朝方、まだ陽も登りきっていない時間帯だが玄関の戸が開いた音がした。飲みに行っていた銀さんが酔いつぶれて帰ってきたのだろう。まあ…暫く色んな戦いが続いていたし、今日は大目にみてあげよう。
「もう、銀さん…風邪引くよ」
「んあー?名前ー?」
「銀さん、ねえ、起きて」
ギューーーッ…………
「名前、」
「どうしたんですかー」
突然正面から抱きついてきた銀さん。そんな銀さんを受け止めゆっくり頭を撫でると銀さんがフーッと息を吐いた。
「名前…ありがとな」
「ん?」
「いつも待っててくれて」
「……」
「お前ェさんがここで待っててくれるから、俺ァ頑張れる」
「うん」
「名前、いつもこんな甲斐性なしに付き合ってくれてありがとう」
銀さんがこんな真面目な話をするのはひどく珍しい。酔っているからだろうか…。
「銀さん、」
「ん?」
「あんまり…無茶しないでね。心配なの」
「そうだなァ」
銀さんは目に見えるもの全てを救おうとしてしまう優しい人だ。でも、全て救えないこともわかっているからこそ、脆い人。そんな銀さんだから、私は支えたい。
ーーーチュッ
「名前ー」
「んー」
「もっかいチューしてい?」
「いいけどとりあえず部屋に行こう」
「えー」
「えーじゃないの、ほら」
「はいよ」
フラフラの銀さんの体を支えて寝室へと歩く。部屋に入るなり布団に倒れこんだ銀さんは私の腕を引いて、そのまま私を抱きしめて目を閉じた。
「寝ちゃうの?」
「んー」
「お風呂は?」
「あー、名前ちゃん」
「なに?」
「俺、ちゃんとお前ェのこと愛してっからな、」
「え?」
普段そんなこと言わないのに、
「好きだよ。愛してる。名前だけ」
「うん」
「だからさ、心配しすぎなくていいから。」
「…うん」
「俺ァ、いつでもお前ェのところに帰ってくるから」
銀さんはそこまで言うと静かに寝息を立て始めた。穏やかな寝顔に安心する。私は……銀さんに守ってもらわなくても大丈夫な様に、少しだけ強くなりたい、そう思った。
「愛してるよ、銀さん」
銀さんが笑った気がした 。
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