、休み増えるだけで嬉しいよな?十分だよな?」
「何を藪から棒に?普通ならばそれだけで喜ばしい事なのでは??」
「そうなんだろうけどさ〜」
タップの言葉にシャドーは、不思議そうに首を傾げ、タップも納得が行かない微妙な顔をしながら自室へと戻っていった。
一週間後、休みの朝にスネークがタップを迎えに行った事で真相が判明し、その後でまた3機が騒ぎ出して呼び出し食らい、お決まりな流れを展開させていた。
終
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七夕限定リクエストより
三馬鹿で蛇独楽寄り でした!
いつも無意識に影独楽寄りだったりするので新鮮でしたね。
確かに影独楽寄り書きすぎてた気もするのでこれからは蛇独楽寄りも増えしていけたらと思います。
何より三馬鹿大好きですね。書いてて楽しかったです。
突然のリク受付にも関わらず、お付き合い頂きありがとうございました!
また機会がありましたら、お付き合い頂けると嬉しいです。
2014.8.7