見回りが終わって屯所に戻ると、段ボール箱が三つ並べてあった。毎年恒例の光景ではあるが相変わらず凄いなこれ。段ボール箱には土方、沖田、廃棄の文字。これらにはラッピングが剥がれたチョコがギッシリ…。廃棄用の箱の中には申し訳ないが手作りのチョコが入っている。手作りチョコには愛情が込められているものが大半だが、中には毒入りの物などがあるのでこれらは処分の対象だ。
「今年もたくさん集まったね〜」
「毎年仕分け役任される俺の身にもなってよ。大変なんだからねコレ」
山崎が仕分けを頑張ったところで、どうせ土方さんも総悟もこのチョコ達を食べることはしない。捨てられる運命を免れた既製品のチョコ達は他の隊士達の口に入ることになる。
「おこぼれ貰えるんだからありがたく思いなよ」
「おこぼれなんて嬉しくないっての」
「ま、そう言わずに。ハイこれ山崎に。いつもお疲れ様」
「名前ちゃん…!ありがとう!」
五百円足らずのチョコ一箱でこんなに喜んでくれるんだったら渡し甲斐がある。
「土方さーん。戻りました」
「おう。入れ」
「相変わらず凄い量のチョコレート集まってましたよ」
「おめェからは?」
「はい。」
「サンキューな」
土方さんには山崎にあげた五百円チョコではなく、ちょっとリッチなウイスキーボンボンだ。
「うめェなコレ」
「お店で試食したときに一番美味しかったので。あの、もうちょっと味わっていただけます?」
「うめェからな」
「いや、一応ウイスキーボンボンですし?ね????」
書類処理続きで疲れが溜まって頭が糖分を欲していたのか、土方さんはその後も口にチョコを放り込み続け、あっという間に食べ終わってしまった。
「もうねェの?」
「ないですよ。得体の知れない女の子から貰ったチョコならたくさんありますけどね!」
「俺はお前からのしか食べない」
なら味わって食えと思ったけど言えるわけもなく、もうすぐ夕飯なのにご飯入らなかったら知りませんからねと告げて部屋を出た。
それからしばらくの間自分の仕事をこなしているとあっという間に夕飯の時刻になり、食堂に向かうも土方さんの姿はない。
「総悟ー土方さんは?」
「知らねェー」
時間は守る人なのに珍しいな。そう思い再び土方さんの部屋を訪れると、なんと土方さんが倒れていた。
「は!?土方さん!?」
「んう…名前…?」
「大丈夫ですか!?何!?どうしたの!?」
「なんかボーッとする…熱ィ」
スカーフを外しシャツを肌けさせた色気ムンムンな土方さんはトロンとした目で私を見つめた。
「名前…キス、するか?」
「え、いや、あの」
「俺とのキスが嫌だってのか」
「嫌じゃないけど…あんた酔ってんでしょ」
「酔ってねェよ」
「だからウイスキーボンボン一気に食べるなって言ったでしょ」
「せっかく名前がくれたんだ…誰かにっていうか主に総悟に取られる前に食わなきゃと思ったんだよ」
口を尖らせて拗ねてみせる副長様。なんだこれ、可愛い。
「土方さん?」
「あ?…!!!!!…おまっ」
土方さんの火照った頬を両手で包んでねっとりとしたキスを送ると、彼の顔はさっきより赤くなった。
「な、なにしやがる!」
「キス」
「そんなことはわかってんだよ!なんで、だから、ああもう!」
「いつももっと凄いことするくせに照れないで下さいよ」
「はぁもうヤダ…俺の貞操が…」
赤くなった顔面を両手で覆ってゴロゴロと転がっている土方さんが可愛くて馬乗りになってギャーギャー戯れていると、スパン!小気味良く障子が開け放たれた。
「なにやってんすかあんた達」
「あ、山崎」
「もう夕飯の時間終わるって女中頭が怒ってましたよ」
「はいはーい。ほら土方さん行きますよ」
未だに赤い顔をして俺の貞操が…とボヤいている土方さんの手を引いて食堂に向かった。
きっと酔いがさめたらこっぴどいお仕置きが待っているのだろう。でもそれも嫌じゃないなんて、私もかなりの好き者かもしれない。
「土方さん」
「ん?」
「愛してる」
「ハッ、俺の方が」
「うるせェバカップル」
…あとで総悟にもウイスキーボンボン食わせてやろう。
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