:水星重力
:デレる重力
その日も変わりなく、グラビティーは、管理棟に独り篭ったまま只管コンピュータと向き合い仕事をこなしていた。偶に様子見に現れる同ナンバーの兄弟機を軽く追い返したり、逆に引きずり出されて休息を余儀なくされたり、何も変わらない。
そして、また日常化し始めてるうるさい足音がドアの向こう側から響いてきて、部屋の前で綺麗に止まる。更にはロック解除申請もなくドアが独りでに開かれた。
そこに立つのは、特徴的な緑と見慣れないデザインのロボット。
「グラビティー!!」
その声が聞こえると同時にグラビティーは、イスに座ったままで振り向きざまに手元にあった必要ない紙媒体の資料を丸めて訪問者めがけ軽く投げた。普通ならば、失速して届く前に落ちたり、届いたとしても相手に当たって跳ね返り床に転がるだけ。
でもその時は普通ではなかったらしく、紙くずは豪速球のようにグラビティーの手から飛び出して慌てて避けた訪問者後方にあるドアへ「ゴンッ」という不気味な音を立ててから床へ普通の紙クズのように音も無く落ちた。
そのせいで更に騒ぎ立てる緑の訪問者にグラビティーは、振り返ったまま更に不機嫌な表情になる。
「なんで避けるの?」
「避けるに決まってんだろ!まったく俺がわざわざ来てやったのに!・・あ、また照れてるのか?なら仕方ねぇよな!」
当然の事のように言い放つ。迷いも含みもない分、一瞬正しいような感覚と清々しささえ覚えるが、それで誤魔化しきれるはずもない。グラビティーは、ため息をしながらイスから立ち上がって緑の訪問者に向き直る。それから徐々に薄紫の光を纏い始めて睨み返した。
「君の妄想はいつになったら終わるんだろうね?」
「まてよ!今日は、連れて帰ろうって話じゃない!」
さすがに見慣れてきた紫の色を見てこの後何が来るか理解して焦ったらしい。するとグラビティーも今までなかった言葉を聞いて、不意に気になったのか、薄紫の光が段々と収まり、首を傾げて見ていた。
それを聞く入れる意思ありと確信した緑の訪問者は、また強気に言い放つ。
「よく聞け!今度俺とデートしろ!!」
「グラビティーホールド」
間、髪をいれずに即発動させて緑の訪問者を床へ押しつぶした。今までの経験から、相手が液体状になれる事も知っているので容赦無い。現に割と大きな音を立てて床にたたきつけられたのにかかわらず平然と声を上げて抗議している。普通のロボットなら潰れて既に壊れているレベル。
「潰すなああ!こんな抵抗しても絶対に迎えに来てやるからな!次こそ素直になれ!」
「素直だから!もう気が済んだでしょ?邪魔だから、帰って!」
その言葉と同時にグラビティーは、出入口のドアを遠隔で開け放ち、グラビティーホールドで緑の訪問者に対する重力方向を変えて、部屋の外へと落とすように叩きだす。通路の壁に打つかって床に落ちたのを確認し、また騒いでいる間にドアを閉めてロックした。
しばらくドア越しに何かわめいていたけれど、すぐに静かになり、グラビティーは一息ついてから作業を再開させた。
それから少しもしないうちにロック解除の申請が来る。念の為にID確認しながら解除する。やって来たのは、スターだった。
「なんか凄い音がしたけど、何かあったのかい?」
「え?アレ見なかったの?」
不思議そうに訪ねてくるスターにグラビティーも驚いて逆に聞き返す。スターは話が見えないという様子で更に首を傾げていた。
「誰か来てたのかい?」
当然の質問にグラビティーは、答えようとしたけれど、呼び名も何も決めてなかったので一瞬言葉に詰まり、本当の名前さえ覚えてなかった事に気づく。その反応の遅れにスターは、更に不思議そうにして、なにか言いたげだったものの、遮るようにグラビティーが口を開く。
「緑のロボットだよ」
「ジャイロの事?あ、管理棟だからスネーク先輩?だったら見かけてないけど」
平然として言い放つスターから裏を感じさせない。態とらしく見なかった振りなんて考えられない。そんな様子にグラビティーは、スターを見ながら難しい顔をして黙り込んだ。なので更にスターは、首を傾げて「どうしたの?」と聞くばかり。
「・・なんでもない。それで君は、何しに来たの?」
「あ、そうそう!頼まれていた、次の任務地について天候への注意事とか詳しく説明しに来たんだよ!」
切り替えるようにグラビティーが言えば、その雰囲気を読み取ったかのようにスターも本来の用事の話題に移る。手持ちの資料をグラビティーの隣に来て広げ始めるので、グラビティーは、場所を占領していく様子に面倒くさそうな表情をした。
「通信にすれば良いでしょ?君って、効率悪い事好きだよね」
そんな少しトゲのある言葉にも、スターは、慣れたように笑っていた。
戦闘任務当日。激しい雨に見舞われていた。
今回の任務による戦闘地域は、森が主体であり、岩場や崖、小さな川などがあるばかり。目的は、その地域にある研究施設の破壊。けれど妨害や抵抗も本格的で、やや押しているものの森の中特有の悪路と悪天候が相まって簡単に辿りつけず、戦況は油断出来なかった。
そんな戦闘地域になったDWN側の後方では、本部が設けられて天幕など張り、カモフラージュを施して隠れた空間を作り出していた。
「急な気圧変化、雲の動き・・スター君が言ってた最悪な場合が来た感じだね」
天幕の下、設置された本部の中でもその中心としてある場所。そこでは、最低限の機材に囲まれてコードまみれの場所でモニターを睨むグラビティーが居た。その近くではメデスも補助のためにせっせと動いて新たな配線確認やデータ処理の雑用をこなしていた。
最悪というのは、天気が良かったこの一帯の空が一変して雨雲に覆われて勢い良く雨が降り始めた事。本部で控えていたロボットたちなどは、天幕の下へ逃れたりしている。
『グラビティー、一旦帰還する』
「どうしたの?補給?」
そこへ不意にナパームから通信が入って作業を中断する。全員の補給予定時間を把握しているので不測の事態に警戒するようにナパームの言葉を待つ。
『雨だ。中途半端は、燃費悪い。補給と装備一新用意頼む』
「わかった。気をつけて戻ってね」
まるで通信の声を邪魔するかのように雨は強くなっていった。天幕も雨の影響で水がたまったりすると落ちて意味がなくなるので、また専門のロボットが忙しなく補強へ動いている。
そして、返事をしながら早くもグラビティーは、メデスにリストを転送して用意させに行かせていた。
『周囲警戒は任せ・・ッ!?』
「ナパーム君?どうしたの?ナパーム!?」
それは突然通信に不気味な音を紛れ込ませて、ナパームの声をかき消していく。予想外の音にグラビティーも珍しく焦ったように声を荒らげて名前を呼ぶと、AI持ちの他のロボットたちも驚いた様子で確認しにやって来ていた。
『・・悪い、俺は大丈夫。土砂崩れだ。部隊の一部損害、進行方向塞がれた。立ち往生してる』
そのいつもの変わりない声が聞こえてきてグラビティーは一安心したように普段と変わらない様子に戻る。周囲もそれは同じで、グラビティーが気づいて視線を投げると逃げるように持ち場へ帰っていった。
「驚かせないでよ。とにかく今から助けに行くから、絶対敵に見つからないようにしててね?」
『了解』
その通信を終えるとグラビティーは、今までしていた作業をまとめあげて引き継ぎやすくする。そして、必要なデータを機材から抜き出して自分へと保存していると、調度良くメデスがリストに上げられた補給の用意が出来たらしく、報告へ戻ってきていた。
「グラビティー様?どうされましたか?」
「ナパーム君の所行ってくるから、あとよろしくね」
平然と行ってのけて機材を指さしてメデスを通り過ぎる。そして、会話しながら救出へ向かうための部隊を本部に待機するロボットから選び抜いて招集の合図を送る。必然的に本部は、慌ただしくなり、それに押されるようにメデスも慌てた様子で天幕の下から出るグラビティーを追いかけた。
「グラビティー様ご自身が向かわれるのですか!?」
「土砂崩れなら僕の反重力で一気に作業した方が効率がいいよ。反重力の専用機材も他に持ってきてないし」
引き止めるためなのかメデスはグラビティーの前へ回りこんでしまう。当然、立ち止まることになってしまったグラビティーは、嫌そうな顔をしてメデスを見ていた。周囲には、既に部隊として招集を受けたジョータイプのロボット8体が綺麗に列を作って待機している。
「退いてくれる?君には他にやる事あるでしょ?」
「ですが、グラビティー様が向かわれるのは・・」
そこが納得いかないらしく、話の歯切れも悪い。するとグラビティーは、呆れた顔をしていた。
「立ち往生してる時に囲まれたらナパーム君たちでも危ないでしょ?これは緊急事態だよ?他に方法ないのに出し惜しみする暇あるの?」
「申し訳ありません。本部は我々にお任せください。無事のご帰還お待ちしております」
やっと引き下がって最初動揺に慌てた様子で前から飛び退くように下がるメデス。グラビティーは、それを見てやっと機嫌を直し、メデスや他の待機するロボットに見送られて本部からナパームの居る土砂崩れの場所へ向かう。
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