「メリークリスマス!」

あたしが口にすると、リドルは眉を顰めてとても(それはそれはとても)不愉快そうにあたしを睨んだ。なんだ、あたしが何をしたって言うんだ。せっかくのクリスマスだから楽しもうと思ってケーキを用意したって言うのに。とかなんとか心の中で文句を言ってるけどぶっちゃけリドルの一睨みはとっても恐ろしいので恐怖ゆえにあたしはあははと誤魔化し笑いをした。するとリドルは大きな溜息をついてから読みかけだった本に再び目を向けてしまった。え、なに、あたしのこと無視?恋人のこと無視?クリスマスに?無視?ありえない!

「ちょっとちょっとリドルさん、アヤちゃんが泣いてるよ」
「……」
「クリスマス祝おうよ!せっかくケーキ用意したのにー!」

そうだよ、面倒くさがりのあたしがしもべ妖精と一緒に作ったんだよ。リドルと楽しいクリスマスを祝うために!リドルにとってはどうでもいいかもしれないけどあたしのその努力は認めてくれたっていいじゃないかばっきゃろー!リドルのおばかー!成績良くても顔良くても彼女といっしょにクリスマスを祝わないなんてノリ悪いぞ見捨てられるぞ見捨てるぞ!(ってなんだかんだ言いつつあたしはリドルにベタぼれだからそんなことはしないけどさあ) でも俺様何様リドルさまでもちょっとはノリってものを覚えたほうがいいよ本当に!まじで!

「どうして僕がキリストの誕生なんて祝わなければならないのかな?」
「いくら自分至上主義だからってそんなムキにならなくてもいいじゃん。キリストだとかそんなん忘れて楽しもうよ!」
「別にムキになってるわけじゃないよ。面倒なだけだ」
「それ余計悪いから!あたし傷ついた!」
「いま僕はこの本を読んでいる最中なんだから邪魔しないでくれる」
「……! それはあたしよりその本をとるっていうリドルの気持ちですか?」
「うるさいアヤ。黙ることが出来ないのか?」
「……」

リドルの言葉にあたしは言われたとおり黙り込んだ。というか何も口に出来なかった。リドルがここまでイベントを、彼女を!(ここ強調)大切にしないやつだとは思わなかった。ああ、あたし恋人の選択間違えたな。もういいよそれじゃあたしは他の誰かとクリスマス祝うよ。リドルのばーか!ばーか!といってもクリスマスにフリーの友達なんて居るのかな。きっとみんな予定入れちゃってるんだろうな。彼氏と過ごしてる子もいるだろうし。…本当はあたしもリドルと過ごしたかったんだけどな。いや過ごしてるけど、こんな冷め切ったものじゃなくていっしょにケーキとか食べて幸せだと思いたかったんだけど。(それこそ今年は特に) でもリドルにとってはそんなこと関係ないんだもんね。あたしがどんなつもりでいようが、やっぱりリドルはリドルで、こんな彼にとってはくだらないと思えるイベントに付き合ってる暇なんて無いんだ。そしてリドルには彼と同じようにクリスマスなんかにはしゃがない恋人というものがあっているんだろう。自分がリドルにつりあうなんて考えたこと一度も無かったけど、やっぱり悲しい。

「……」
「…リドル」
「……」

あたしが話しかけてもやっぱりリドルは目線を本に向けたまま少しもあたしのほうに頭を動かしてはくれなくて、正直とても虚しい気持ちになっている。もういいや、こんな思いでリドルといっしょにクリスマスを過ごすくらいなら、一人寂しく一人で過ごしてやる。べつに友達なんか居なくても時間は過ぎてくんだよ。どうせ何か口にしても無視されるなら、そんな寂しい気持ちでリドルのそばにいるくらいならしもべ妖精といたほうがマシだっつの。そう思って何も口にしないまま立ち上がって扉のほうに向かうと視界の隅でリドルがこっちを見たのがわかった。けど気付かない振りをして扉を開く。ケーキは自分のためというよりもむしろリドルのために作ったからリドルの部屋に置いたままにしよう。食べてくれるかどうかなんてわかんないけど一人きりで食べるよりよっぽど良い。もやもやしたものを心に抱えながら悲しい気持ちで扉の外に足を進めると腕を掴まれた。驚いて腕を掴んだ本人を見るとリドルが床に座ったままあたしのほうに顔を向けていた。

「どこに行くつもり?」
「どこって……」

行く宛が決まってなかったので何も言えなくて黙っていたらリドルはさっきよりも鋭い眼光で睥睨したので(ひぃ!)あたしはびっくりして固まった。なに、あたしはリドルの邪魔だったんじゃないの?本を読んでいる最中にわーわーうるさいから迷惑だったんじゃないの?それともこの足音すらうるさいとか?(そんなんだったらもうあたしはリドルのそばにいれない!)

「僕と一緒にクリスマスを過ごすんじゃなかったの?」
「…だって……面倒くさいんでしょ?」
「じゃあなに、君は僕にこの日予定を空けさせておいてどこか別の場所に行く気?いいご身分だね、何様のつもりだい?」

何様って何様って…なんでこの人こんな怒ってんの!?あたしはリドルに邪険にされたからどっか行く気だったのに。よくわかんなかったのでやっぱり何も言わずにリドルを見ているとリドルはまたもや大きな溜息をついて掴んでいたあたしの腕を引っ張った。予想外の行動だったのであたしはバランスをとりきれずにひっぱられた方向へ倒れこんだけど、リドルがちゃんと抱きとめてくれたので怪我なんてせずにすんだし痛いところも無かった。

「び、びっくりしたー!」
「君が悪い」
「え、なんで…」
「アヤのくせに」
「・・・・。あなたのなかでアヤ・ミカゲはどんだけ身分が低いのかな、ねえリドル?」
「僕よりはるかに低いよ、当たり前だろ」
「……(自分至上主義男め…)」

意味のわからないリドルに心底呆れているとあたしは自分の今の状況を思い出して戸惑った。そういえばあたしリドルに抱きしめられたままだよ。ていうか恋人にもかかわらずそれらしいことをしたことがほとんどなかったから慣れてないですびっくりします。

「リリリリリドルさん放してくださいお願いします!」
「僕の名前はリが五つもついてないよ」
「リリリリリリリリリリドルさん!」
「君驚いているように見せかけて喧嘩売ってるだろ」

まあいいけどね、というリドルの声が耳元で聞こえるとようやく体が解放されて自由になった。…いやもうびっくりした、びっくりしまくりましたよホントなにこの人どうかしちゃったのか?

「しょうがないから一緒に祝ってあげるよ、クリスマス」
「……え?」
「祝うって言ってるんだよ」
「ほんとに?」
「本当に」

まじか!やったー!やっほう!リドルとクリスマス祝えるってさ嬉しいな!どんだけ単純なんだよ自分ってつっこみたくもなるけど自分で突っ込む前にリドルが言ってしまった。

「君って本当に単純だよね」
「うん、自分でもそう思った」
「そんなに僕のこと好きなの?」

リドルは意地悪くにやっと笑っていて、あたしはこんなこと言われるなんて思わなくて何を答えるか迷ったけど、リドルはきっとうろたえるあたしを想像しているに違いないので、その想像を裏切ってやろうと思って笑顔で言ってやった。

「うん、大好き!」
「!」

大好き。リドルのこと大好きだよ。

リドルは凄く驚いた表情をしていて、そんな顔めったに見れないからじっと観察をしていると、そのうちまたあの自信満々の笑顔を浮かべて言った。

「当然だね」

やっぱりリドルはリドルみたいだ。あたしが笑うとリドルは杖を取り出して呪文を唱えた。何をするのかと思えば部屋の電気が消えて、どこからともなく蝋燭が現れて綺麗で儚い灯りをともす。部屋の天井にはきらびやかで今にも降ってきそうなほどの満天の星が広がっていてリドルが魔法で映像を作ったんだということがわかった。

「すごーい…!」
「君のためだよ。あのままじゃうるさくてかなわないからね」

リドルのその科白に嫌味の響きはなくて、ただあたしもリドルも笑っていて、本当に最高のクリスマスだ。二人こうして過ごせたことをあたしはこれから決して忘れないだろう。ずっとずっと、何があっても。


あたしはやっぱりリドルが好きだ。学生生活最後のクリスマスにどうしても二人で楽しく過ごしたかったのはこれがきっと本当に最後のクリスマスだと思ったからだった。リドルはこれからどんどん彼じゃなくなっていってしまうかもしれない。しあわせな日々なんて思い出せないくらい、ひとを殺していくだろう。あたしたちが何も考えずに笑いあっていられる時間は本当にあと少ししかなくて、だからこそ絶対になくしたくないものを抱く必要があるんだ。
あたしはきっとこれからもリドルを愛していける。こんなふうに無邪気に二人で過ごせるクリスマスはきっともうないけれど、ずっとずっといつまでも変わらない。

「さあ、君の作ったケーキを食べようか」
「うん!」
「それにしても僕の誕生日にはケーキなんか作らないくせに…」
「…え、ヤキモチ?リドルくんヤキモチですか?」(どきどき)
「…そうかもね」
「きゃー!」(ずきゅーん!)
「うるさい」




神さま。どうかどうか、清らかなこの夜に舞い降りた幸福が、忘れ去られることなく私たちの心の中に在り続けますように。







クリスマス夢。フリー。レイアウトはご自由に、もちろん報告不要。




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