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トライアングルの行方(3)



「よォ、ただいま」
「えっ?待って、まだのはずじゃ」
「なんだよ。早目に切り上げて帰ったんだから喜べよ」
「いやでも昨日の今日でそれは無理です…!」

予定より数日早く、副長が屯所に戻ってきた。先日あんなことがあったばかりで、正直顔を合わせるのが恥ずかしい。

「あ、土方さんお帰りなせェ。あの女どうなったんですか?」
「どうもこうもねェよ。案の定脅迫状はでっちあげだ。依頼内容が嘘だという証拠を集めるのに随分手間取っちまった」
「さっすが、色男は違いまさァ」
「茶化すなっての。今に見てろ、お前も女に苦労することになる」
「その前に姐さんと既成事実作るとするか」
「やめろ馬鹿」
「姐さんは顔合わせるだけで真っ赤になるくらいあんたに惚れてるようだから無理な話かねィ。じゃ、邪魔者は退散するか」

茶化すだけ茶化して去っていく沖田くん。副長と二人きりにしないで…!とばかりに後ろ姿に念を送るも、私に特別な能力があるわけでもないため、沖田くんはそのまま去っていった。あの子の場合気付いていてもそのままスルーしてしまうだろうが。

「ゆっくり話すか。茶を運んでもらえるか」
「良いんですか?報告書とか…」
「その辺は山崎がやってる。なんだ、俺と二人になるのは嫌だっていうのか」
「そんなことないです…!お茶用意してきます」

副長が電波に乗せて言ってくれた将来を約束した人というのは、自惚れでなくとも私のことだろう。もちろん私もそのつもりだ。しかしながら、私は未だに副長と自分の釣り合いについて悩むことがあるのだ。何があろうと副長は私のものだと強気な自分と、副長に釣り合うくらい素敵な人が目の前に現れたなら身を引こうと弱気な自分とが、心の中でせめぎ合いを続けている。副長に言えば馬鹿らしいと一蹴されてしまうことは目に見えているのだけれど。

「副長、失礼します。お茶をお持ちしました」
「おう、ありがと。入れ」

報告書は山崎さんに任せたと言っていたが、それでも彼の仕事は山積みらしく、数日ぶりに足を踏み入れた部屋の中には数多くの書類が置いてある。

「いいんですか、お仕事……」
「お前もしつこい奴だな。俺がお前と二人になりたかったから仕事放ったらかして茶を飲む時間を作った。これでいいか」
「う、すみません」

いつまでも引け目を感じている私のために、いつものようにわかりやすくストレートに気持ちを伝えてくれる副長。察しがいい副長に甘えてばかりの自分が情けない。

「俺が不在の間変わったことなかったか」
「いえ特に。私があまりにも仕事に身が入らないから有給休暇を取れと言われましたけど」
「変わったことあるじゃねェか」
「仕事だってわかってるつもりだったんですけどね。副長が女性と二人きりになることがあると思うとどうもうまくいかなくて」
「お前の案外嫉妬深いところ俺は好きだぞ」

好きという単語に過剰に反応してしまった私に副長は笑う。ああ、やっぱりこの人のことが好きだ。たった数日離れていただけなのに、こんなにも苦しくなってしまうのはどうしようもなく好きだから。

「電話の時に例の女性が副長のことトシって呼んでるの聞いて、すごく嫌な気分になりました」
「そうだろうなと思ってた」
「綺麗な人だったでしょ?お金持ちだし、副長くらいのハイスペックな人にはお似合いなんじゃないかと思って、めちゃくちゃ落ち込みました」
「そりゃ悪かった」
「落ち込むたびに沖田くんが慰めてくれましたけど」

甘えるように彼にもたれ掛かると、ゆっくりと頭を撫でられた。いい歳をした女が頭を撫でられて落ち着くなんておかしいかもしれないが、副長のこの手は魔法の手なのだ。

「トシ、さん」
「ん?」
「って呼んでもいいですか」
「あァ」
「二人の時だけにします」
「そうだな」
「少し恥ずかしいけど」
「そうか?」
「付き合いたての高校生でももっとすごいことしてると思いますよ。名前呼ぶだけでドキドキするなんて、私もまだまだ若いですね」
「はは、そうだな」

照れ隠しに冗談を言った私。名前を呼ぶだけで真っ赤になった顔を見られたくなくて、私は彼の胸に顔をうずめるのだった。

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