(Viva-Halloween !!)
※※人間ロー×吸血鬼キッド※※
何処とも知れぬ、酷く廃れてしまった御伽話は果たして何れ程有ったのだろうか。
語り継がれる事の無い愛を嘆くよりも、
其処へ光を見出だそうともがく両翼に
今夜もまた黒が落ちる。
「吸血鬼」則ちヴァンパイア、と呼ばれる種族にユースタスは生を受けた。
長く残り続ける御伽草子に疎まれ続けた彼であったが、と有る満月の晩に降りた人間の世界の男と恋に落ちる。
男 トラファルガーはヴァンパイアとして生きるユースタスへ奇異な視線を送る事も無く、一人の命有る者として彼を受け入れ愛へと促した。
ユースタスにとってそれは涙が出る程に嬉しく、同時に酷く残酷なものだった。
降り積もる憂鬱の欠片は時が経てば経つ程、ユースタスを自墜の世界の隅へ追いやる。その訳は。
元来、ヴァンパイアは人間の血を吸い続け今日の世代まで代を成して来た。
ユースタスにとってもそれは例外で無く、罪有る者の血や先の永く無い人間の血を定期的に摂って生きて来たのだった。
吸わなければ、自分が死ぬ。
生まれた瞬間からぴたりと背に貼り付き続ける隣り合わせのそれに彼はトラファルガーと出会ってからというもの、初めて恐怖を覚える。
トラファルガーはユースタスが自分以外の人間から血を吸うのを許さなかった。
トラファルガーが初めてユースタスに自分の血を与えた晩、ユースタスはその血の甘さに目眩がすると同時に酷い罪悪感に見舞われたのだった。
愛した者の血がこの上無く極上であることをユースタスは耳にはしていたが自分がそれを味わうなどと予想だにしなかった。
自分の血を吸い生きるユースタスにトラファルガーは満足し、その少しだけ気だるくなった身体で彼を抱く事が好きになる。
そうして日は重なるが、出会ってから一年程経ったある満月の晩に、トラファルガーはユースタスの、月明かりだけが射し込む部屋で彼と対峙して居た。
ここ数日ユースタスはトラファルガーとの逢瀬を頑なに拒み、また、その数日以上にトラファルガーの血を吸って居なかった。
トラファルガーがそれに気付かぬことも無く、半ば無理矢理訪れた吸血鬼の彼はそれは酷い有り様であった。
元々白い肌は蒼白く窶れ、目の下には薄い隈が蔓延っている。
壁へ凭れる様にして座る身体の四肢からはだらりと力が抜けて居り、トラファルガーの姿を確認するなり切な気に赤い瞳は歪められた。
「…来るなって、言っただろうが。」
久しく聴いた愛しい声までもが彼の渇きを顕著にして居て、トラファルガーは眉間を諌める。
遺憾の表情で近付き目の前で腰を降ろす相手をユースタスは薄く開いた目で見遣ることしか出来ず、顔を背けた。
「ユースタス屋。お前、随分長く血を吸っていないだろう。」
頬に手を添えて話すトラファルガーは無表情だった。
「…んな事無え。前、お前があんなに、」
力の無い喉で絞り出すように口にするユースタスの言葉はトラファルガーからすれば記憶も薄い程以前の事であり、しかしそれで事足りる血の量でも無かった事はしっかりと記憶していた。
無言で自分を睨み、放れようとしないトラファルガーにユースタスは言葉尻を頼りなくし、口をつぐむ。
逃げるように目を瞑るが添えられた手に前を向かされてしまう。
「飲め。今此処でだ。」
「……いらねえ」
「また俺が死ぬかもしれねえとか下らねえ事考えてんのか?」
「そんなんじゃ、無え。」
「嘘だろう。いつも気持ち悪い遠慮した吸い方しやがって」
「黙れ、!」
「……。」
少し声色を強めただけで息の上がってしまうユースタスに痺れを切らしたトラファルガーは静かに立ち上がり、傍の小机へ足を運ぶ。
その上には一口分だけ欠けた林檎がひとつと、栓が閉められたままの赤ワインが一本置いてあった。
「…こんなので気を紛らわそうとしてたのかよ。」
馬鹿が、と小さく溢しその瓶を掴む。
ユースタスは立ち上がる事も出来ずにその光景をただ力無く眺めた。
「……。」
そして何の躊躇も無しにそれを机へと叩き付けた。
響き渡る音と充満する匂いにユースタスは顔をしかめ、意味が分からないと抗議をしようとする。
しかし直ぐに男がとる行動に目を見開き言葉を失った。
「ッ、」
「てめぇっ!何して、」
散った硝子片のひとつを拾い上げたトラファルガーは己の首筋にそれを宛がい、勢い良く手を動かしたのだ。
流れ出す血をそのままに破片を捨てるトラファルガーは無表情で、条件反射のようによろりと、それでも必死に立ち上がろうとしたユースタスはまた相手の手によって動きを止められてしまう。
「飲め。」
そして久方に鼻を掠める甘い血の香り、目の前に溢れる林檎にも赤ワインにも見出だすことが出来ずに居た独特の赤色にユースタスは己の神経が反り立つのを感じ、
抗うことの叶わない種族の血に息を飲んだ。
ぴたりと固まるユースタスの髪を掴みそのまま自分の首筋へとトラファルガーは促す。
「ッ、ぅ……!」
「美味いか?なあ、ユースタス屋。」
犬歯が現れ否応無しにそれを飲む。
壁に凭れたトラファルガーはユースタスの後頭部に手を添えたまま、弛緩して行く久し振りの感覚に身を任せた。
「……泣くなよ、」
じわりと鎖骨から衣服に伝う熱を感じてユースタスが涙を溢したことに気付く。
ユースタスはいつも甘いと感じる筈のトラファルガーの血が塩辛いと感じ、しかしそれは紛れもなく自分の涙だと更に視界を滲ませるのだった。
「俺の血で生きるお前が好きだ。」
顔を放す優しくも憐れな吸血鬼に口付け、自分の鉄の味に自嘲気味に笑いながら
トラファルガーは目の前の男を抱き締める。
「折れる、」蝙蝠の憂鬱。
end-
(それでも蝶に成りたい。)
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5000フリリク企画でリクエスト頂きましたハロウィンネタでした。
…ハロウィン、と言うか、ただの吸血鬼パロディなんです…けど…!(ずーん)
ちなみに好きな歌詞から少しだけテーマを借りました。お気付きになられたお方は是非お友達に←
それでは6番。様、この度はリクエストどうもありがとうございました!m(__)m
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