こままわし
:泡独楽
:日常ほのぼの
:泡が独楽で遊んでるかも



珍しい組み合わせが本来いるはずのない場所を通っていた。
偶にすれ違うジョーたちもその姿に驚いていたけれど、すぐに会釈したり個々の反応を見せる。それに対して反応された方も細かに反応を返していた。それがまた珍しくて、ジョーたちは少なからず動揺しながらも見送っていた。
1st専用の生活区域に別のナンバーズであるタップが、バブル専用のボムフリャーの改造リフトを使っていれば誰でも二度見ぐらいするかもしれない。

「こんにちはー!」

タップがリフトに乗ったまま到着したのは、部屋の半分以上がプールの水面になっている部屋。誰も見当たらない事に対して焦る様子もなく、そのまま水面へと近づいていく。

「まだ底かな?・・バブルせんぱーい!」

リフトに腰掛けて足を投げ出したまま、水面を覗きこむ。するとリフトもプールに臆すること無く水面をフワフワと移動していた。
しばらくプールの水面を覗きこんだまま移動していると、ゆっくりと水の奥から見慣れた緑が浮かび上がり、水しぶきを上げないように静かに顔だけ出した。

「どうして君がココに居るの?」
「あ!こんにちは!コイツのメンテ終わったんで頼まれた部品と一緒に来てみました!」

プールの主であるバブルが呆れた顔で出迎えたのにも関わらず、タップは嬉しそうに笑い、リフトから乗り出して部品の入ったケースを抱え、バブルへと見せた。すると更にバブルは溜息をしたように呆れ顔で首を振る。

「届けてくれるのは良いけど、落ちたらどうするの?もう少し考えて行動してくれる?」
「あ・・やべ」

そこで始めてリフトに腰掛け投げ出されている足が水面に思っていた以上に接近している事に慌て始める。それを感じ取ってかリフトも速やかにプールサイドの奥へと戻っていった。それを確認してからバブルは、少し潜り上昇する勢いをつけてプールサイドへと乗り上げ、そのまま座り込む。水しぶきが落ち着くと、リフトを降りたタップが近づき、リフトもそれを追うようにフワフワと後ろに付いている。

「ほんとスミマセン!不用心でした!」
「そんな考えなしでよく今まで無事だったよね」

素直に謝っても呆れたような冷めた口調が返ってきて、タップは苦笑する。
するとそうしている間にリフトが痺れを切らしたらしく、本来の主に擦り寄るように近づき、バブルに乗れと言いたいのかプールサイドへと反重力を切って着陸する。それを見てバブルも慣れたように腕の力だけで器用にリフトへ乗ると、すぐに反重力が効いて浮かび上がった。バブル専用だけあって海水にも強い作りになっているらしく、動作に何も問題ない。

「一応言っておきますけど普段なら大丈夫です!あとコイツの試運転で少し浮かれてただけで!本当に偶然なんで!」
「へー、そうなんだー」
「うわっ、全然わかってもらえてない!」

慌てたように部品の入ったケースを抱えながらも言葉を返していったけれど、バブルに効き目なし。むしろ最初から聞く気がなかったらしく、やっと返ってきた返事も棒読みだ。
それにはタップもショックを受けたようにコロコロと表情を変えていく。するとバブルは密かにクスリと笑う。

「話はそれぐらいにして、先に作業部屋に部品届けておいてくれる?僕はシャワー浴びてから向かうから」
「あ、わかりました!」

つい先程まで言葉を一生懸命に並べ立てようとしていたにも関わらず、バブルの言葉にすぐに反応して何事もなかったように素早く部屋を後にした。その様子にバブルはまたクスリと静かに笑っていた。
管理棟でなくとも生活区域内にも簡易的な作業部屋があったりする。それでも使いそうなフラッシュは管理棟に行ってしまうし、他のナンバーズも特別使うような趣味もないので専らバブル専用になりつつあった。

それから言葉通りにバブルがシャワーを浴びてから作業部屋へと到着すると、タップは部屋の物珍しさに色々見て歩いていたらしく、ドアの開閉音に驚いたように振り向き慌てて姿勢を整えていた。その一つ一つの動きが微笑ましくなり、バブルはクスクス笑うけれど、それを勘違いしたタップはまた言い訳を並べていく。でもやっぱりバブルは、綺麗に流すだけで意味がなく、タップは少し不服そうにするばかり。

「それにしても早かったね。もう少しかかると思ってたのに・・」

頃合いを見て話題を切り替えるように、バブルはリフトに腰掛けたまま数個ある作業台の1つを選び、その前に行く。するとタップも心得ていたようにパーツの入ったケースを作業台へと置いて開いてみせた。中には緩衝材にキッチリと包まれた部品が収まっていた。
そして、それを手に取るバブルを見ながらタップは首を傾げた。

「俺は頼まれた部品を普通に手配しただけですけど、早かったですか?」
「あぁ違うよ。君に頼んだ部品じゃくて、この子だよ」

苦笑したように少し表情を変えて、バブルは自分が腰掛けているリフトを指さした。するとタップは益々首を傾げて不思議そうな表情をする。

「え?でも別に急ぎの件でも無かったはずじゃ?」
「そうなんだよねぇ」

作業台前の三面に広がるディスプレイの正面側にリフトのメンテ依頼などのデータが流れる。その依頼日と今日までの日数は、まるで緊急事項が絡む時の日数であり、普通ならありえない。それはタップにもすぐ理解出来たらしく、微妙な表情をしながらも考えを巡らせていく。

「そういえば、なんでメンテをウチに?反重力はグラビティーで仕方ないですけど、他は先輩も可能ですよね?」

タップが今更の話題を口にして、今回の早期納品の件を考えていたバブルは気が抜けたように溜息をしてから、ゆっくりと呆れた表情引っ提げて振り向いた。その時には、さすがにタップも余計な事を言ってしまったと自覚済みで、居た堪れないようにバブルへ苦笑いを返す。

「元々この子がボムフリャーの改造だからだよ。君の方が僕より詳しいでしょ?」
「え!?見たことあると思ったら改造か!中身ミサイルじゃないと可愛いなお前!」

本当に知らなかったらしく、バブルの言葉に飛び上がるように驚いたと思えばすぐにバブルが腰掛けるリフトの目線に合わせてフワフワした特殊加工の部分に両手で触りだす。ボムフリャーの時と同様に、ちゃんとアイカメラが残っているので少しの感情表現が可能でもあり、タップの容赦ない触り方に少しだけ不満を表していた。
そんな一部始終を見て、バブルは素直にタップの反応に驚いていた。

「何も知らないの?兄弟機の事なのに?」
「そりゃどういう能力とかスペックは知ってますけど、技術転用とかはあまり・・」

タップは、無知の恥ずかしさを誤魔化すように苦笑しながらリフトを触るのをやめて立ち上がる。その様子に特別変わった雰囲気もないので、何か隠している様子もなく、本人の言う通りらしい。

「凄く意外だね。君なら色々知ってるかと思ってたよ。バブルリード1つでもスネークと関係深いんだけどなー」
「だから買いかぶり過ぎです!」

何度目かのやりとりでもめげずにタップは、言葉で否定する。するとバブルは、飽きたのか特別反応もせずに「そうかなー」と流して、ディスプレイに広がるデータを眺めていた。

「まぁとにかく話がズレたけど、問題は今回の異常な早さの原因だよ」
「そんなに問題ですか?」

未だによくわかっていないタップにバブルは深い溜息をついた。
今までの話から原因を予測できるはずなのに、今の話題へと結びつける事ができてないらしい。それを察して更にバブルは呆れる。けれどそのままでは話が進まないので、諦めて口を開いた。

「君の厄介な兄弟機とグラビティーでわかるでしょ?」
「あぁ〜・・」

やっと合点が言ったらしく、気まずそうにタップは目線を泳がせた。けどそんな様子もお構いなしにバブルは、キーボードを叩きディスプレイに三面すべてを使って必要なデータを並べていく。

「時間が必要な理由がそれなんだけど、こうも早まったという事が不気味だからね」
「確実にスネークだ。絶対アイツなら嫌がらせに何かやりかねない・・」

その言葉にはバブルも同意らしく、頷きながら作業を続けていく。
今回メンテを担当したのが2機いるのにスネークと決めつけるのは、彼自身がそもそも問題という事だが、もう片方のグラビティーも特に良くも悪くも余計な事せず、期日通り厳守なので特別な依頼もなければ急いで納品するなんて事はありえなかったりするからだ。しかもスケジュール通り動くのが好きらしく、突発的な事に対しての対応が容赦ない。
そこへ調度良く、手紙のアイコンがディスプレイの端で光った。
バブルが迷わず開くと送り主は、グラビティー。そして、その内容にバブルは溜息をもらし、それに気づいたタップも遠慮がちに覗きこむと内容を理解した途端に表情を引き攣らせた。

「確定したね。グラビティーから急がされた事への不満を表す容赦ない依頼が来たよ」
「スミマセン!アイツの代わりって事で迷惑かけた分、俺が手伝います!!」

内容は面倒な部品調達や戦闘任務を1stへ押し付けるなど色々な事が盛り沢山。戦闘任務は別にしても部品調達でならタップも可能な事が多い。勢いのまま名乗りでたもののバブルは淡々としていて、見た目だけじゃ許してるのかないのかもわからず、タップは緊張した面持ちでバブルの反応を待っていた。

「手伝いは助かるけど、腹が立つのは変わりないかな〜」
「で、ですよね・・」

表立って怒り出さない分、中で何を考えているか計り知れないのでタップの表情も随分硬い。そして、これからバブルが容赦ない仕返しに立ち上がった場合、最悪ナンバーズを跨いでの大騒ぎにならないとも限らない。
いよいよ次の言葉が見つからずタップが困り始めてくると、いつの間にかバブルは笑っていた。

「でも、君の頑張り次第で気が紛れるかもしれないよね?」

その言葉にしばしポカンとマヌケな顔を披露してから、すぐにタップは頭の中を切り替えて元気良く返事をする。その様子にバブルは、珍しく満足そうに笑っていた。


それから気持ちを切り替え、作業部屋の作業台の1つにバブルがリフトに腰掛けたまま陣取り、細かい部品を扱って組み立てなどの作業に取り掛かり、別の作業台ではディスプレイとキーボード、手元の資料などと睨み合いをしてるタップの姿があった。

「先輩、このパーツの納入遅れてるみたいですけど何かあったんですか?」

ほとんどの部品は、定期的なもので何も問題なく処理出来るものばかりだったけれど、数件特別な仕様だったりして納品の遅れなどが目立つものがあった。確認のためにタップは、データをバブルのディスプレイにも表示させて振り向く。するとバブルは、さして驚きもせず納得していた。

「あぁコレね。何か知らないけどウチの足元見て渋りだしたんだよ。近々クイックかクラッシュあたりに挨拶しに行って貰おうか考えてたところだね」
「その名前の並びだけで既に物騒すぎる!」

問題の案件だったらしく、部品調達には余り適正ではない名前が並べられて慌ててタップは、椅子ごと振り向き話に食いついた。けれどバブルは、平然として手元の部品組み立ての作業に戻っていた。

「ただの挨拶だし、もしくはフラッシュが良いかな?どちらにしろ『挨拶』ぐらい問題ないでしょ?」

最後に「挨拶」の部分を強調するあたり、態とらしい。その意図を理解したタップは、表情を引き攣らせる。そして「挨拶」に行ったら更に揉めるだろうというのは簡単に予想がついた。渋っている相手の詳細を調べていくと、特殊な部品を担当しているらしく、他の部品関係の組織とも繋がりがあるのが理解出来た。
しかも本当に特殊な部品であるため、世界規模で希少。他となれば敵側の生産者に新たに交渉するしかない。それは今回以上に厄介になる事、間違いない。

「あはは・・なるほど、確かにこっち側の足元見てますね〜」
「君でも心込めてご挨拶に伺いたくなるでしょ?それが普通だと思うよ」

バブルの早々に諦めてクイックやクラッシュを出向かせる気なのは、ある意味仕方なかったとタップも理解する。でも更に詳細データを調べてから、自分の知ってるデータと合わせていくと面白い事に気づいて段々と表情が明るくなっていった。

「それでコレ、今すぐ必要ですか?」
「出来るだけ早く欲しいんだけど、妥協したくはないね。だから早く挨拶に伺いたいかな」

淡々としてる返答にも少しばかり苛つきを感じて、本当に手を焼いているのが感じられた。タップは、その様子だけで満足したようにバブルを見てからすぐにディスプレイに向き直ってキーを慣れたように打ち込んでいく。

「じゃあ今、サクッと終わらせます!」
「え?そんな事できるの?」

ハッキリと通るように言われた言葉でも予想外すぎる言葉だったらしく思わず聞き返してしまうバブル。その手元を動かすのも忘れていて、タップを振り向くも、そこには自信たっぷりに笑うタップが居た。

「俺に任せて下さいよ!こういうの得意なんで!」

既に勝利を確信したからなのかピースサインで自分をアピールするタップにバブルは呆れた顔をしていた。それに半信半疑だった事もある。けれどタップは、そんなバブルの様子もお構いなしにディスプレイに自分の管理してるデータを表示させてから各方面へと通信を開いていった。

「もしもーし?オバちゃーん?げんき?そうそう独楽だよー!あっははー!」

その突然の会話と元気の良い声の変わり様にさすがのバブルもギョッとしてタップを見ていたのは言うまでもない。

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