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「徹〜、全部ちゃんと持った?」
「持った!大丈夫だよ」
「切符は?」
「財布に入れてる」
「確認しなくて大丈夫?」
「大丈夫だってば」
「本当に引越し手伝わなくていいの?」
「先に向こうに行ってる連中が手伝ってくれるからいいよ。じゃ、そろそろ行くから」
「気をつけてね」
「ん。行ってきます」

自分の母親ではあるが、随分と心配性だなと思う。俺が家を出ることによって、この家に残るのは両親二人きり。喧嘩の仲裁に入る俺がいなくなっても大丈夫なのかな。…と考えたところで、寂しがってるのは俺の方なんだなと実感した。

家を出るとそこには既に岩ちゃんがいた。取りたての自動車免許を自慢するかのように、俺を駅まで送る役を買って出てくれたのだ。まあ乗っているのは岩ちゃんの母親が普段使っている可愛らしい軽自動車なのでかっこいいとは言い難いが。

「岩ちゃんマジで大丈夫?」
「心配するなって」
「ほんと?岩ちゃん運転とかできるの?」
「できるできる」
「未来ある若者の命奪ったりしない?」
「しねェっつーの!信用してねえなら降りろ!」
「嘘!嘘だから怒らないで!」

駅に着くまでギャーギャーと無駄に馬鹿騒ぎしたのは、お互いしんみりしたくなかったからだろう。きっとね。最高で最強の相棒とも今日でお別れだ。次はいつ会えるだろうか。岩ちゃんもバレーは続けると言っていたから、その内会えるよね。

運転こそスムーズだったが駐車は慣れていないらしく、駅のパーキングに停めるのに随分と時間がかかった。まあそれについてつっこんだらまた怒られるから黙っておいたんだけど。二人で車を降りて駅構内に入ると、見知った顔が数人。バレー部の連中が見送りに来てくれたらしい。あれ、おかしいな…涙腺が……

「そんなサプライズやめてよ…!悲しくなる!」
「お前が行くって決めたんだろ。気張ってこい」
「岩ちゃん…っ」
「そうだそうだ。俺たちの悲願はこの頼れる後輩たちが達成してくれるらしいからな。シャキッとしろよ元キャプテン」
「「「及川さん…お世話になりました!」」」

ああもう、こんなかっこ悪い泣顔見られたくなかった。颯爽と東京に向かうはずだったのに!大男たちが俺の泣き顔を見てゲラゲラと笑っている。悔しいがこのサプライズは嬉しすぎた。

「徹!」

泣き笑いしていると、背の高いバレー部の連中の後ろから可憐な女の子がひょっこり顔を出した。ナマエ?ナマエ…なんだけど、ナマエ?昨日までの印象とは随分と違うナマエに涙もピタッと止まり、思わずジロジロと凝視してしまった。

「え、なんで、どうしたの、その髪…」

昨日までの派手な金髪はどこへやら。目の前にいるナマエは黒髪で、ギャルのギの字もないほどに清楚な格好をしている。

「昨日徹はああ言ったけど、徹が別れたくなっても別れてあげない。私こっちであと一年しっかり勉強して東京の大学に行くことにしたの。だから、浮気しないで待ってて」
「ちょっと待って今猛烈に行きたくなくなった」

今までは近寄りがたい雰囲気だったが今はどうだ。可憐に清楚系へイメチェンしたせいで近寄りやすいというか、なんか力押しすれば手に入れられそうな、そんなか弱さがにじみ出ている。これはマズイのではないか?こんな可愛いナマエを一人残していったら…確実に誰かに取られるだろう…!

「及川、ナマエちゃんのことは俺に任せてさっさと東京行っちまえ」
「はい非常事態宣言出ます。マッキー離れて」
「徹、頑張ってね」
「いやお嬢さん俺の話聞いてた?行きたくない」
「何言ってんの、電車行っちゃうよ」
「こんな可愛いナマエ置いていけない」
「あんた私の気持ち疑ってんの」
「そうじゃない、そうじゃないけど!」
「ほらほらさっさと行く〜〜」
「ちょっとナマエ!ナマエってば!」
「私、徹の隣に並んだときに恥ずかしくないように頑張るからね!」
「「「「いってらっしゃい!」」」」

無理矢理改札に押し込まれ、ホームまでついてきた連中に電車に乗せられ、無情にもその直後にドアはしまった。ポカンとしている俺をよそに、ドアの向こうではみんなが再びゲラゲラと笑っている。

最高の仲間と可愛い彼女。進む道は違えど、俺たちの関係はこれからもきっと変わらないだろう。人生の岐路に立って初めてわかる、己が身を置いていた環境の優良さ。大好きな人たちからのエールをこの背に背負い、新たなスタートに想いを馳せた。

来年こそは夏のにおいの真相を知れたらいいな。


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