:vsモブ
ほとんどの人々が避難して生き物の居ない市街地。そこでは、未だにアチコチで小規模な爆発と煙が上がり、戦闘が続けられているのが伺えた。
その中で一番巨体同士が戦うエリアがある。巨体同士といっても数は、一対多数という圧倒的な差があるのだが、その1体だけの青い巨体ハードマンに多数が押しきれずに拮抗していた。
「ハードナックル!!」
近接であれば殴り合いをしてから投げ飛ばし、距離を取られたならハードナックルで追撃する。その際に両手が無くなり、大きな隙に見えるだろうが、バスター攻撃もハードにはあまり聞かず、他の攻撃からも対して影響がない。不意打ちに体当たりされようが、持ち前の重さと馬力で倒れる事もなく逆に弾き返す。他にも小型のロボットたちが周辺を攻撃しているが、ハード1体でしっかりと前線に張り付いていた。
「ん?」
それは不意の事。
システムが右手のロストを警告し、視界で確認すると敵ロボットを狙い撃った後で失速して落ちた様子が見て取れた。左手は、返ってきたが右手の反応はない。システムは、ロストの警告を発し続けている。
敵ロボットは、好機と見て挙って襲いかかってきた。
『悪い、右がロストした』
片手のまま、複数のロボットを相手しながら専用回線で報告すると、すぐに仲間たちからの個性的な反応がデータで返ってくる。その喧しさに呆れつつ、反応を待ちながら攻撃に耐えているとすぐにスネークから作戦の修正案が示された。
『タップ、囮に行け。ジェミニは、Bプランに移行。トレーラー、至急ハードナックルをサブブースター使用で射出準備』
最初は悪態をついていたが、すぐに周辺の地図データを照らし合わせ、タップへ囮に回る適切なルートを送り、ジェミニへのエリア指定、そして、偽装されたトレーラーへの指示により淡々と作戦が展開されていく。
『このルート、いっぱい踊れそうじゃーん!!』
『うるせぇ! 黙って走ってこい!』
『もう少しで担当エリアの殲滅完了します。次のデータください』
作戦が少しくらい変わろうが大して動揺もない。
片手状態のハードですら冷静に敵のロボットに対応して、確実に数を減らしていく。両手の時よりも処理速度は遅いものの、十分に戦えていた。そんな中、ハードナックルの射出完了の知らせと共に、周囲に散らばっていた爆発音が段々とハードに近づいている事に少しばかり口角を上げる。
勢い良く目についたロボットを殴りつけ、体当たりしてなぎ倒す。そして、先が無いはずの右腕を振り上げた。
『トレーラーよりコントロールをハードマンへ』
システムの言葉と同時に後方からハードナックルが単体で飛んでくると、振り上げられたハードの腕へと収まり、そのまま右手で渾身の一撃を敵ロボットへと叩き込んだ。
周囲は、ロボットの残骸だらけ。アチコチで聞こえていた爆発音は、一切聞こえない。そんな場所でハードと合流したタップがハードと共に残骸の中から何かを探していた。お互い、煤けたり手足のパーツに傷や若干の焦げがあったりするが、機能に何も問題ない範囲に収まっている。
「あったあった。お前のハンドパーツ」
「そっちか」
タップが重そうに抱えたのは、先程失速して機能を失ったハードの右手だ。外見を見た限り、損傷箇所は特に見受けられない。
「余計なデータやる訳にいかないしな。帰ろうぜ!」
「ん」
ハードの右手を抱えるタップを更にハードが抱えた。タップも慣れているらしく特に反応を返さずに何かを待っている。ハードが空へと視線を向けると、ナンバーズの中でも特に大きなブースターが点火され、勢い良く飛び上がる。
その後、やや離れた場所でズシンと着地音がした。
2021.9.28
comment : 0
28th.September.2021 岩男
comments
← →
←