:水星重力
:捏造設定もりもり
:突然始まり終わります。
:少しずつリハビリ
いつもの管理棟。そこで専用部屋にある専用のイスを陣取り、スケジュールを消化して行る姿があった。3rdの統括機であり長兄機と呼ばれるグラビティー。黙々と役目を果たしているが、不意に手が止まり、彼を囲う画面から顔を上げた。
「……あれ? そろそろ誰が来るんだっけ?」
特に焦った様子もなく、ただ漠然とした疑問を呟くような独り言。当然、誰も答えるものは居ない。機材だけが淡々と動いているのみ。けれどグラビティーは、作業を中断したまま考え込む。集中したら誰かが止めないと止まらない事が多い彼の行動としては、珍しい事だった。
しかし、本人は無自覚のようで、スケジュールを再確認して困惑していた。
「予定もないのに、なんで誰かが来るって思ったんだろ……」
「俺が来るからだろ?」
突然の声に飛び上がらなかったものの、相応の驚きでグラビティーが座ったまま後ろを振り向く。そこには、部屋のドアを背にして居るはずのない緑の機体――マーキュリーが立って居た。
「いつの間にッ」
「なんだよ、約束してたろ? 忘れてたなら傷つくぞ!」
すぐに戦闘態勢へと移行しようとした時、呑気なマーキュリーの言葉にグラビティーは困惑して動きを止めてしまった。直前まで誰かが来ると思っていた所だったので、関心を寄せるには十分な内容だった。
そんなグラビティーを他所に、マーキュリーは、一切争う気がないように両手のひらを見せつつ、ゆっくりとグラビティーへと歩み寄る。
「誰かが来ると思ってたけど、君だとは覚えてない」
「忘れてたって事じゃねぇか! 俺と約束しただろ!」
未だ困惑して動けないグラビティーの反応にマーキュリーは、まるで友人と会ったかのような自然な態度で会話を続けていく。そんな中、グラビティーは、困惑しつつも臨戦態勢だけは明らかに解いて「そうだったかも……」と呟いた。するとマーキュリーは、嬉しそうな顔で更にグラビティーに近づくが、グラビティーは立ち上がって機体を引き拒否する。
「なんだよ? 再会の挨拶に抱きしめるくらい良いだろ?」
「良くない。僕は、君を知らないはずなのに知ってる。異常事態なのは、わかる」
不思議そうに言うマーキュリーに再びグラビティーが警戒の色を見せた。けれど最初のように即臨戦態勢には入らない。やはり困惑していて、必死に彼の中にあるログを漁って何が正しいのか見極めようとしているようだった。
そこから割り出されたのは、確かに以前にも接触している事。しかも毎回突然現れるのは変わらない。今回のようにフラリと現れては掻き回して去っていく。敵意も無いが目的も不明で不法侵入している、おかしな存在。
「ありえない。何度も不法侵入しておいて警告が出たログが無いなんて」
更には今も目の前にマーキュリーという不法侵入した正体不明機が存在しているというのに、セキュリティは何も反応しない。各システムも平常通りのままだ。基地の中でも随一であるはずの管理棟のセキュリティが反応しないのである。
「セキュリティの事か? それなら当然だろ。マザーに許可貰ってるからな!」
「でたらめ言わないで」
マザーは、基地を統括するメインコンピュータ。全てのDWNもマザーを介して色々なサポートを受けている。博士にとってもDWNにとっても重要な存在だ。そして、そんな存在だからこそ安易に正体不明機に許可を出す事も侵害される事もないと確信しているグラビティーは、更に警戒を強くする。
「マザーに聞いてみろよ」
「君に言われなくても聞くに決まってるでしょ」
瞬時にグラビティーは、マザーへとアクセスする。勿論、マーキュリーから視線を外さずに警戒している態勢だけは解かない。それを見てマーキュリーは不服そうだったが、それ以上グラビティーに近づく事なく、腕を組んで反応を待っているようだった。
そんな中、マザーより淡々とした返答が送られる。
『指定座標に対象は、存在しません』
その言葉にグラビティーは、一瞬反応を忘れた。確認してもしっかりとマーキュリーの居る座標と送っていた。なのにマザーは、一切認識してないらしい。それは許可以前の問題だ。更に追い打ちをかけるようにマザーの言葉が続く。
『解析の結果、グラビティーマンの早期メンテナンスを提案します』
「もう一度確認して」
珍しく焦りを覚えたように言葉が強く出るグラビティー。そして、それを今か今かと飽きてきたように待つマーキュリー。けれどマザーは、再び淡々と言葉を届ける。
『指定座標に対象は、存在しません。グラビティーマンの早期メンテナンスを提案します』
「……嘘だ」
グラビティーの表情が未だ嘗て無いほどに動揺していた。そして、何度も何度も目の前に居るマーキュリーに対してデータ上の確認をするが、出てくるのは確実に存在を肯定する結果。マザーと明らかな矛盾は、更にグラビティーを追い詰める。
手を伸ばしたら届きそうな位置にマーキュリーは、余裕の笑みで立つ。
『原因不明の負荷を確認。グラビティーマンへ早期メンテナンスを要請します』
「そんなはずっ」
マザーが反応したのは、グラビティーのステータス変化のみ。以前としてマーキュリーは存在しない事なっており、確認を何度も繰り返す事でグラビティーの判断力も鈍っていき、不意にマーキュリーが歩み寄ってもほとんど抵抗も出来ずに抱きしめられた。
混乱状態且つ処理に負荷のかかっている今では、グラビティーホールドも不可能。
「え、なんで、放し……て」
「大丈夫だぜ? 俺は、抱きしめてるだけだ」
抱きしめられた直後からグラビティーのコア内にはザリザリとノイズのように乱れが生じる。更に処理速度に負荷をかけるようなもので、触れられてはいけないと逃げようとしてもまるで段々と掻き消えるように大人しくなった。
そして、急にストンと腑に落ちたかのように処理への負荷がなくなり、グラビティーは完全に落ち着いていた。
「マーキュ、リー」
「そうだぜ、俺はマーキュリー」
やっと通じ合ったかりように確認し合う。
マーキュリーは嬉しそうに笑うが、グラビティーは少しばかりボンヤリとしていた。既にグラビティーは、何故ボンヤリしているのか、何故マーキュリーがココに居るのか、何故自分を抱きしめているのか、何故自分の機体が謎の現象に蝕まれてるかも理解できない。
わかるのは、マーキュリーが実在するという事のみ。
「さぁ、グラビティー! 俺と一緒に帰ろうぜ!」
何度目かもわからない決まった言葉。
『警告、グラビティーマンの現在地消失を確認。至急、対応を要請します。繰り返します……』
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ナノマシンって良いですよね。
ふと思いついたので描いてみました。
水星なら尚更、ナノマシンだらけでもおかしくない能力してますし。
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26th.October.2020 岩男
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