色気より食い気


嫌な予感しかしねぇ。っていうか嫌な未来が見えてるわ、確実に。

トシさんが最上級に眉間に皺を寄せているがパパが決めたことだから逆らうことなんて不可能である。……慰安旅行、再び。

今回は夏ということで将軍様が海に行きたいと言い出したそうである。私としてはトシさんと一緒なら海でも山でもどこでも構わないのだが…みんなには嫌な思い出があるらしい。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」

「悪かった、泣くなって、な?」

「だっでぇぇぇぇぇ!!!!」

トシさんの嫌な予感は当たり、海には当たり前のように万事屋一家+お妙さんがいて、そうなるとうちのゴリ…じゃなくて局長は仕事をしないわけで、なんやかんや将軍が大変なことになってトシさんと隊長たちがその処理に追われて………私ひとり置いてけぼりになった挙句、後を追いかけ迷子になり、ライフセーバーのお兄さんに保護されたのである。

トシさんと逸れたこともそうだが…何より怖かったのは若い男の集団にナンパをされたことだった。きっと彼らはただの軽いノリで声をかけたのだろうが…あの時の記憶がフラッシュバックし、一瞬パニックになってしまったのだ。

ギュッ

「ひとりにして悪かった」

「怖かった…っ」

「すまねェ」

「うぅ…うわぁぁぁん!!」

頭を撫でてくれているトシさんにギュっとしがみついて落ち着こうと必死になっていると、さっきの集団が近くを通り「んだよ、彼氏持ちかよつまんねー」と吐き捨てていった。

「…おい、名前」

「(ヤバい)」

「今のやつらに何かされたのか」

「………」

「答えろッ!」

「声っ…かけられた、だけだから…っ」

さっきの恐怖がまた蘇り、せっかく落ち着いたのにまた涙が出てきた。困らせたくないのに…、

ギュッ

「え?」

「悪い、また怖い思いさせちまった」

…てっきりさっきの集団を追いかけて行くものだと思っていたから、強く強く抱きしめられて驚いた。

「今日は我儘聞いてやっから」

「怒らないですか…?」

「あぁ、言ってみろ」

「トシさん見たら…安心してお腹すいた」

「ったくお前はつくづく…色気より食い気だな。焼きそばでも買いに行くか」

「でも将軍はいいんですか…?」

「あぁ。将軍よりオメーのが大事だ」

もう、その言葉を聞けただけで…さっきの恐怖なんか吹っ飛んでいく気がした。

「副長ー」

「その呼び方久々だな」

「愛してます」

「知ってらァ」


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