暗いです。おかしくて可哀想なローさんが嫌な方はリターン
(心臓が震える時は電気の流れる時とユースタス屋の手のひらを耳に当てた時。
燃える音がする、命が?生きるために細胞は死ぬ事を繰り返すというのに、生きるために俺達は息をするのに、生きるということは、死へ歩くことで、つまり細胞の生死の螺旋は死ぬためのカタチで、死ぬために生きる、息をする、死ぬために燃やす、生きる生きる死ぬための俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は、お前は、俺も、お前も、どちらも望んじゃ居無え筈だ。)
「はッ……ァ、…ユースタス屋ァ、」
あまりの気持ち良さにびくびくと腰が跳ねて精液が飛び散る。ぱたぱたと落ちるその音が止んでも俺の左腕は熱くて熱くて堪らない、突き刺していた注射針と濡れてはいるが空の小瓶は疼いた足先に蹴られてソファの下の闇へ姿を消した。
死んだ様な目をした、顔中痣と血に塗れたユースタス屋が俺を見ている。それを見付けると静かに揺れていた電気がまた流れ出した気がして俺は興奮する。俺の数歩先に転がるユースタス屋の元へ這って、俺は下半身に何も纏っちゃいねえが構わずマグロ宜しく動けないそいつへ跨がった。
電気は、気持ち良いのに。ユースタス屋は受け入れようとしない。刺してやろうと持ち出す度に針は折られて勿体無え。傍に転がる折れたそれらは頸のひしゃげた汚え死体の様に見えて目障りだ。
壊れた蛍光灯は何も照らし出さないばかりで月も隠れた今夜はユースタス屋の赤い目玉と光る血と涎がよく映えた。
両手をユースタス屋の胸元へ着いて、薄く開く目を覗き込んでやっても細過ぎて俺の姿なんか映っちゃいない。その時四つん這いの己の姿が酷く獣染みたように思えて笑えた。
どうして俺達は四本から二本で歩くように、立つようになったのか。
教科書へ載っていやがる様な答えは所詮、虚言だ。
人間求め合う時はいつだってこうして四本足へ退化する。況して片方は足も手も使わ無え。獣で結構、だが男女間にのみ成立するらしい交尾の定義は次世代の生成だ。
何も生まれ無え俺達の交尾には咎める奴も居なければ薦める奴も居ない。覆い隠されるべき可哀想な獣はその虚無感から刺激を求めるもんだ。
ユースタス屋は電気、要ら無えと言う。そして俺を馬鹿みてえに甘やかして形式ばったキスをして、馬鹿みてえに甘いセックスをさせる。
それだけで事足りるユースタス屋は欲無しだと言ってやった時はそうだなとユースタス屋は俺を見ないで言った。殴られても犯されても俺に甘いユースタス屋はとことん馬鹿だが居なきゃ俺がマズい事になる。ユースタス屋のこの手は俺の延命機器だ。俺のものだ。
「……、………。」
「何、聞こえ無え、ユースタス屋、」
目の前の男が口だけを動かすと血が流れて伝った。喉が潰れて聞きとれやしない。耳を口に付けてやると不機嫌そうな息が返事をしてそのままユースタス屋は黙った。
すう、と剥き出しの足が冷えてユースタス屋の衣服へ擦り合わせる。下肢の熱が触れてぴくりとユースタス屋の白い腕が動いて、迷わず俺は、その手を耳へ当てる。そうすれば心臓が震える。ユースタス屋の音がする。生きている死ぬために細胞が廻って死ぬ生きる、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死んでいく。
動悸が激しくなりだして吐きそうになりながら涙が溢れた俺を、掴んでいたユースタス屋の腕が抱き締めてきて音が全身に広がった。ユースタス屋ユースタス屋と白痴のように声を上げてただただ喉が渇れても震える空気を確かめる。
ぼろぼろ落ちる水がユースタス屋の顔へ流れて、それでも血を洗い流すには足りないままだった。
楽になる時はいずれも絶望的な迄に「死にたく」なる一歩手前だ。
死にたくなることは生きたいと欲することだなんて誰が言った。
そうしてユースタス屋へしがみ付く俺は紛れもなく四本足の人間で、しかしながら人間だけの特権とされる言葉は互いに紡げる事は無かった。
汚れっちまったアポトオシスの夜に
(切って紡いだ生命線)
アポトーシス:細胞の壊死
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アポトーシスの繰り返しで人体ができる、という生と死の表裏関係が面白くて書いてみましたが撃沈という
ローが死ならキッドは生でひとつになれる
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