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それからしばらくして通信相手は人間らしい会話は、何回も交互に行われ、まるでタップを中継地点として会議を始めたかのように通信での会話が時には喧しく、時には淡々と進んでいく。それは今までのナンバーズの間では少し異様な光景で、バブルでさえ最初は興味よりも奇異に近い視線を投げていたくらいだ。
「よし完了!」
そう時間が立たないうちにスッキリとした声がバブルに届く。その声と共にすべての通信が終わったらしく、声色と同様にスッキリとした笑顔でタップはバブルを見た。バブルもまた声に気づいて、作業の手を休めて少し期待と戸惑いが混じるような顔でタップを振り向く。
「えっと、他の取引先に色々手を回して問題の取引先に一致団結の締め上げ開始したんで、これで明日には泣いて謝りながら納入させてくれって言ってきますよ!そこを先輩が好きに値切りまくっちゃえば完璧です!・・あれ?まだ足りませんか?」
スラスラと告げた言葉にバブルは、予想以上の内容である事を理解したからこそ反応がそこで止まってしまう。するとそれをまだ不満と捉えたらしいタップは、首を傾げて不安げにしていた。遅れてそれに気づいたバブルが、やっと言葉を探し出す。
「・・いや十分。十分すぎ。君、本当は出来る子だったんだね」
「今までなんだと思ってたんですか!」
ガタッと座っていたイスを鳴らさんばかりに勢いよく立って抗議するタップ。けれどバブルは、すぐにクスクスと笑い出す。それがまたタップに不満を募らせるらしく、猛抗議を開始してもバブルは笑っていた。
「なんだと思ってたと言われたら、うるさくて余計な事ばかりする馬鹿わいい子?」
「ばっ・・!?」
タップの言葉を遮るようにバブルがサラリと言えば、すぐにタップが反応して固まる。表情は驚いていたけれど、怒りからか恥ずかしいのか若干赤くなっていた。
「どうしたの?」
「え、いや・・馬鹿の後ろに何かついてたような・・」
平然として淡々と会話を続けるバブルに態とらしさが感じられず、尚更気まずい空気が流れる。立ち上がっていたタップも気が削がれたようにイスに崩れるように座り込み、視線を下へと泳がせて戸惑った様子。それを見たバブルは、満足そうに笑っていた。
「冗談じゃないから大丈夫だよ?」
「なんだ冗談で・・じゃないんですか!!」
「アハハッ、君の反応楽しいね」
焦ったようにタップが叫ぶとバブルも釣られるようにして笑い出す。それがまたタップの動揺を加速させて、いつの間にか顔を真っ赤にしてバブルを見ていた。
「笑わないでくださいよ!何より俺で遊ばないでください!!」
「本当に騒がしくて五月蠅いね。全然集中出来ないし、今日は暇しそうにないよ」
「1つも褒められた気がしません!」
少しばかり冗談にも聞こえない言葉が選び、相手があのバブルとなればタップも柄になくアイカメラに熱さを感じて、反射的に冷却水が流れそうになる。するとバブルは、すべてを理解してなのかわからないが、不思議そうに淡々と言葉を続けた。
「僕は褒めたつもりだけどな」
「じゃあもっとわかり易く褒めてくださいよ!回りくどすぎて新手のイジメかと思ったし、冗談じゃないなら俺マジ泣きしそうですよ!?」
少しばかり白々しさも漂わせながらも淡々とバブルが言うと、タップは必死に言葉で返していく。その様子は、バブルが相手という事で本当に泣きそうだ。
するとそれを見たバブルは、少し驚いた顔をしたけれど、すぐに元通りになり相変わらず淡々として言い放つ。
「君、元気で可愛いね」
「ッ!?」
さっきとは真逆のストレートな物言いに、タップは顔を真っ赤にさせ驚愕したまま硬直した。その大きなリアクションにバブルは、ついに声を出して笑い出す。するとそれが合図だったかのように硬直が溶けたタップが恥ずかしさを紛らわすかのように声を荒らげて抗議していった。
「だから!俺で遊ばないでくださいッ!!」
「でも面白いから約束出来そうにないよ、ごめんね」
「謝ってもダメです!!」
やはり何処か冷めたように淡々としてバブルは言葉を返す。でも勢いづいたタップは、構わずに言葉を続けていた。するとバブルは、クスクスと小さく笑いながらも満足した様子。
「まぁ、冗談はこのくらいにしておこうか」
「じょ・・、何処から何処まで!?」
また突然の切り返しにタップは、盛大に慌てて声を上げた。するとバブルは、今度は笑う事なく驚いた表情を作って不思議そうにタップを見ていた。
「え?君わからかったの?」
「うわ、その反応傷つく!今一番傷ついた!俺、傷心した!!」
さも理解している事が当然の如くバブルが返すと、律儀にタップが反応して頭を抱えながら作業台へと伏せてしまう。その一挙一動にバブルは楽しそうに笑っていたけれど、タップが気づくはずもない。
「本当に喧しくてアホで弄りがいあるね。しかも処理能力も早くて感情処理では意地悪いフラッシュに負けてないよ?」
「褒めてんのか貶してんのかマジわかんねぇ!!スネークがジリジリ嫌がらせすんのもわかる気がしてきた!」
ガバッと伏せていた上半身を起き上がらせながら叫ぶタップ。その言葉に更にバブルは笑いそうになり、堪えながらいつもの調子を意識して言葉を続けていった。勿論、態とでしか無い。
「やだな〜、僕はそんな嫌なやつじゃないよ。大人しくて優しいロボットだよ?」
「ニヤ付きながら言うとマジ説得力ないし!」
返すタップの言動も既にバブルという先輩に対する雰囲気もなく、普段の身内相手にするような態度にくずれていて、まず言葉よりもその状態にバブルは驚いていた。そのため反応が遅れて、タップが攻撃チャンスというばかりに口を開いて言葉で応戦していく。
「先輩は言葉で遊びすぎだし、俺で遊びすぎだろ!マジ俺傷心手前で頑張りましたよ!?つーか、そろそろ流石に疲れたんで最後までいじり倒すのはマジ勘弁!!」
「言葉やっと砕けたね」
「うぇ?!やべ、なんだかすみません!」
勢いよく喋っていたのが嘘のように両手で口を慌てて塞いで何事か大事な事に失態を犯したような慌てぶりでバブルを見た。するとその面白い行動にバブルは、ただキョトンとするだけで咎める雰囲気は一切感じられない。
「別にいいよ?むしろ先輩後輩で縛るのも変な感じと思ってたんだよね」
「・・ならバブルって呼んでも良いの?です、か?」
「うん、君はそれで良いよ」
今日一番の満足したという顔で、バブルは嬉しそうに笑った後、すぐに手元の作業へと戻る。その様子に少し拍子抜けしながらも、タップは未だに少し戸惑っているらしく、自分の口をなんとなく片手で塞いだまま、自分側の作業台のディスプレイに向き直り、一息ついてから口元に力を入れ、作業を再開した。
「もうさっさと仕事終わらせますから!!」
「残念だな〜、もう少し話さない?」
そんなバブルの思わせぶりな言葉にも屈することなくタップは、自分が出来る仕事に集中していく。その様子が今までとは違うと早々に気づいたバブルは、悪戯が失敗したようにつまらないという表情で自分の作業を再開した。
そして、珍しくタップが居る部屋なのにしばらくの間、作業音だけになっていた。
「おわったぁあー!!」
スッキリした口調と表情でいうタップの言動に違わず、それまで溜まっていた部品関系の仕事は解決済みになっていた。その手際の良さを改めて思い知らされたバブルは、いつものように冷静に感心していたようだけれど、何処かしら嬉しそうな雰囲気で、タップもそれを感じ取り満足そうにしていた。
「これでパーツ関係は全部クリア!」
「さすがに僕も驚いたよ。これはスネークへ丁寧に感謝を伝えないとね。結果的に大幅な利益ありがとうって」
スッキリと浮かれたような雰囲気のタップに冷水を浴びせるかのようなバブルの発言。当然ながらタップは、その内容の結果を瞬時に理解して表情を引き攣らせ、バブルは満足そうにしていた。
「それ本当にやったら大荒れだよ!?」
「望むところというか、ざまぁみろかな?君のお陰でスッキリしたけどね〜」
「うわ、良い性格してる・・」
バブルは最初ほどではないにしろ、まだ気にしているらしい。タップはそれを理解して苦笑いしていた。でもその苦笑いに嫌悪感は皆無で、バブルもそれがわかっていて何も気にしていない。
「でも君には本当に感謝してるよ?凄く助かった、本当にありがとう」
「こ、このぐらい任せて下さいよ!それにスネークが何かしなくたって、バブルの依頼なら苦にならないと思うし・・」
今までと違い、素直な物言いに逆に戸惑ったのかタップは言葉を少し詰まらせながらも嬉しそうに言い放つ。けれどバブルは、その言葉を聞いた途端一瞬だけ不満そうな顔をし、タップが首を傾げるとすぐに表情を戻す。
「・・・それを先に言えばいいのにね」
「はい?」
ボソリと言った言葉はタップには聞こえなかったか、今一聞き取りにくかったのか。タップのキョトンとする様子にバブルは一安心しつつ、何事もなかったように淡々といつもの調子を取り戻す。
「なんでもないよ。君はやっぱり、出来る子だけど馬鹿だね。残念な感じだね」
「ェエ!?上げて下げるとか酷ぇ!俺頑張ったのに!」
溜息混じりに言えば、素直に受け取ったタップがコロコロと表情を変えて訴えてくる。その様子にまた笑いそうになりながらもバブルは「そんなだからスネークがしつこいんだよね」などと呟いていた。
それはさすがにタップに聞こえていたけど、本当の意味を理解出来なかったらしく首を傾げるばかり。それを確認して束の間の苛立ちが吹き飛んだバブルは、クスリと笑う。
「代わりに今度何かあったら僕を頼ってくれて良いよ?」
「え?」
突然、話が飛んだような雰囲気に戸惑っていると、バブルは構わずに言葉を付け足していく。本人は無自覚でも今回の仕事量は、本来必要な期間を一週間以上省略してしまうくらいの効率が出ていた。
「社交辞令じゃないからね?今回の働き具合ならお釣りを払わないと僕がスッキリしないんだよ」
バブルの意外な言葉にタップは、キョトンとしていたものの、すぐに理解して嬉しそうに笑い出した。バブルもその様子に一先ず安心したようにタップの言葉を待っていた。
「それなら次の機会に頼りますよ?本当に良いんですよね?」
「望む所だよ」
そして、珍しく笑いあった。それから今回担当した仕事の後片付けをタップが始め、その様子をバブルは気付かれないように終始観察していた。
「他の誰でもなく、僕を指名してくれる事を期待してるよ」
「ん?呼びました?」
ポツリと呟いた言葉にタップが手元を動かしながらも少し振り向くと、バブルは動揺する様子もなく言葉を続ける。
「次が楽しみだって言っただけだよ」
それに対して疑う事もなくタップは笑って応えた。
終
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七夕限定リクエストより
泡独楽/日常ほのぼの でした!
私のほのぼのの感覚で良いのか悩みつつも、出来るかぎりの妄想と心を込めて!
リクエスト、どうもありがとうございました!
また機会ありましたら、お付き合いくださると嬉しいです。
2014.8.7