リクエスト:のんびりする蛇独楽より
いつもの管理棟にある1st専用の部屋でフラッシュの他にスネークの姿もあった。
それぞれ手元が忙しなかったが、スネークの方はキリがいい所まで仕上げると資料や手荷物を揃えてからそれを抱えると迷わず席を立つ。
「じゃ、コレで失礼します」
「あ?別にココで作業してけば良いだろ。機材揃ってんだ」
スネークの突然の言葉にフラッシュがイスに座ったまま振り返って提案するが、乗るつもりは更々ないらしくスタスタと出入り口まで歩いて行く。フラッシュは呆れつつも目線だけで見送っていると不意にスネークが出入り口前で立ち止まり振り向く。
「誰か居ると・・いや先輩が居ると気が散るんで」
「せめて誰かの方を強調しやがれっての」
最早恒例となっている憎まれ口にフラッシュは慣れた様子で軽く流す。それでも表情は呆れの中に少し憎たらしさがあり、変わってスネークの方は確信犯らしくニヤリとした笑みを浮かべているようにも見えた。
「とにかく自分以外が同じ部屋に居られるとうっとおしいんで自室戻ります」
「へいへい、おつかれさん」
それ以上の会話は無意味だと理解したのかフラッシュは早々に座り直して軽く手を振って挨拶する。スネークは特に反応を返す事なく管理棟を後にした。
そして、基地内を探索しているサーチスネークたちも自室へ帰還するように指示を送る。その中で1体だけ様子がおかしいモノがあり、小さく舌打ちして早めに自室へ急いだ。
スネークが使っていた通路とは別の通路には歩くよりは少し速いスピードで滑走するタップの姿。
珍しく丸一日非番になった彼は時間を潰す方法が見つからずに適当に滑って歩いているらしく、偶に同じ通路を通ってぐるぐると基地内を移動していた。
残念なことにいつも相手になるハードやシャドーも非番ではなく、他の同ナンバーズも同じような状況だ。
「あれ?サーチスネーク?」
何週目かというところで前回通った時には居なかったはずのサーチスネークが通路のド真ん中に居座りピクリとも動いていない。当然何も目的もなかったタップなので何かを見つけた事で一気にそちらへ集中する。
「何してんの?こんなとこで」
直ぐ目の前まで滑り寄って行き、屈みこんで話しかける。普段なら「ピ」でも「キュ」でも機械音で何かしら返事のようなモノを返すがそれが一切ない。ソッと人差し指で突っついてみてもタップが突っつくタイミングで揺れるだけで何も反応しない。
「サチスネちゃーん?」
今度は堂々と手の平で撫でるも意味なし。何かを諦めたかのようにタップはサーチスネークを拾い上げてサーチスネークの顔を覗きこむように見た。
「サッちゃーん・・?」
無反応なのは明らかで、目線を合わせるように持ち上げて見つめてみても何も変わらない。しばらくそのままで考えてからスッと立ち上がる。
「蛇ちゃんとこ行くか!確かそろそろ終わるはず!」
一方的にそう宣言してから満足そうにサーチスネークを本当の生き物かのように軽く抱きかかえてスネークの自室へと向かう。
それまでのスピードよりもやや早めに滑走していけば思うよりもすぐに到着した。そして、慣れたようにパス解除して断りもなしに部屋の中へ踏み出す。
「蛇ちゃんいるー?サーチスネーク調子悪いみたいだぞー?」
部屋の主の返事はない。けれど、部屋の中にはタップの腕の中にいるサーチスネークと同タイプのサーチスネークたちが数匹出迎えていた。タップが部屋の中へ足を進めていくと踏まれないようにか後ろへと距離を置くように逃げていく。
そして、更に奥の部屋を覗きこむとベッドの下で色んな部品と工具を広げて座っているスネークの姿があった。彼の周囲には同じくサーチスネークも思い思いの場所で待機している。
「お前、俺のサーチスネークまで変な呼び名つけんな」
「げ・・聞こえてたのかよ」
タップが話しかけようとした途端にそれを遮るようにスネークが口を開いただけでなく内容にも驚かされる。タップは腕の中にいるサーチスネークを見た。どうやら得意のサーチスネークでの情報収集でリンクしていたらしい。
「そいつは動けなくなっただけだからな。リンクしてたらお前の間抜け面ドアップきめぇ」
「だったらリンク切れよ!」
笑うように言うスネークにタップは途端に顔を赤くさせた。頭の中にはサーチスネークを見つけた時のログが流れている。スネークの口ぶりでは独言全部知られてしまっているようだ。それにまた追い打ちを掛けるようにニヤリとした顔でスネークが振り向く。
「回収するために場所確認してた時だったんだよ。さっさとそれ寄越せ」
「連れてきてやったんだから少しは感謝しろよな!」
ヒラヒラと片手を差し出して挑発も混じったような態度にタップは憎たらしそうにしながらドスドスと足を進めて少しだけ乱暴にスネークの手の平に持ってきたサーチスネークを渡した。その雰囲気に圧されてか足元をウロウロしていた他のサーチスネークたちは慌てて逃げてベッドの下や物陰に隠れていたりする。
少し乱暴に手渡されたスネークはしばし沈黙した後で平然とした顔でタップを見げながら口を開く。
「ドウモアリガトウゴザイマス」
「予想を裏切らないヤツ!」
ありきたりな棒読みの言葉にタップは悔しそうにしながら吐き捨てるように言うとスネークに背を向けた。スネークはその様子に満足そうにしながら手渡されたサーチスネークを手元へと置く。
「用がすんだならさっさと帰れ」
「言われなくたって!・・こうなったら居座る準備してきてやる!」
「は?」
既に帰るつもりでいたタップにかけられた言葉にムキになったように反応して振り返って強く言おうとした瞬間、タップの表情が一瞬明るくなる。それから正面を向きなおしてブツブツ独言を言うなり早々とスネークの部屋を後にする。
残されたスネークは意外に引き際の良かったタップにキョトンとして見送っていた。
タップはそのままの足で自室に戻るなり買い置きしていたスナック菓子や携帯ゲームなどを抱えて再度スネークの自室に向かう。すると珍しくフラッシュが2ndの生活区域に居てタップは自然と足が向かう。
「フラッシュ先輩どうしたんです?」
タップが話しかけるとフラッシュは足を止めて振り向く。腕の中には何かの資料なのかいくつかの紙媒体の束やファイルなどが収まっていて、まだまだ仕事途中なのが伺えた。
「丁度良いところに来たな。スネークに追加の資料渡しといてくれ」
「了解です」
手渡されたファイルをタップは少し動きづらそうにしてやっと受け取る。それもそのはずで先ほど持ちだした荷物で両手はギリギリだ。その様子を見たフラッシュは少しだけ呆れたような苦笑をして呟く。
「アイツに茶々入れんのも程々にしとけよ?」
「あ〜・・さっきも追い返されたんで今から仕返しに行くとこです」
心持ち言いづらそうにしながらも明らかに仕返しをやり遂げる意思が見える。それでその持ち物かと納得しながらもフラッシュはその返答に素で驚いたのか目を見開くようにして反応していた。
「マジか。余計かもしんねぇけど、喧嘩すんなよ?」
「そんな事でしませんよ。いつもの事なんで。それじゃ失礼します!」
軽く会釈してから得意の滑走でスルリとその場を後にした。両手で荷物を抱えていてもその動きは軽やかだ。そんな様子をフラッシュは少しの間だけ見送っていた。
「・・いつもの事ねぇ」
ポツリと呟きながらスネークの言葉を思い出して苦笑する。
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