「…どこかへ出かけるの?」
「えぇ、そうよ。あなたは今日も一生懸命このお屋敷に使えてね。」
「はい。」
今日も母はめいいっぱいオシャレをしてこの間とは別の恋人同士の元へ行くのだろう。
「まるでシンデレラだな。」
「立ち聞きなんて趣味が悪いですよ。ディオ様」
屋敷には住み込みで働いている使用人の部屋がある。来ようと思わないと通らない所だ、ディオ様は最近私に嫌がらせをするのがマイブームらしい。
まぁ、そのおかげでジョナサン様への嫌がらせが疎かになるのはいいことだ。
「卑しい母にいいように使われ、その母は娘を置いてパーティーかな?」
母のことは嫌いではなかった。自分を産んでくれたことにそこそこ感謝しているし、外に出られなくとも休日がなくとも辛いと思った日はない。何故ならそれは私にとって当たり前のことだったからだ。
「あんな女が母親だなんて君は本当に不幸だなァ?」
「そういうディオ様のお母様はどんな人だったのでしょうか。」
ジョージ様が養子として迎えているのだから、ディオ様はいま両親はいないのだろう。
少し意地悪が過ぎたかもしれない。
「いえ。やはり何でもないです」
「…綺麗な人だった。容姿も心も」
驚くことにディオ様は素直に答えた、
少し、潤んだ瞳で。
「まぁ、そんな女もドブネズミ以下の父親のせいで死んだんだがな」
父親も死んでせいせいしていると、ディオ様は呟く。
父親はともかく、ディオ様のお母様はディオ様にとってとても大事な人だったのだろう。
私の母親が酷いなんて、自分のがいい人じゃないと出ない言葉だから。
「お母様が亡くなられた時、ディオ様は側にいましたか?」
「…いたが…それがどうした。」
「いや、よかったなと。」
「貴様何がいいたい」
話す度に怪訝な顔をするディオ様。
「お母様が、最後に目に焼き付けたのがディオ様でよかったなと思ったんです。
苦しかっただろうけど、ディオ様がいて幸せだったのでしょうね」
「……貴様に何がわかる」
くるりと踵を返してぶっきらぼうに歩いていってしまうディオ様。
「今日の嫌がらせはもういいのですかー?」
「もういい!興が冷めた!!」
相変わらずディオ様は性格に難ありだけれど、今日は少し人間らしい一面が見られた。
今頃ジョナサン様はエリナお嬢様と遊んでおられるのだろう。
「……痛い」
チクチクと痛む胸を抑えて掃除をしにいった。
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