【他の男なんて見ないで俺だけを見ろ。お前は俺のだろ?】
徹、ちょっと話がある。そう言われなんだか畏まった雰囲気になった。なんだろう、いよいよ別れを切り出されるのだろうか。待てよそんなわけない。昨日あんなに情熱的に愛し合ったばかりではないか。
「明日、会社の人と飲み会になった」
「へ?そんなこと?」
「なによ、」
「別れよう、って言われるかと思ってドキドキしちゃった」
「言わないよ。でね、飲み会っていうのがさ…」
鈍器で頭を殴られたような衝撃だった。別れようと言われるのかと構えていただけに、別れようと言われた方がマシだったかもしれない。
「は?合コン?は???」
「いや、仕事の関係で…取引先の人たちと飲み会って言われたけど多分合コン」
「しんっじられない!!!!合コン!?!?俺がいるのに!?!?」
「だから、仕事の関係で…仕方ないじゃない」
「ヤダヤダヤダいくら仕方なくてもヤダ」
「あんまり駄々こねると岩泉呼んでくるからね」
「は!?それもヤダ」
「私にやましい気持ちが無いから前もって言ったの。お願い、わかって?」
「…ナマエちゃんの彼氏は誰ですか」
「及川さんです」
「ナマエちゃんが好きなのは誰ですか」
「及川徹さんです」
「だったら行かなくていいじゃん」
「だから、仕事上どうしても必要な付き合いなの。終わったらすぐ帰ってくるから、ね?」
まるで幼子をあやす母親のように柔らかい口調になるナマエちゃん。必要な付き合いがあることくらい百も承知ではあるが、いくらナマエちゃんにその気がなくても相手には関係のない話だ。俺が一目惚れしたように、きっと明日の合コン相手もナマエちゃんに惚れていやらしい妄想をするに違いない。あ、考えただけで胸糞悪い。
「徹?」
「終わったら迎えに行くって言うか店の外で待ってるからから店教えて」
「え?一人で帰れるよ?」
「ダメ。それとお酒飲まないって約束して。ソフトドリンクしか飲んじゃダメ。ね?」
「えー…わかったよ」
「あとね、」
ナマエちゃんを抱き締め、首筋を吸い上げる。綺麗な赤い痕がついた。
「これ、許して」
「な!こんなとこに!!」
「マーキング。ナマエちゃんは俺のって印だから」
「だからそんな気ないって」
「ナマエちゃんになくても相手はわかんないじゃん。他の男なんて見ないで、俺だけ見ててよ。ナマエちゃんは俺のでしょ?」
抱き締めたままそう言うと、ナマエちゃんは観念したようだ。本当は何一つ納得行ってないけど、駄々をこねるのはもうやめよう。
明日はナマエちゃんを迎えに行って手を繋いで帰ろうかな。ナマエの彼氏ですってにこやかに挨拶をしてやろう。きっとみんな悔しがる。
「ナマエちゃん、大好き」
「うん、私もだよ」
ナマエちゃんは俺のだ。
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