「NOお前、NO俺。」
(NO俺達、NO世界!)
ピエロ、
ジレンマ、
カオスの夏
ジイジイと蝉が残り少ないのであろう命を嘆く。夏休み前実に一週間だった。
猛暑に当てられた男子高校生二人が弱まりを知らない日照へ懲りもせず屋上に転がって居る。片方は鮮やかな赤毛を逆立てた男らしい体躯の見たところ所謂不良生徒。しかしその風貌に垣間見える発達途中なあどけなさ残る表情と、片手にしっかり握られた髪色と同様な林檎印のパック飲料が何とも言えないギャップをもたらしている。癖なのかストローの先端は噛じられて無惨な姿だ。
横に転がるもう片方は深い藍色の頭、に映えるピアス、顎に整えられた髭に極めつけは存在感抜群の隈。顔は端正だが近寄りたいかと聞かれれば答えは九割九分、ノーだろう。実際のところこの男の学年での評判と言えば苦々しい単語が全体を占めていた。
この生徒二人、絶賛無断欠課中である。
「うー…暑ィ…。」
「……。」
「……はー……。」
そしてこの生徒二人、絶賛かどうかは閉口するが恋仲に有り、幾つかの段階はすっ飛ばしたり順番を間違えつつも(ほぼ髭面の責任による)それらしい事はしている。
一応同意の上なのか、赤毛も満更では無いらしい。
「……。」
「………。」
そんな中暑いやら溜め息やらでごろりと髭面側に寝返りを打った男は、相手の、沈黙のままにぎょろりと気持ち悪く見開かれた視線の先を辿った。刺さる程に感じたそれは案外早く着くもので、自分の左手、に握られたパックだった。
何だろうか。と赤毛が思う内にのっそりぐったり視線の熱苦しさを変えないまま起き上がった男は漸く口を開く。
「……ユースタス屋、……。」
「あんだよ?」
もそもそ。いつも命令口調若しくは随分と人を小馬鹿にした態度で接してくる筈の男が無表情、の中に気味悪さを多少ブレンドした顔を貼り付けて口を動かす。
ユースタスはこの現象を幾度も目にし、学習している。…否、学習しているかどうかは分からないが天然の勘で上手いこと場を治めて来たのだ。
「……、それ、林檎、だよな。」
「ああ、林檎だな。」
「甘えよ、な。」
「そうだな。」
「………。」
「………トラファルガー?」
内容の真っ白な会話を終えてなお、トラファルガーの視線はユースタスの左手に釘付けだ。
むくりとユースタスも身を起こす。動く対象を追ってトラファルガーの眼球もぎょろりと動く。
「……何、喉乾いてんの?お前。」
「……!………!!」
言えばトラファルガーはぴくりと肩を揺らし、こくこくと首を上下に振る。
ユースタスはパックとトラファルガーを交互に見てから、トラファルガーの横に鎮座する未開封の缶珈琲を捉えた。
あんじゃねえか、と疑問に思いつつもまあ今は甘い物が良いんだろうと胸に留める。トラファルガーは唐突に顔に生気を取り戻しやけにきらきらと目を微妙に輝かせユースタスに近づいて来る。
そしてユースタスは
ストローを抜き取って
パックをトラファルガーに差し出した。
「…あ?」
「は?」
ぴたり。手を伸ばし欠けたトラファルガーの全空間の時間が停止する。間抜けな顔のままたっぷり三秒、痺れを切らしたユースタスが青筋を浮かべた。
「んだよ、要らねえのか?」
「……トロー……」
「は?」
「何で、ストロー、抜くんだ?」
「いや、噛んじまって潰れてたし飲み辛えだろ。」
「意味無えだろう、貰う、意味が、無えだろう、」
「いや、何言ってんだ?」
大丈夫かお前。ぶつぶつと下を向くトラファルガーへ本気で意味が分からないとユースタスは怪訝そうに顔をしかめ、もう一度自分の手にあるパックを眺める。コンクリートに放ってしまったストローはもう使い物にならない。そこでユースタスは無い頭を精一杯フル回転させて答えを出すのだ。
「おい、トラファルガー。」
「……何、っ!?」
「……。」
若干涙目になっていたトラファルガーの襟首を掴み、ユースタスは唇を寸分違わずに押し付けた。
そして半開きの口に、甘い液体を不器用に流し込んでやる。ごく、と目を見開いたままのトラファルガーの喉が動く。
「な、ユ、ス、タス、屋、今、おま、」
「うえ、零れた。」
ごし、と濡れた口を拭いながら、ストロー無くちゃ飲めねえなんて餓鬼だなトラファルガー、とユースタスは得意気にしている。三途の花畑まで昇天し欠けたトラファルガーはぽーっとしたまま震えだす。
「今、今、くち、ユースタス屋が、口移、し、」
「は?てめえ何だよ今更…。」
もっと意味分かん無えことやらせんだろうが、いっつも。この変態。と不機嫌そうにユースタスは言う。
そんな言葉も右から左へ、いつまでも感動しているトラファルガーはがばりとユースタスの汗滲む背中へ腕を回し胸へ顔を押し付けた。言葉に成らない言葉を喉で唸らせながら脚まで腰に巻き付けている。
「だー!暑ぃ、馬鹿!」
「駄目だ、俺、駄目だ。」
「何が!」
下半身に決まってるだろう今すぐやらせろ、と吐こうとした音は鳴り響くチャイムに掻き消された。
「次、体育だ。」
俺、出る。そう言ってすく、と立ち上がるユースタスはべちゃりと落下したトラファルガーに気も留めず、周りに散らばるゴミやら携帯やらを拾った。
そしてトラファルガーの方へお前はどうすんだと振り返るが、当のトラファルガーと言えばまた忙しなく動く願望の矛先がお次はユースタスの空いた右手に向いて居り、手、繋ぎてえ、言えねえ、繋ぎてえ、言えねえ、ともじもじくねくねそれはもう気色悪く身を悶えさせるのだった。
「……。」
そこでまたこの健気な赤毛は脳をこの恋人の為にフル回転させ、またもや得意顔で答えを導き出す。
「トイレ行きてえんだろ。くねくねすんな我慢しろ。」
ったく、と息を吐いてトラファルガーの左手を握り、男子トイレへ足を向ける。
ここでまた有らぬ方法で叶う願望にトラファルガーは悶絶し、ユースタスは自分の面倒見の良さに感心する。色々と間違っていることに気付かないのがまたキズだが、それはそれでこのカップル、丁度良い天秤に乗っていると言えるのかもしれない。
end-
補足:ここでのパックジュースのパックはあの、牛乳パックのような三角口のアレです、500mlの…!分かりづらくてすみません!
10000企画にて蜂子様よりリクエスト頂きました、キスや手繋ぎなど、戸惑うツボのおかしいローとお馬鹿だけど男前受なキッドで青春レモンスカッシュカルピス風味でした!(笑)
いや、何というか…ただのヘタレ話な上季節感がアレで本当…すみません…!
しかも最初間接ちゅうさえ言い出せてません、トラファルガー^^うわあ
しかし学パロ、書いてて楽しかったです*
蜂子様、この度はリクエスト有り難う御座いました!m(__*)m
-
- 48 -
[*前] | [次#]