(初ルキドを意識した上での撃沈ル+キド)
(学パロで後輩と先輩)
屋上の給水タンクの下、黒の
セーターに身を包んだ赤毛の
男子生徒が体をぶるりと震わ
せた。北からの風が細く高い
音を小さく立てて吹き抜ける
。青すぎた空は物寂しささえ
も覚えさせる変わり始めた季
節と男の身一つを浮き彫りに
した。その空へ足を着くかの
ような錯覚を、ごろり寝転ん
だ男は見た。
おーい。
そこで不意に給水タンクから
声がする。正しく言えば、タ
ンクの上からだった。もう一
声、赤毛の名を大きく呼んで
から青年へはもう一歩と言う
ところの少年がひょこりと顔
を覗かせる。取付の悪い簡素
な梯子を器用に上って屋上の
さらに上へ来たのだろう。ナ
ニは高い所が好きらしい、と
言う言葉が寝転がる男の脳裏
をのんびり流れて行く。
キッドもこっち来いよう、
気持ちいいぞ。
行かねえよ、馬鹿野郎。
目を閉じたままの蔑ろな態度
を気にするでもなくにこにこ
と笑んだ少年は不安定な足場
で勢い良く立ち上がり、器用
に伸びをしては地を蹴って飛
び降りる。軽い音と少しばか
りの風と供に横へ一瞬にして
やって来た少年を片目を開け
て一瞥してから鼻を鳴らした
。やはり、風は冷たい。
柔らかい印象を残す白いパー
カーを着た少年は精悍だ。首
に下げた麦わら帽子が揺れて
、パーカーのフードに擦れて
は小さく音を立てた。太陽を
遮って横にしゃがんだ少年の
笑顔に、その背後の光との重
なりを見た。黒髪がきらきら
と反射して、白と背景のブル
ーのコントラストに自然と目
を狭めた男に、少年の屈託無
き笑顔が深まる。
何が楽しいんだよ。
んや、何にも。
ガキ。
あ!おれ英語やったぞ、キッ
ドって子供って意味だかんな
!
うっせェ。
ししし、かっこいい名前なの
になあ。
……。
何処からか欠伸が聞こえそう
な会話に飽きたらしい赤毛が
寝返りをうち、背を向けてし
まった様子に少年が文句を垂
れた。が、低く、小さく背を
揺らして聞こえた間の抜けた
くしゃみに再び笑い、手を伸
ばす。風に揺れる赤い髪が少
年は好きだった。
己の腹辺りへ伸ばされた両腕
の布地は白く、黒のセーター
の隙間を通す風を堰止めた。
少し身動いでその正しく子供
体温と名付けるべき暖かさに
欠伸を噛み殺した男が、自分
よりも一つ半低い旋毛の曲線
を眺めてはどうしたものかと
息を吐き、響くチャイムとそ
れよりも豪快に鳴った相手の
腹にとうとう、口端を上げる
のだ。
汁粉でも飲むかとぼやいた男
へ目を輝かせた少年が扉へと
急かすその色も体格もでこぼ
ことした背姿を、近かった青
空が欠伸の如く風を運びなが
ら眺めていた。
in great distress
青息吐息のヒーローマン
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