果てしなくロー+キッド。現パロ
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黒い鳥が何回鳴くと家路を失う、黒猫はおちおち道路も渡れない時代があった。知恵を持った猿すなわち人間は余りに愚かな境界を作ったばかりに矛盾と皮肉を繰り返しては、擦れていく。海岸へ打ち上げられたクジラの眼窟は深く、そのマリンブルーの情景を、俺たちは知り得もしないのに。

今週は動物愛護週間です。そんな事を知るのはラジオやテレビ、新聞の端とか、ありふれたメディア媒体に過ぎない。
猫の膓を出して遊んだ餓鬼も、鳥の首へ矢を射した野郎も、どうしたって死刑にはならねえ世の中に腹の底から異論を唱える奴は居るのか。イレギュラーとノーマルの中立で儲けが成される媒体業界にこの塩梅を崩せと言うのは酷とされる。私利私欲に塗れるよう構成されちまった社会の中じゃ人間の皮を被った豚ばかりだと一人ごちて今日も雑踏へ混ざるのだ。

枯れた鉄筋コンクリイトの籔を抜けたその先に佇む薄汚れた仔猫の、あの、チャコールグレイの双眼に何が映る。
身を縮め逃げ出した毛玉を尻目に、更に郊外を進む、進む、進めば見えた。樹の下佇む赤い髪の男。幼い記憶で夢見たシャンゼリゼも捨てたモンじゃないだろう。

挨拶ひとつ近付けば一度として此方を見ずに舌を打った相手の足元を見た。どうにも今日は異種に縁が有る日らしい。ユースタス屋の足元で置物宜しく鎮座するカラスが一羽、黒い眼球がぎょろりと俺を映した。

「今週は動物愛護週間デス」
「なんだそりゃ」
「知らね」

下らねえと溢した男がしゃがむ。黒く光る割と大きなソイツは動かない。否、動けないのか。鳥だってショックのひとつふたつ受ければ動けなくなる事があるかもしれねえし、俺たちからは見えないだけで傷を持っているのかもしれない。自分より数倍でかいナゾの生き物エックスふたつを前に飛べねえこいつは憐れこの上無い存在だと思考は辿り着く。

「トラファルガー」
「あ?」
「俺は賭をする事にした。」

緩く吊り上げられたユースタス屋の口端。どうやらこの男、偶然出逢った飛べねえカラス相手にこれといった損も得も無え賭事を申し込むようだ。

「根性絞って生きるかこのまま猫でも犬でも相手に野垂れ死ぬか、俺が見届けてやる。」
何て事は無い、男の興味はこの鳥の延命にではなく生と死に在った。動物愛護も糞も前提と出来ないこの擦れた世間を煩わしく思っていたのは俺だけじゃあ無かった訳だ。


白い腕が黒い躯へ伸ばされて、ユースタス屋の爪先とその羽毛の色彩は一体化した。抵抗無く持ち上げられたカラス。家行ったらしっかり手を洗え。

「てめェはどう思う。」
「投げて飛べりゃユースタス屋はきっかけを作った大恩人、そのまま落ちりゃお前は結構恨まれ多分にこいつは死んじまう」
「……。」

両手にカラスを抱えたまま立ち上がるユースタス屋がフン、と鼻を鳴らして相変わらず無表情なソイツを見下ろした。
息を軽く吸う。東の空を遠く見上げた男が、腕を勢い良く持ち上げて。

「、ッ!」
「お、」

高く高く放られたカラス。そいつは微動だにしなかった両翼広げてバサリバサリと飛んでいく。反動で抜けた黒羽がひらり舞って、どんどん黒色は遠くなった。

そして心臓が少なからず高鳴った。ああ、こんなにも俺は。本能なんてもんだけじゃなくこの男に。
「……今すぐヤりてえ」
低く呟いた言葉は空を見上げるユースタス屋に届かない。本当、堪らねえよ、お前。

「セコく生きろよ、死に損ない!!」


そうして高らかに笑った男の口の、
なんと大きく、獰猛な事だろう!



くちなしの花
(くちびる、言葉は特権)


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一ヶ月近く我が家に居候していた鳩を無事放鳥出来ました。逞しく生きてくれる事を願って。












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