心配で、たまらない  




杉本鈴美、吉良の父親。
あの二人の存在は、
俺にとってはとても嬉しいことだった
あの旅で死んだ、名前…。
もしかしたら名前は、あの旅のどこかにまだいるのかもしれない
そんな希望が宿った。
時を経て、名前のことは思い出にしたつもりだったのに俺はまた、彼女に会いたくて会いたくてしょうがないでいる。
俺は長い休暇をとり、またあの旅をした
海を越え、砂漠を越え
ついにカイロまできた。
名前が死んだ場所、時計塔に登れば
綺麗なカイロの街が一望できる。
けれど、名前の姿はどこにもない
あぁ、しまった。泣きそうだ
もういっそ、彼女がいないこんな世界なら

「…いっそ、死んでしまおうか」
「命を粗末にしちゃいけませんよ、そこの色男」
この声は、この甲高くない。落ち着いた声は、名前だ。間違いない
振り向くと、やっぱり名前がいる。
酷でえじゃねぇか、隠れるなんて
でもそんなことはもうどうでもいい、
名前だ、名前がいる。

「ッ名前…名前!!」
「あらあら、承太郎…ちょっと泣き虫になったんじゃない?」
体温のない身体を抱き締め、彼女の首に顔を埋めれば、名前は俺の頭を撫でてくれる
変わっていない、変わったのは俺だけで
彼女の時は止まったままでいるのだ。

それから、名前を抱き寄せながら他愛のない話をした
「おじいちゃんは元気?」「花京院とポルナレフは?」「承太郎はなんの仕事してるの?」「私実は動物園で働きたかったの」「へぇ、おじいちゃん浮気したの?まぁ違和感はないよね」「そんなことがあったんだ、大変だったね」

彼女の話も聞いてみた。
死んだ日からしばらくして、霊になってしまったらしい。スタンドも健在
地縛霊ではないのに、ずっとここでカイロの街を見ていたという。

「なん、で。…会いに来てくれなかった」
「…私のことはね、思い出にしてほしかったの。」
死ぬ間際に言われた言葉だ

「お前の、心残りはなんだ」
「ふふ、それがね。もう解消されちゃった
…私の心残りは、承太郎にもう一度会うこと
私がいなくても元気にやっているところを見ることだったの」
心残りが解消されたらどうするんだ?
消えるのか?また俺の前から
許さない、許さない…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

「お前が死んだ後。」
彼女の言葉を遮るように言った
焦って、早口になる。
彼女は少し驚いた様子だったが、すぐにあの安心する笑顔で話を聞いてくれる

「お前が、死んだ後。
手首を切った、何度も何度も」
「……へ?」
「次に飛び降りた、
…花京院に邪魔されたがな」
「じょ……たろ?」
「その次は家にある薬を全部飲んだ」
「じょ、たろ…もう」
「次は首を…」
「もうやめて承太郎ッ!!」
悲しみに歪む名前の顔、
瞳には涙を浮かべている、
嗚呼、溢れてしまう。
それがもったいないと感じて、彼女の瞳をべろりと舐めてやる。

「承太郎…それ本当なの…?
ど、どうしてそんなこと…」
「お前がいない世界は…辛い。
また、お前が消えたら…俺も消える」
なぁ、名前。俺の事が心配だろう
目が離せないだろう、心残りだろう。
お前はこんなやつをほっとけないやつだ、変わってない。わかってる、お前のことは全部覚えている。

「あなた、随分狡くなったわ。
…これじゃあ心配で心配で、どうにかなりそう」
「消えないでくれ…おれの、俺の傍にいてくれ」
また、思い切り彼女を抱きしめる
首筋に顔を埋めると髪を撫でてくれる、
変わらない、名前はちっとも変わらない。

「私はあなたの思い出にはなれなかったのね…
…あなたも変わらない、あなたもまだ、まだ砂漠を旅してる。」
そうかもしれない、俺の精神はあの頃、
名前と一番楽しかった所に囚われている
でもそれでいい、そのおかげで、またお前とずっと一緒にいられるから。







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