エイプリルフール(2010)

「おい誰か、名前見てねェか?」
「俺は見てないっすね」
「俺も」
「どうかしたんですか?」
「いや…いい」

今日は朝から名前の姿を見ていないことに気づく。まだ昼間だし、総悟もいねェし…二人でさぼりに行ってんだろう。帰ってきたら説教だなアイツら。なんて暢気に考えてたえらいつの間にか夕方。それから晩飯の時間になって、食堂に行ってみれば当たり前のように総悟の姿があるわけで。

「おい名前は?」
「名前?」
「一緒にさぼってたんじゃねェのか」
「さァ。俺はさっきまで一人でいやした」
「名前見てねェか」
「そういや今日は見てないねィ。帰ってきてないんですかィ?」
「あァ…」

俺がそこまで言うと山崎が叫びながらやってきた。

「副長ォォォォ!!!」
「うるせェ!今お前にかまってる暇ねェんだよ!」
「名前が攫われましたァァァァ!」
「ハァ!?」
「屯所に電話かかってきて‥どうしよう!」
「落ち着いて内容を話せ馬鹿野郎!」
「えっと…名前を返してほしければ副長一人で来いと、」
「場所は」
「町外れの―――」
「わかった」
「本当に一人で行くんですか!」
「当たり前だろ」

焦る山崎を尻目に俺は一人で屯所を出た。総悟がなんだか黒い笑みを浮かべていたなんて露知らず。…あぁアイツはとんでもねェ巻き込まれ体質だな。銀行に金を下ろしに行けば強盗に人質に取られるし非番の日に歩いてればひったくりに狙われるし…クソ。今回もどうせしょーもねェんだろう。大体、名前の実力があれば犯人なんて返り討ちに出来るだろう。だが今回は違うのか…?こんだけ帰りが遅くなったってことは相手は余程の強者かキレ者、

「おい名前!」
「あ、土方さん!」
「あ、ニコ中マヨラネ」
「どうもです」
「多串君じゃない」
「お前ェらここで何やってる…」
「何ってUNOですけど」

犯人に指定されたとおり一人で現場に向かえば万事屋一行と一緒にUNOをしてる名前がいた。え?なに、お前攫われたんじゃないの?今日一日何やってたわけ?もしかしてずっとUNO?は?

「多串君〜…今日って、何月何日だっけ」
「四月一日、か?…あ、」
「エイプリルフールですよ!土方さん騙されてくれた!来てくれると思ってたけど!…心配した?」
「名前…お前な、洒落になんねェ嘘付いてんじゃねェよ!!」
「(ビクッ!)」
「お、多串君?そんなに怒らなくてもね?名前ちゃんだって悪戯したかっただけなんだし…」
「お前ェは黙ってろよ!あのな、俺が今日どれだけお前を心配して…!」
「…ごめんなさい」

俺がそういうと、名前が申し訳なさそうな顔をして俺に抱きついてきた。本当は怒りたかったんじゃねェんだ、無事だったことに安心して…、

「もうしません」
「したら叩っ斬る」
「それは嫌」
「じゃあ別れる」
「もっと嫌!」
「じゃあ…って待てよ、それじゃ屯所の連中はみんなグルだったって訳か」
「…えへ」
「山崎ィィィィィ!!あいつら殺す!絶対ェ殺してやる!」
「ありゃ、」

万事屋にとりあえずこの馬鹿に付き合わせて悪かった、と告げて屯所に戻った。こいつの悪戯の全貌を知らなかった近藤さんだけが涙と鼻水を同時に垂らしながら「良かったなぁ!」と言っていたので申し訳ない気持ちになった。

とりあえず、今回の嘘に関わった隊士は(って近藤さん以外全員なんだが、)減給処分にしてやった。もちろん名前もだ。あと局中法度に「しょうもない嘘をついた者即切腹」って加えておくことにする。


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