:三馬鹿
:蛇独楽寄り
DWNでは特別な場合を除き、大抵は通信とデータで済ませる。
それは任務を受ける時も同じ事で、博士が承認したものや直々に下したものなど手元にくるまで様々なパターンがあるにせよ何も変わらない。
けれど今回の任務でタップ、スネーク、シャドーが呼び出しを受け、しかもリーダー機と博士が揃っている会議中の部屋に通された。
さすがに呼ばれた面々の表情も気まずいもので、その横一列に並んだ3機の正面を陣取るニードルの怒りを現した顔が尚更周囲の空気を重くしていた。
「今回の任務は基本全部テメェらに回すが、余計な事すんなよ?」
何事かと思えば単なる任務前の注意。すると3機の雰囲気が目に見えて緩む。けれどそれに反比例するようにニードルの表情が険しくなっていった。それを見て体裁を取るように3機も引き締め直したものの、やっぱり最初よりは緩んでいて、ほぼ普段の雰囲気のまま緊張感は吹き飛んでいた。
「ドル兄が凄ぇ迫力なんだけど、お前ら何かやったの?」
「お主らが何か仕掛けたのでござろう?拙者を除け者とは!」
「誰がクソ面倒な任務前にクソうぜぇ野郎相手にすんだよ!ふざけんなよクソ忍者!」
三者三様とでも言える反応をして、ニードルの睨みも一切眼中にないかのように、いつもの調子で言葉をかわす3機。するとニードルが我慢も限界のように怒鳴りだす。
「真面目に聞け!!俺が言ってんのは余計な事して暴れすぎんなって事だけだろうが!!それ以上無駄口叩くと針鼠以上に針ぶっ刺して穴だらけにしてやるぞテメェら!!」
ジャキンというニードルの脅しのようなセーフティ解除の音に、3機の顔色は今日一番変化した。タップとシャドーは表情を引き攣らせ、スネークでさえ弱点関係からか顔色が悪くなっていて、さすがに部屋の中が静まりかえる。
「・・ッ、ワハハハハハッ!お前たちの顔、傑作じゃのう!」
でもそこで助け舟のように、堪え切れなかった博士の笑い声が響いて、途端に部屋の空気が柔らかくなった。ブチギレていたはずのニードルも博士の声に気が抜けたように振り返ると、円卓の奥に座り未だに笑う博士が居る。そして、その左右にはメタルとグラビティーがいつもの席に座っていて、それぞれ驚いたり呆れたりの反応をしていた。
「とにかく今までをしっかり反省して任務に当ってこい。以上、解散!」
博士の笑い声を後ろにして言うニードルに先ほどの怖さや凄みなど皆無で、タップやシャドーは笑いに釣られそうになり、ニードル自身も非常に気まずそうにしながら中途半端なうちに解散となった。部屋を後にした3機は、そのまま任務のために足を進めるものの、口元は笑っている。
「今日もまた怒られたけど、さっきのマジ笑える!博士さすがだろ!」
「確かに愉快であった!しかしニードル殿も心配なされての事。仕方があるまい?」
「だからウゼェって話だろ」
軽い足取りでスイスイと滑るタップが先行し、クルリと進行方向へ背を向けながら後ろを歩くシャドーとスネークを見た。それに慣れたようにシャドーも気にした様子なく会話していたが、スネークの簡単すぎる言葉にタップは吹き出し、器用にそのままの体勢で滑りながら声を出して笑い出す。
「アハハハッ!簡潔に平たくし過ぎだろ!スネークだけまた怒られるぞ!」
「スネーク殿が一番わかっておられぬのでは?」
「うるせぇ!テメェらより何倍もマシだ!」
タップだけでなくシャドーも口元に笑みを見せてスネークに視線を送ると、スネークは苛立ちを見せながらも顔を背け、しかも目線の伏せがちだった。その微妙な変化を見て笑っていたタップがピタリと笑うのを止めて何か思いついた顔をしながら滑り続ける。
「あ、もしかしてドル兄の武器怖かったんじゃね?」
「なるほど弱点でござったな!」
まるで新しいネタを見つけたように楽しそうにタップがスネークを見ながら言うと、シャドーが素直に反応し納得していた。それだけの会話だったのにピクッとスネークが反応し、目に見えて様子が悪化していった。けれどそれまで察して自重するほど大人しい2機でもなかった。
「いくらでも慰めてやるぞ蛇ちゃん!」
「さぁ拙者らの胸に!でござるな!?」
器用にまた滑りながらも両手を広げて笑うタップ。それに続くようにシャドーも悪戯心たっぷりに真似して両手を広げていた。その直後スネークの足が止まり、伏せらていた視線がゆっくりと持ち上がる。
「テメェら・・、任務前にリペアルーム行っとくか?」
独特の擦れるような音とスネークの左手のバスターに添えられた右手を確認してタップとシャドーは、笑いながら走りぬける。それを気にする事なくスネークが追撃していき、いつもの騒ぎに発展して再度ニードルに呼び出しを食らってからの出撃となった。
任務先は、よくある郊外の工場。
敷地内には警備ロボットが巡回しており、監視カメラも多数ある。それに赤外線センサーなどもアチコチに設置してあり、内部システムもかなり強固にセキュリティ構築している。だから単純な戦力よりも面倒臭い監視体制が全面に出ている場所になっていた。
それを同じ郊外にある近くの適当なビルの一室を勝手に拝借して機材を持ち込み、中の大体の状況をディスプレイに写し確認していく。既にサーチスネークが数体潜り込んでいるが、さすが問題ないらしい。そして部屋の中は、カーテンで仕切られ薄暗く閑散としているのに、一点に機材が集中しディスプレイなどの光とアイカメラの光で怪しい雰囲気になっていた。
「そろそろ状況開始するぞ」
ディスプレイを見て操作していたスネークが一言いうと、待っていたとばかりにシャドーとタップが軽く関節の可動範囲確認と武器の出し入れ、ブレーキの最終チェックをしはじめる。それをチラリと確認してからスネークは、2機と違ってディスプレイに集中していく。
「お前ら絶対無駄な事すんなよ?」
いつもの決まり文句のように言われる言葉にシャドーとタップは、口元で笑みを作るだけで特に懲りた様子も不安な様子もない。あるのは戦闘を前にした高揚感のようなもの。
「重々承知しているが、不測の事態では仕方なかろう?」
「だから逐一報告しろって言ってんだ!勝手して報告も無しじゃ調整できねぇだろ!」
少し強めに苛立つ口調で2機を振り向きながら言うと、立ち上がってパーツ確認していたタップとシャドーのポカンとした間が抜けた顔とぶつかり、スネークの機嫌がまた悪化していく。すると遅れて2機の表情が明るいものへと変化した。
「さっすがスネーク!頼りになるー!」
「頼もしいでござるな!」
「うるせぇよ!!さっさと状況開始しろクソ忍者!!」
珍しくわかりやすいぐらいの褒められた事へのスネークからの照れ隠しの返しに、2機は笑いながら対応し続け、痺れを切らしたスネークが立ち上がってシャドーを部屋から蹴り出そうとした所で、やっとシャドーが黒い影に溶け込んで消えてしまった。
スネークが蹴れなかった事に舌打ちすると横で見ていたタップは抑えること無く笑っていた。
なにもない所から突然、シャドーが降り立ったのは、工場敷地内でも一番高い施設の屋上。そこはスネークの能力でカメラやセンサーを掌握済であり、敷地内をよく見合わせることが出来る場所だった。そこからある程度の戦闘をこなしながら脱出するだけの余力を残し、囮役のため暴れるにはどうしたらいいかと瞬時に計算し、本格的に各プログラムも臨戦態勢となれば気分も益々高揚していく。
「さて、久しぶりに少々手荒く参ろうか」
ジャキンと音がした両手には既にシャドーブレードがあり、眼下の獲物を見定めていた。そして、音もなくそこから消え、開始した合図のように何処からか爆発音と警告するサイレンが鳴り響きだした。
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