隣の席の気になるアイツ




彼を見かけるのは今日で何度目だろう。
麗らかな陽射しが降り注ぐ放課後、誰も居ない静かな校舎の裏庭で、何度も何度も彼を見かける。まるでこの時間が一番幸せだというように、草花に語りかける姿は普段とはかけ離れた表情だった。
彼はクラスメートたちが言うに、“一匹狼”で“孤高の獣”らしい。
らしいというのは、彼自身からそういった話を聞いたことがないからだ。一人が好きだとか、群れるのが嫌いだとか。彼に関するすべての噂は、みんな他人による憶測と想像だった。

「……」

本当に、噂はアテにならないと思う。目の前に存在する彼からは、どこにも触れれば鋭く切れるようなナイフみたいな危うさはない。他の生徒が言うような一人になりたい、というオーラも出ていない。
感じるのはただ暖かな感情だ。ふわりと花を撫でる手つきは優しく、語りかける声は蜜のように甘い。全身から植物が好きだと滲み出る雰囲気は、見ていて飽きない。

そんな出会いから、俺は彼を知るに至った。今まで気づかなかったのが嘘みたいだと、それほど、彼は俺の傍にいつも居たのだと。

(隣の席、だったのか……)

ちら、と横を盗み見る。彼は机に見事に突っ伏して、すやすやと気持ち良さそうに午睡を貪っている。
暖かな陽射し中、空調がきいた私立の学校の教室は昼寝には持ってこいだ。俺も幾度が居眠りを決め込んだことがある。
しかし進学を控えた今の時期、流石の俺も居眠りをしている余裕なんてなかった。
さらさらと額にかかる茶色がかった黒髪、整ったどこか冷めた容貌、長身の彼は名前を相楽 弦(さがら ゆずる)という。
クラスメートの噂ではこの学校近辺では有名な不良で、相当のワルであるらしい。やぶ睨みしたような目付きが怖い、とおさげの委員長が言っていたな。
だが俺は知っている。その目付きは単に視力が悪くて睨んでいるように見えるのだ。
……最近の俺は相楽を観察するのが日課になっている。自分で言うのもなんだが、ちょっと気持ち悪いよな、とも思う。

「お前って、他人に無関心だよな」

と、数少ない友達にも言われてしまうほど、以前の俺は他人に無関心、無感情だった。寧ろ人間が苦手で、友達とも滅多につるんだりはしないヤツだ。
そんな人間が、だ。一人の人間――しかも同性――の相楽にただならぬ興味を示してしまった。
天地が引っくり返っても俺は仕方ないと思った。

「てかさ、学期末になってから隣の席の有名人に気づくとかさ……鈍すぎ」

お昼休憩の時に、友達にそう言われて俺は返す言葉もなかった。
そうか、相楽はそんなに有名なのか。

「いや、お前も有名だから。人形みたいに整った氷の麗人、とか言われてるから。……中身は残念だけどな」

「残念ってなんだよ……」

「いやいや、綾部くんよ、君って自分が変人だって自覚ある? ひたすら放課後の校舎徘徊して七不思議集めてるオカルトマニアとか……こんな男前なのに嫌すぎるからさ」

「失礼な、最近は相楽を観察してるだけだ。七不思議集めはもう飽きた」

「……そーですか」

友達の呆れた声に不満を覚えつつ、俺は今日は空っぽな相楽の机を見やった。
相楽は、いま何をしているんだろう。家でくつろいでいるのか、それともまたあの校舎の裏庭でサボっているのか。

この前、じっと校舎の裏庭の花壇を幸せそうに手入れしている相楽と、視線が合った。
まずい、と思って隠れようとした俺に、相楽はゆっくりと微笑んだのだ。

その笑顔が忘れられない。またあの笑顔が見たいと、いつも思うようになった。
だから、これからは相楽のお近づきになれる努力をしようと思う。まずはお友達から……なんて、気持ち悪いことを考える。
そう、俺は確かにまだ会話もしたことがない相楽のことを、好きになっていた。

何を言おう。どうやって声をかけようか――そんなことを考えている内に、あっという間にチャイムが鳴っていた。
さあ、放課後までもう少し。俺の鼓動ははやまるばかりだった。





お粗末さまでした。
今回も参加出来て嬉しいです^^




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -