君のいない世界。  




旅の途中、名前が死んだ。
花京院を庇ってのことだった、腹にぽっかり穴をあけて
安らかそうに死んでいった。
『承太郎、あなたは強いから…とっても強いから。あなたなら大丈夫』
名前死に際の言葉が頭から離れない。
慣れない黒いスーツを着て。帽子を外して
葬儀に向かった。車の中で、言葉を発するものはいなかった
あの、お喋りの母でさえ。今にも泣きそうだった

愛されていたのだろう、お通夜でも。あまり会話という会話はなく、皆が泣きそうな顔をしている。
じじいは名前に挨拶と、謝罪をした

「…すみません。お嬢さんを、守れなくて。」
俺は頭を下げて謝った。深く、深く
親族は、黙って立ち去ってしまった。
それはそうだ、娘を勝手に旅へ連れて行って、挙句の果てに殺したのだから
お通夜で出てきた食事は、あまり食えなかった
食ったら、何もかも出してしまいそうだった。
それは花京院も同じだ。隣の花京院も、先ほどの俺と同じように
親族に謝り倒していた。唇を噛みしめ、泣きそうなほどに。

「…。あの時、僕が…死んでいれば」
「それ以上言うんじゃねえ。名前の命を無駄にする発言だぜ、それは。」
だがそう言いたくなるのもわかる。
けれど名前の命を無駄にしてはいけない、もう誰も。死んではいけない
俺たちが立派に生きて、アヴドゥルにイギー、そして名前の死は。無駄な物じゃなかったと。

ついに、出棺のときだ。
棺に入っている青白くて、まるで人形のような名前
白い装束を着て、綺麗に髪を整えられ。化粧をしていて…とても綺麗だった。
名前の顔の横に花を添える。彼女の好きな花を、彼女の好きな色の
あぁ、嗚呼。こんなにも美しくて、こんなにも安らかなのに。お前はもう目覚めないのか
あの綺麗な瞳をもう一度見せてくれ
名前の顔に触れても、あのくすぐったそうな顔を見せてはくれない。
『承太郎、あなたは強いから…とっても強いから。あなたなら大丈夫』
無理だ、お前がいないと耐えきれない。生きていけない

「……ッ。」
花京院が、堪え切れず泣いていた。
口を手で覆って、歯の隙間から声が漏れたような泣き声だった。
それにつられ、次々と周りから嗚咽が漏れる
名前は、人が笑っているのを見るのが好きで、逆に泣いているのを見てると悲しくなってしまうような。そんな優しいやつだったから
皆、泣くまいとしていたんだろう。
それでも俺は不思議と、涙がでなかった。
きっとまだ。実感がないんだ
だってこの間まで一緒にいたんだ、今も目の前にいる
まだ。まだこの世にいるかもしれないって
そんなこと思ってしまっている。そんなはずはないのに。







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