05  




「―♪――…♪」

人語ではなかったが、喉からでる歌声ははっきりと俺の耳に吸い込まれてゆく
透明で、綺麗な歌声だった。ずっと聞いていたいくらいだった
10分ほどたって満足したのか、スッと消える歌声。
俺はまだ何時間か聞きたいのだが彼女が疲れたというならしょうがない

「もう暗くなってきたし、もう帰ろうかな。ばいばい」
「まっ…」
「ん?」
「次は…いつ会える」

帰る、という言葉に異常に反応してしまった
そうだ、焦る必要はない。また会えるのだから

「そうねぇ…じゃあ太陽が5回上ったくらいかな」
「…長い」
「えぇー…じゃあ3回」
「……。」
「わかったわ、じゃあ2回でいいわ。全くわがままなんだから」

明日にでも会いたいがそれで手を打つことにする。
あんまりしつこいともう会ってくれない可能性もある

「手で海まで行くの疲れるから運んでくれない?悪いけど…」

それは構わない、構わないがどこを掴めばいいのだろう
今まで人魚という存在が幻想的で気にしていなかったが彼女は上半身が裸だ。
いや、服を着ているほうが逆におかしいが。
とりあえず腕を掴み海まで引きずろう

「…私一本釣りされるマグロの気持ちを今味わってるわ」
「それはよかったな。」
「人魚引きずるって…」

ヒレをべしべしと地面にたたきつける、
感情がヒレに出るのか、こういったことも全て愛らしいと思ってしまうのだから俺もそうとう重症だ。
海まで距離は近かった為、すぐにざぷんと海に帰って行く人魚。
あいつ、別れを惜しむ気ゼロかと少し傷つく。
これほど心が揺さぶられるのは初めてのことだ
しばらくその海を見つめていると、人魚がまた顔をだした

「な…」

少し遠くの方で手を振る人魚。
心がじんわりと暖かくなる、こんな感覚も初めてだ。

「名前ー!聞いてなかったと思って!」
「…じょ、承太郎。」
「じょーたろ、か。」
「お前は…」
「名前。じゃあね、じょーたろ」

名前、名前か…。
人魚にも名前があるんだな、それも人名。

「名前…。」


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