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初夜



副長と想いを通わせ、初めて二人きりで過ごす夜。屯所をこっそり抜け出した私たちは心地いい夜風を浴びながら手を繋いで歩いた。これから起こることを待ちきれないとばかりに私の手をぐいぐいと引いて早歩きする彼は、どことなくいつもの余裕みたいなものがないように思えて可愛らしい。

「そんなに急がなくていいですよ、逃げませんし」
「そういう問題じゃねェ」
「じゃあどういう問題なんですか?」

わかっている、なぜなら私も副長と同じ気持ちだから。でもわかっているからこそこの人の口から聞きたいし、恥ずかしいこの気持ちを誤魔化すように少しだけからかいたかった。しかし「早くお前を抱きたいんだよ」だなんて真面目な顔で、大好きな低い声で耳元で囁かれてしまえば顔が赤くなるばかりで何も言えなかった。

自分の家なのに知らないところに来たみたいに緊張して鍵が中々入らない。見兼ねた副長が私の震える手から鍵を奪ってあっさりと解錠しドアを開けた。いよいよだ、そう思うと余計に緊張して足がすくんだ。

「そんなに固くなるなよ、気まずいだろ」
「いや…私これでもずっと前から副長のこと好きだったんですよ、だからその副長に抱いてもらえるなんて身に余る光栄というか」
「二回目だけどな」
「…反省してます」

チクリと言われたのはそよ姫の誕生日パーティのあとの一件だ。かなり根に持たれているらしい。

自分の部屋に副長がいる。これからは当たり前になるかもしれない光景だけど…今の私にとってこれはまだ非日常的でどうにも落ち着かない。待ってましたと言わんばかりに素直にベッドに向かうわけにもいかず、台所をうろうろして気休めにお茶でも入れようかとすれば、後ろから覆いかぶさるようにして抱きしめられて身動きが取れなくなった。

「…嫌か」
「そうじゃないです、でも緊張しちゃって」
「俺だってそうだ」

腹を括ろう。そう思って私は体を反転させ、赤くなった顔を副長の胸に押し当てた。急ぎ足な心音が聞こえて、この人も本当に緊張しているんだということがわかって安心した。

細く見えても案外がっしりしている腰に腕を回し、着物の袷の間からチラつく胸に口付けると、副長の体がびくりと僅かに動いた。

「急にそんなことするんじゃねェよ」
「副長、好きです」
「…もういいか」

返事の代わりにキスを送った。緊張と期待と高揚と、色んなものが混じり合って思考回路はすでにショートしていた。

「んっ…」

着物を脱がしながら丁寧に丁寧にあらゆる部分に口付けをくれる副長。あの時もこんなに優しく抱いてくれたのだろうか。記憶がないなんて勿体無い。

「お前…この間俺とするまで十年くらい男と寝てなかったって言ってたけどあれマジか?」
「そんなこと言ってました…?本当ですけど」
「…そうか」

着物を全てひん剥いておきながら今更そんなこと気にするなんて、やっぱりどこか可愛らしいのが副長だ。きっと晋助とのことを気にしているんだろうなと思ったが口にはしなかった。

「ん、やっ、待って」
「痛ェか?」
「そうじゃなくて…私がしたい、です」

私の中で動き回る指がピンポイントで良いところばかりを攻め立てるから、あっという間に達しそうになった。一緒に気持ちよくなりたい、というか副長を気持ちよくしたい一心で私は彼の足の間に体を滑り込ませ、膨らんだ下半身にそっと触れた。

「いいよ別に、無理しなくて」
「されるの嫌いですか…?」
「そういうわけじゃねェけど」

じゃあ、とばかりに下着をずり下ろし、先走りが溢れてぬるぬるするそれの先端にチュッとキスをした。咥えたまま先端から根元まで往復するとジュポジュポといやらしい音がする。副長のものを咥えながらじゅわりと自分が濡れるのがわかった。ああ、どうしようもなくはしたないことをしている、そう思うのに大好きな彼を愛したくて口も手も止まらない。呼吸を乱す副長の顔をちらりと窺い見ると、顔を真っ赤にして耐えるように口を結んでいた。

「くっ…なまえ、もういいッ」
「ダメ、ダメ…出して」
「中に入れてェ…っ」
「キャッ、待って待って…!ん…あ、あっ」

私の口からそれを勢いよく抜いた副長は私の体を押し倒し足を開かせると一気に挿入した。

「あ、あ、すごい…ッ、副長…っ」
「なまえ…っ…すげェ良い…」
「私も…気持ち良い…です、あんッ」

私を逃さないように顔の両側につかれた力強くセクシーな両腕を撫でながら首に手をまわすと体が密着してより一層深く繋がった。

「副長、副長、好きです…好き、もっと…!」
「なまえ…はぁはぁ…」
「もっと奥…くださいッ…あぁっ」
「ここが、好きなんだろ、っ」
「ん、好き、好きっ…副長…!」
「やっべェな…良すぎだ…ッ」

私が副長のことを気持ちよくしてあげたかったのに、よくしてもらうばかりで申し訳ない気がして…少しでも役に立とうと彼の腰を両足で挟んで自ら腰を動かすと、うっと小さなうめき声と共に中に入ったままのそれがビクリと震えたのがわかった。

「それやべェ…すぐ出ちまう」
「ほんと…?頑張るから、出してください…ッ」
「なまえ、なまえ…!」
「あ、あっ、副長、気持ちい…っ」
「俺もだ…イく、」
「ん…キスして…ッ…あっ」
「なまえ…ッ…出る…!」
「んっ、んーーー」

唇を重ねたまま二人同時に達した。快感はとどまることを知らず、私の体は最後の最後まで彼の精を搾り取ろうと言わんばかりに果てたばかりのそれをキュッと締めつける。

「はぁはぁ…っ…」
「副長…気持ちよかったですか…?」
「あァ…良すぎて飛びそうだった…」
「ん、私も…」

繋がったまま、見つめあって、唇を重ねる。
まるで映画のワンシーンだ。胸焼けするくらい甘い空気に思わず口角が上がる。

「どうした?」
「幸せすぎてどうにかなっちゃいそう」
「確かにな」
「はぁー…やっと、念願叶った感じです」
「いやだから、二回目だっつーの」
「…根に持ってます、よね?」
「当たり前だろ、俺があの時どんな気持ちで…」
「それは詳しく聞きたいです」
「バァカ、教えねェよ」
「意地悪」

たくましい腕、タバコのにおいが染み付いた肌、それらに包み込まれたまま私はゆっくり目を閉じた。この人と出会ってから色々ありすぎて随分と長い間一緒にいるように錯覚してしまうが、きっと、寿命を全うできなかったとしても、これからの時間の方が長いんだろう。そう思うと幸せで…鼻の奥がツンとして、涙がじわっと滲むのがわかった。

「どうした?」
「幸せだなあって、本当に」
「ああ、そうだな」

あと何度、この人の腕の中で目覚める朝が来るだろうか。きっと普通に暮らす人たちよりもその回数は少ないだろう。それでも私は誰よりも幸せだった。

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