「前見て歩かねぇと危ねぇぞ」
『だーい丈夫!!』
下を見ながらふらふらと歩くあたしに、前を歩くラクサスは呆れた調子で注意する。
今日はラクサスと仕事に行ってきた。ラクサスとの仕事は久しぶりで、やっぱりあっという間に片付いた。
『…よっと』
ギルドに帰るには山を越えなければならないため、ハルたちはさきほどから山道を歩いている。ちなみに今回の仕事、アイスは留守番だ。
普通に歩いても暇だから、と前を行くラクサスの影を踏みながら山を降りる。
『……ラクサス〜』
「どーした」
『あとどれくらい?』
疲れたわけではないだろうが、飽きてしまったハル。ラクサスはふっと笑いながらも、「もう少しだ」と答える。
『んー…、あ!』
ごそごそとポケットを探れば、今朝食べようと思っていたビスケットが出てきた。袋の中には一枚の甘そうなビスケット。
『ラクサス〜』
「…今度はどーした」
手にしたビスケットをぱきっと半分に割ると、片方をラクサスへと差し出す。
『お腹、すいたっしょ?』
「………」
たった半分のビスケット。大した足しにはならないが、ハルの笑顔にラクサスはお礼を言いながら受け取った。
『おいしーねぇ』
「…ああ」
歩き続ける二人。ハルはふと少し前を歩く彼の横顔を見上げる。その視線に彼は気づきもしない。
『……』
「おい、…ハル?」
急に立ち止まるハルに振り返れば、彼女はじっと自身を見つめており、さすがのラクサスも困惑したかのように頬をかく。
「帰るぞ…?」
『ラクサス』
「…?」
一歩だした足を止め再び振り向く。ハルはまだ栗色の瞳でラクサスを見上げていた。
『ラクサスはあたしが呼んだら、来てくれる?』
「…………は?」
唐突な問いに目をまるくする。しかしハルは至って本気のようで、その大きな瞳はぶれない。
『あたしと会えなくなったら、どうする?』
「いきなりどーした、ん?」
『こんな近くにいるのに、ラクサスに見えてないのかって考えたら…』
表情には笑みを浮かべながらも、明らかにしょぼんと落ち込んでいるのが見て取れた。
「馬鹿にすんな、おまえが後ろにいるかいないかなんてちゃんとわかってんだよ。おれがおまえを見失うわけねぇ…」
ぼそっと吐き捨てるように呟くラクサスは、歩みを再開する。
『……ラクサス…』
「おまえがどこにいても、どんなに遠い場所でも、おまえが呼ぶなら駆けつけて<どーした>って聞いてやる」
目をまるくしたハルはじっと彼の大きな背中を見つめたあと、はにかむような笑みを咲かせた。
『ラクサスのそーゆうとこ好き』
「ぅお…っ!?」
勢いよく腕へとしがみつくハルにラクサスは軽くバランスを崩す。先ほどとは打ってかわって嬉しそうに笑う少女に、頬が緩んだ。
『あ、他にもあるよ?』
「何が…」
ふっと笑いながら問えば、満面の笑みを浮かべたハルで、それにラクサスの心拍数が上昇したのだった。
『ラクサスの好きなとこ』
ビスケット
(100個ぐらい言えるんだから)
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