ホワイトデー



先月、なまえから感謝の気持ちとして渡されたバレンタインチョコ。本人からも聞いたが、さりげなく隊士達に探りを入れてみると、やはりあいつらが貰ったものと俺が貰ったものは違ったらしい。偽装の関係とはいえ一応婚約者というか、実質夫婦みたいな関係である俺と他の隊士共へのプレゼントが違うのは当たり前なのだろうが、嬉しかったのは事実だ。バレンタインなんて、今までは正直鬱陶しいだけのイベントだった。得体の知れない女達から向けられる好意ほど恐ろしいものはないのだ。俺は相手のことを全く知らないのに、相手は俺のことを知っている。職業柄メディアに露出する機会も多いため致し方ないことではあるのだが、正直恐い。長年そんなことを思いながら迎えていたバレンタインだったが、今年は別だった。あいつからのチョコは嫌な気ひとつしなかったし、イベントを疎んでいた俺がホワイトデーまで意識するのだからおかしな話だ。しかし意識すればするほど妙案は浮かばず、あっという間に前日というところ。さて、どうしたものか。

市中見回りの途中、浮かれた町並みを眺めるとともになまえへのお返しを何にしようかと探る。せっかく手作りしてくれたチョコに対してそこら辺に売られている菓子で返すのは何だかとても失礼な気がする。かといってアクセサリーを贈るのは重たすぎやしないだろうか。あれやこれやと悩んでみても、初めて意識したホワイトデーに慣れないせいか、考えはまとまらなかった。

そしてホワイトデー当日。
結局何も思い浮かばなかった俺は、なまえに正直に打ち明けた。するとなまえは怒るどころか嬉しそうに目を細めて笑うのだから、こちらが拍子抜けしてしまった。

「怒らねェのか…?」
「どうして?」
「せっかくくれたチョコのお礼…何も用意できてねェんだぞ?」
「私のために副長が悩んでくれたことが嬉しいんですよ、それに言ったでしょう?見返りを求めて贈ったわけじゃないですから」
「そうは言ってもよ…」

どこまでも無欲な女だ。これだから困る。今まで相手にしてきた女達は自己主張が強かったので、わかりやすかったのだが…。無欲ななまえ相手だと、何をしていいかわからない。

「じゃあ、副長の時間を少しだけ私にください」
「時間?」
「もうすぐ昼休憩なんです、だからその時間ここで過ごしてもいいですか?」
「そんなことで良いのか?」
「ええ、何よりも嬉しいです」

しばらくして茶と茶菓子を運んできたなまえと一緒に縁側に腰掛けた。普段はやかましい屯所の中も今日は何だか物静かだ。

「桜、もうすぐですね」
「そうだな、もうそんな時期か」
「お花見とか行けたらいいですね」
「時間があれば連れてってやるよ」
「お酒とお弁当持って行きましょうか」
「そりゃ楽しみだ」

こうやってまたひとつ次の約束が出来た。少しずつ、俺の未来に隣にいるのが当たり前になっているなまえ。恐ろしいが心地いい。いつか…お前が別の誰かのところへ嫁ぐ日まで、隣にいさせてほしいと願う。


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