喧嘩の原因は私の自己中心的な言い分だったからできればあまり話したくない。奇妙に流れる沈黙を断ち切るすべを知っていてもそれを実行する力というものが私に著しく欠如して、それはつまりこの状態から脱出できないことを暗に示していて、結局それは全てわたしの非に直結せざるを得ないのだ。視線も合わせない彼の表情はきっと私への怒りを滲ませていることだろう。感情が爆発して解き放った私の言葉がどれだけ彼を傷つけてしまったのかなんて、考えたくない。言い訳ばかりをして“ごめんね”の一言を言う勇気がないから更に言い訳を重ねて。そんな自分が情けないと思うけれどやっぱりどうしても言葉が出てこなくて、ただただ壁に掛かっている時計をじっと見つめていた。普段は気にも留めていない秒針の規則的な音は私を焦らして追い詰める。けれど時計を見ることでした時間とともに過ごしていくことができない私がいるのだから仕方がないのだ。




いつも悪戯が成功したあとのような最高の笑顔をむけてくれるシリウスが今は背を向けるばかりで、そんな事実にわけもなく孤独を感じたりしてバカみたいだと思いつつも拭えない寂しさは連なっていく。時間が経てば経つほど寂寞が浮き彫りになってきて謝ることすらできない自分というものがひたすら情けなくて言葉を交わさない空間に負けてしまいそうだ。




鼻の頭がじぃんと熱を帯びてきて、気を抜いたらきっと目にたまる涙がこぼれてしまうんじゃないかと思った。気付けば彼はいつものような笑みで困ったように笑っていて私はその笑顔を見てついに涙を零してしまう。





ごめん、ごめんね。ごめんなさい。





こんな形で気を引こうとするなんて間違っている。ずるい。卑怯だ。なんで私はいつもこうなんだろう。どうしてこんな形でしか道を見つけられないんだろう。なんで、どうして、



「泣くな、アヤ」





俯く頭をくしゃりと撫でる大きな手の感触を感じながら、軽率な言葉でシリウスを傷つけたことを本当に謝らなければならないと思った。浅はかで子供で大人になんて到底なれそうにない私だけれど、それでも必死に言葉を手繰り寄せている。けれどやっぱり見つけることのできた言葉はただ一言で、私は流れてくる涙を拭いながらそれを何度も繰り返した。