好き**  




ザクッ
誰かが雪を踏んだ音が聞こえる、しまった。警察かもしれない
腫れてうまく開かない瞼を開けると、…名前さんがいた。
俺が驚いてうまく言葉が出ない口をぱくぱくしていると、
名前さんは優しく、崩れた俺の髪を撫でる。

「…な、んで。…きたんスか…」
「泣いてると思って」
腫れた瞼をふんわりと触る
またこうやって、俺に期待させる。

「…そういう所も嫌いなんだ…。
期待したぶんがっかりするんだ。
俺を見てくれないあんたなんて嫌いだ、
俺を一番にしてくれないあんたなんて嫌いだ。

……おれを、愛してくれないあんたなんて…きらい、だ。」


嗚呼、また涙が出てきた。
もう嫌われたくないのに、いったん切れたらもう止まらない
頭ではだめだと思っているのに、口が言うことを聞かない。

「…何故、そんなに性行為にこだわるんだ」
「名前さんがッ、名前さんがなんも言ってくんねェから…!
不安だったんだよ、あんたが俺を愛してくれてんのか
手繋いでも、キスしても…足りないんだ。不安なんだ…ッ!!」
不安で不安で、しょうがないんだ
名前さんは、なにも言ってくんねェから
行為で確認しなきゃ胸が押しつぶされそうなんだよ…。

「…帰ろう。」
名前さんは、俺に靴を履かせてくれて、コートを羽織らせてくれて
俺の手を引いてくれて、静かに歩く。
振り払って逃げたいのに。この手の温もりが愛おしくて離せない
しばらくして、名前さんの住む少し古いアパートにつく

鍵をかけなかったのか、ドアノブをひねるとすぐに暖かい室内に入れる
彼女が玄関で靴を脱ぐ、・・・左右で違う靴だ、靴下も履いてないし
テレビも電気もつけっぱなし。

「…そんなに、急いで。来てくれたんスか…?」
名前さんの手は震えていた

「……お前が、泣いてるんじゃないかって思ったら
なんだかすごく焦って、家に電話しても帰ってないし…。
裸足で、厚着もしないで外にいるってわかったら、すごく。心配で」
なんで気づかなかったのだろうか
あのとき彼女の息が切れていたこと、
自分はソファにひっかけてあった薄い上着を着て
俺に厚手の上着をもってきてくれたことに。

「わ、私は。お前が好きだよ、…愛してる
…こういう事を言うのは、その…恥ずかしいから言いたくなかったんだ
お前の事を愛してるよ、誰よりも。一番に」
俺は名前さんを思い切り抱きしめた。
雪のせいで湿っている髪の毛も、華奢な身体も全部が好きだ
彼女の優しいところが好きだ、カッコいいところが好きだ
本当は酒をちびちび飲む姿も好きだ、
つまらないテレビ番組にときたまクスって笑うところも好きだ
時々俺に甘えてくるのか好きだ、寝起きに頭を撫でてくれるのが好きだ
声をかけるとちょっと嬉しそうに振り向くところが好きだ
全部、好きなんだ。

「ごめんなさい、名前さん…
好きです、好きなんです。別れたくないっス…。」
「あぁ、私も悪かった。ごめんな…」
名前さんは俺の腫れた瞼に口づけをする、
嗚呼、幸せだ。彼女から愛してるという言葉を貰うだけでこんなにも嬉しいなんて。

「俺が欲しかったのって、名前さんの言葉だったみたいッス…」
「…はは、お前それお手軽だな」
「そうっス、俺はお手軽なんですよ」
つけっぱなしだった暖房の前で二人で暖まる
さっきまでのどん底だった気分が嘘みたいだ。
俺を落ち込ませるのも、救うのも全部名前さん次第ってワケだ。
それから雪で濡れたってんで風呂をいただく、
俺が入った後、名前さんも入浴する。
正直少しムラっときたが、もう無理にしようとは思わない
けれど、少し気になることがある。

「もう無理にしようなんて思ってないんスけど、
ちょっと聞きたいことがあります」
「ん?」
髪の毛をごしごしとタオルで拭いている
けれど目線はしっかりと俺の方に向いていて
俺の我が儘をちゃんと聞いてくれていることに心が弾んだ。

「いや、なんで俺とセックスするのが嫌なのかなー…なんて」
「あー。別にお前だけってわけじゃないよ
…あんまりそういうのにいい思いしたことないんだよ。」
なにか相手に手酷いことをされたのか、そういうことも気になったが
やはり頭にいくのは、俺以外と付き合っていたのかという事実。
いや、当たり前のことなのだが腹が立つんだからしょうがない。

「でも。仗助となら、
し、してもいいかも…な」
え?いまなんて言った?
さっきは別にしなくてもいいと自分からいったはずなのに、
やっぱり俺は思春期らしい

「や、優しくするっス…ッ!」







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