日々の生活に於いて消費されて行く金に酸素に俺の寿命それから降り積もるのは当たり前の時間と少しの疲弊、足して引いて零に限りなく近くなる。そうしてまた明日が来るんだろう、そうだろう。
頷く野郎は頭ん中の俺一人、ああ実に滑稽だな、泣けるぜ相棒。





が飲み込む耳飾り










どれくらい時間が絶ったのか、20分なのか一時間なのかも解らないままだ。
少しだけ残る嘔吐感を息を飲んで無理矢理鎮め、瞬きを数回して滲んでいた視界を晴らす。と言っても目の前に景色が有る訳じゃ無えからまた眉間に皺が寄る。畜生が。
途端 す、と耳に回されていた片腕を外された。圧迫と微妙な無音からの解放に両の耳が戦慄き、空気に触れてじんわりと熱を散らすのが解る。

「……おい…、」
「連中はもう居ない。吐いても問題無いな。」
「もう、いいから、…放せ…。」

未だ背中に回る男の腕から逃れようと身を捩った。やたら顔が近いのが癪で下を向きながら話す他無い。

「…俺としては非常に残念だが、」

また殴られるのは御免だからな、などと宣いながら腕を外された。また歪められた口元の痣に目が行き、逸らす。
そのまま力が入らなくて壁に凭れた俺とは対照に男は立ち上がった。手を貸そうかなんて言いながら。
弛く首を持ち上げて睨み付ける。誰のせいでこうなった。てめェが俺をこの街へ連れてきて此処へ連れ込んで勝手に盛りやがったんだろう。
しかしあの思い出したくも無い闖入が無ければ俺はどうなって居たかなんて想像もしたく無い。どちらにせよ今の俺はそう、この男の存在に疲れている。苛ついている。そして愚かで弱い自分にも。

「…場所を変えるか。歩けはするだろう?」
「もう、嫌だ。…帰らせろ。」
「俺に命令するな。話したい事があると言った筈だ。」
「ざけんな、だったら此処でさっさと話せよ。」
「…やれやれ、」


わざとらしく肩を竦めて首を振る男が心底憎たらしい。俺はお前と関係を持つ気なんて米粒ほども持ち合わせちゃ居ねえんだ、此処で会話をしたところで何かが変わるのか、答えは否だろ。

男は音も無しに俺の横に腰を降ろしてから、首を傾げて俺を見た。可愛気も糞も無え。どんよりとまた胸中に雨が降る。何なんだよこいつは、
「名前。」
「あ?」
「言えよ。知りたいんだ。」

問いたい。初対面で突然口を舐め尻を撫で、翌日強制的に男の園に連れ込み路地裏へ押し付け結果的に野郎同士の情事の触りを間近で鑑賞せざるを得なくなった原因の見ず知らずの男に安々名前を教える奴が居るのか?

「何難しい顔してんだ。」
「…話ってのはそれだけか。」
「ああ勿論お前が教えたいと言うなら番号住所に趣味何でも聞いてやるさ。」
「……。」

もう考えるのも面倒臭くなる程馬鹿馬鹿しい且つ脳味噌を直接扇子で扇がれているかの様な生ぬるくぐるぐるした感覚に気が遠くなった。頑張れよ俺、そうだ気を持ち直せ俺。つーかこいつのプラス思考の度合いはいっそ高天の原へ降臨した神仏もきょとん顔レベルじゃねえのか。とんだエゴイスト野郎振りもそうだが。

「なんだ照れて居るのか?なんなら俺から名乗ってやるよ礼儀だからな、一応。トラファルガーだ。」

ここまで全身が受け入れる事への拒絶を示す情報があっただろうか。そして実に浅はかな事だがそう悟れば悟る程その情報は単語は声は頭へ刻まれてこびりついて放れなくなる。タチが悪い。この男の様にだ。
ここは、下手に憤るよりも考えてかわすに限ると即決。「俺はお前に興味も今後の関係も求めちゃ居ねえ。」
「そうか。俺は有る。」
「……。だから「有る。」

「俺はお前に興味が有るんだ。」

いつの間にか顔だけでなくしゃがんだ身体ごと此方を向いていた男に、じい、と隈の縁取る目で捉えられてまた振り出しへ戻された。何だよ、何なんだよお前は。どうして俺なんだ。どうして。
無駄に整った顔と弧を描く口。耐えられなく下を向いても刺さるそれに自棄になる。此処で完全に一時毒された馬鹿な俺の思考。


「…ユース、タス。」

開いた口はからからだ。その目から逃げられるんだろ。早く。警鐘が鳴る。またあの変な汗が出て俺が俺じゃなくなる様な錯覚に落とされる瞬間が怖い。

「フフ…下も、と言いたいところだが、まあいずれ、な。ユースタス屋。」
「何だよ、屋って…」
「気にするな。」

不気味な笑い顔は変わらない。それでも酷く上機嫌になったらしい目の前の男を見れないで居ると なあ俺の名前は呼んでくれないのかとか下らねえ事を抜かしやがるからふらつきながらも立ち上がって路地裏を抜けようとした。これ以上こいつに関わると俺は変になるんだ。どうなるかどうしてかなんて知らねえ。

「そう急ぐなよユースタス屋。お前が襲われちゃいけないから駅まで行ってやる。」
返事をする気も起こらず足を引き摺り駅へと向かった。来た時とは逆、俺の後ろに一定の距離を保ったままのあいつの気配。

振り返りこそしなかった改札への道の最後耳へ入った「またな、ユースタス屋。」と云う言葉ががんがんと頭に響いては頭痛となって意味が解らない。無い。無えよ。何がだ?解らない。


アパートへ帰ってから携帯を開くとキラーからメールが入っていた。明日の夜に後輩も呼んで軽く飲まないかと言った内容だった。場所はいつも俺の部屋だ。
明日は土曜で学校も無い。冴えない頭で二つ言葉で返信をしてからベッドに倒れた。疲れたんだ。


疲れただけだ。
頭にこびりついたままの受け入れ難い情報に目を瞑り、髪を意味無くぐしゃぐしゃにかき混ぜてから、寝た。




『きっとこのままじゃ終わらないんだ。』
相棒お前までそう抜かすのか、
そういえば日々に於いて特定の人間が消費するものを冒頭でひとつ、忘れた様な気もするな。



to be continue-


話の進まなさに管理人唖然(瀕死)











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