▼ 01
「…今年のS級試験は、中止とする!」
マカロフの決断に様々な反応を示す受験者たち。その中でも一際大声で暴れる者がひとり…。
「なんでだよっ!!みんな諦めるんならオレをS級にしろ!!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐナツを、離れた場所から見守るハルの前に影ができる。
「ちょっと…いいかな?」
『いいよ?どーしたの?』
見上げる相手、カナは言いづらそうに頭をかいた。ハルはただ彼女の続きを待っている。
「あたしがフェアリーテイルに入ったのって…父親がいたからなんだ。」
『そーなの?!カナが入ったのってあたしより先だったよねぇ?…会えた?』
嬉しそうに笑う少女に、カナもつられて微笑む。
「ギルダーツなんだ。」
『…えぇええ!!?』
大きな瞳をさらに見開いて驚くハルに、カナは眉を下げながら笑った。
『よかったねぇ!!』
「ああ。けどあたしが言いたいのはそこじゃないんだよ。」
『……?』
自分のことのように喜ぶ少女。ハルがこういう性格だってことは、話す前から知っていた。二人はこれでも長年の付き合いだ。
きょとんと首をかしげるハルに、カナは深く頭をさげた。
「ごめん…ハル!」
『えっ?…えっ!?』
謝られる理由が見つからないハルは、わたわたと慌てふためく。
『な、なんで謝るのぉ!?』
「あたし…ずっとハルが羨ましかった。」
『……え?』
カナの言葉にぴたりと動きを止め、彼女の続きを待つ。
「ギルダーツはあたしの父さんなのに、ハルとあの人がまるで本当の親子みたいに見えて…。あたしはずっとハルを羨んでたんだ。」
『…カナ。』
「ハルが悪いわけじゃないのにね。あたしったら酷いやつよね。本当に悪かったと思ってる。」
再び深く下げられる頭。ハルはゆっくりと頬を緩める。
『…そんなことどーだっていいよ。』
「……は?」
信じられない言葉に頭をあげれば、いつものようにふわりと微笑むハル。
なぜかこの表情を見ると、肩の荷がなくなってしまう気がしてならない。
『あたしこそごめんね?カナの気持ちそっちのけで、ギルダーツに甘えたりして…。』
「そ、そんなつもりじゃ…っ!」
『わかってるよぉ!けどあたしも謝っとかなきゃ気がすまないたちなの!』
へらっと笑う少女に、カナも思わず吹き出した。何とも強情な両者の会話。
顔を見合わせた二人は声を合わせて笑った。
「ハル!勝負だ!!」
『えっ、何?いきなり…』
雰囲気をぶち壊すことを大声で言ってのけるナツに、ハルは笑いながら応えた。
どうやらナツは現S級魔導士であるハルを倒せば、S級にしてくれ、とマカロフへと頼みこんだよう。
奥に見えるマカロフは笑顔でハルに向かってうなずいた。
「本気でやれよ!!」
『言ったよね?…S級になってからにしてって。』
「そのS級になるためにやるんだ!!」
飛びかかってくるナツに対して、ハルはため息をつきながらも、にっと笑った。
「ま、参りました…っ」
『素直でよろしいっ!!』
相変わらずの瞬殺っぷりに、他の仲間たちは声をあげて笑う。
こうして今年のS級試験は合格者0で、幕を閉じることとなったのだった。
帰り支度をする彼ら。
しかし彼らが天狼島から出ることは、出来ないのだった。
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