※※side killer※※







議、
「好い加減にして下さい。」
















身体中がギシリと痛む。
あんな姿勢で寝たからだろうか、と首から音を立てながら思った。

キッドの部屋を出て後輩と二人で緩慢に歩を進めた。日曜の昼間、二日酔い宜しくな頭もあってか妙に気だるい。ちらりと横の後輩を見ても(元からの顔付きも有るが)欠伸を漏らしながら実に怠惰という雰囲気を押し出して居た。


(…そんな事より。)



数日前からキッドの様子が明らかにおかしくなり始めた。
癖なのか常に眉間に寄せられた皺は普段とは違った、何かから逃れたいかの様な形を刻み、その下の目には薄く隈をこさえている。口を開けばいつも通りの会話だが時折見せる遠い気の抜けた眼差しが妙に悲しげ且つ、疲弊を露にしていた。
昨日部屋に訪れた時もインターホンには気付かない、ベッドから落ちる、音を立てるヤカンを前に気を飛ばす。
極めつけはコンビニから帰った際の不審過ぎる有り様だ。心配する側としてはもう限界と言ったところだった。

ここでずっと引っ掛かり続けるのは横を歩くこいつとのキッドの部屋での会話。
今朝、キッドの熱を計った時に見せた僅かな彼の動揺と、笑んだこいつ。


「……キッドは、気付いて居たな。」
「何がですか?」
「惚けるな、キッドの首の跡だ。」
「ああ、今朝洗面所で気付いたらしくて。」
「……そうか。」
「ふふ、可愛いらしかったなあ。」
「……。」

キッドが、危ない。

何について?そんな事は知らないが。
こいつは、多分。全てとは言わずとも知っている。

相変わらずのゆっくりとした歩調の中、そう言えばキッドが妙な問いかけをしてきたなと思い出す。これについてもこいつは知っているのだろうか。
一歩踏み違えた知識についてはやたらと詳しいこいつの事だから期待が持てるかもしれない。

「…キッドから聞かれたんだが」
「はい。」
「タチと、猫?の意味が知りたかったらしい。」
「………。」
「………。」

俺が口にした言葉を聞いて、微笑を崩さないままぴたりと停止した。
「…キッドの頭が?」
「ああ。」
少し、冷たくなったかもしれない。
こいつの微笑が。

「そこまで吹き込まれて居たとは…」
「……おい、だからどういう、」

意味だ。そう言おうとした時だった。

「……。」
ふと前を向いた後輩から完全に笑みが失われた気がした。
つられて前を向くと此方に向かって歩いて来る男が一人。

帽子を被って居て、気だるげに足を進めている。その男の周囲の空気雰囲気何もかもが其処だけ低温なのでは無いかと思わされた。陰を作られた目を縁取るくっきりとした隈と歪んだ口元がその異質を更に確かなものにしていて
極めつけには、この見事なまでの快晴の昼間にビニール傘を一本ぶら下げて居る。


知り合いか、そう尋ねる頃にはこいつの薄い笑みがまた貼り付けられて居た。

立ち止まっていた俺達二人へ視線を向けた男は、また違った胡散臭い笑みのまま近付く。

「お兄さん二人に、聞きたいことがあるんだけど。」

その間2メートル。
音無く立ち止まる男が口を開いた。

「……何だ。」
嫌な胸騒ぎは無視をして、小さく返す。

次の言葉にとうとう胸騒ぎは隠れきれなくなった。


「この近くに、赤い髪の男は住んで居ないかなぁ。」


横で後輩がすぅ、と目を細めるのが分かった。口だけが相変わらず笑っている。

今頭の中を占めるのはここ数日の憂鬱な、辛そうに顔を歪める友人の姿だ。赤い、髪。

「……知らないな。」
「そいつは残念。」

緩く睨みそう返すと息を吐いて笑いながら男は肩を竦めた。
そのまま俺達を過ぎて歩みを進め出した奴の持つビニール傘にばかり視線が行く。
何処にでも有る、ごく普通の、ビニール傘。 傘。


傘 赤い髪 友人の変化 彼奴の首筋 奇怪な男


ぐるぐると単語だけが浮いては消えを繰り返す。繋がること無く散って行くそれらに苛々としたものが積み重なり頭痛がした。そしてそれは横で発せられた言葉に完全に停止する。

「俺、知ってますよ。」

始終黙ったままだった後輩が口を開いた。そしてあまりの外れた言動に目を見開く。
男は無表情で振り返り薄い目で後輩を見遣る。

「その道を突き当たった建物の二階、一番奥の部屋。」

ニヤリと歪む男の顔。ひとつ遅れて後輩も微笑を洩らした。

「…酒場に居たな。」
「何の話ですか?」

理解出来ない会話を交わし、
片手をひらりと振ってから男は消えた。

程無くして俺は目の前の男に掴み掛かる。
「、どうして…!」


表情を崩さないまま俺の手をやんわりと放し、こいつは言う。

「キッドの頭の為です。」
「何を、」
「……。」

男が消えた方へゆっくりと首を向け、こいつはそのまま黙りこんだ。



再度歩き出した際に聞いた
キッドの問いかけの答えを耳打ちされた瞬間、大切な赤い髪の友人の安否を絶望の淵で思ったのは言うまでもない。



to be continue-















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