「もー七回寝ーれーばぁ、ばーれーんーたーいーん!」
「るっせぇ刺すぞ!」


大学の資料をぱらぱらと眺めていた宮地の耳元で替え歌を歌っただけで刺すとな・・・この頃の若いもんは物騒なこって。
顔は整ってるのにそれはもう女子を縮み上がらせるには十分な暴言を吐くから惜しいよねこいつ。黙ってれば本当にイケメンなのに。


「ね、宮地」
「なにがだよ」
「宮地ってほんと惜しいなぁって思ってー」
「余計なお世話だっつんだ」
「おお怖い睨まないで」


とかからかいつつ、こいつがモテるのは認識済みだ。こないだも頬を赤らめた子に呼び出しくらってたし。宮地のことだからどうせ断ったんだろうけど、あんな可愛い子ほっとく宮地も宮地だよ、ほんともったいない。
部活も引退したことだし、高校生活も残り少ないんだから、もっと楽しんだっていいと思うんだけどなぁ、ねぇ宮地さん。


「残り少ないからこそだろうが。今更彼女作ってどうすんだよ」
「遠距離ってのもまた味があるんじゃない?」
「ほー」
「興味ゼロですね宮地さんよ。今年は何個チョコもらうのかなー楽しみだなー」
「・・・なんでお前が楽しみなんだよ」
「え?宮地一人じゃ食べきれないだろうし、そしたら必然的にあたしに回ってくることになるからに決まってんじゃん!」
「ドヤってんじゃねぇよ轢くぞ」


今度は轢くですと。
ほんとにもう綺麗なお顔からは想像もできないお言葉がぽんぽんと・・・


「大体そんな有り余るほどもらわねーだろ・・・」
「いーや貰うね。何故なら今年宮地は卒業しちゃう!その前に私の想いを伝えなきゃ!・・・なんて女の子がたっくさんいるだろうから。・・・さっぶ、青春さっぶ」
「お前顔ひっでぇぞ」
「もとからですー」


宮地は資料から顔を上げて、呆れた風に笑った。その顔は好きだ。少なくとも、物騒な事を言うときの寒い笑顔より何倍も好きだ。


「お前は誰かにあげねぇの」
「え?それこそ今更でしょー」
「ふーん?好きな人いるんだ」
「まぁ」


お前だけどな。

こぼれそうになった言葉を飲み込んでニヤニヤと笑ってみせた。
宮地は引きつった顔で「こっち見んな」なんてこと言うの、華も恥らう乙女に!


「乙女・・・?」
「どこ見てんのよ目の前にいるじゃん蹴るぞ」
「もう蹴ってんだよいてーだろが殴るぞ」
「っ、もう殴ってる・・・!」


バレンタインなんてどうでもいい。
あたしにとって一番重要なのは、もう少しでこういった些細な日常も変わってしまう、その事実だ。希望と不安と、それから大きな寂しさ。

さみしいねぇ、なんてあたしらしくないことを呟けば、宮地は一瞬虚をつかれたような顔をした。それから小さく笑って、「そーだな」とあたしの額を軽く押す。・・・いったいな。


「バレンタイン」
「ん?」
「あげる奴いねーなら俺がもらってやらんこともねーぞ」
「・・・言い方ややこしすぎじゃない?」
「ガトーショコラな。作ってこなかったら殺す」
「ころっ・・・むお!?」


いきなり両頬を大きな手に掴まれたあたしの今の顔はきっと酷いに違いない。
「なにふんの」こ、言葉が言葉にならないじゃないか。
ささやかな抵抗の意を表すために肩をばんばん叩く。宮地は視線を逸らしながら、ぼそっと呟いた。


「・・・甘かったら許さねーからな」
「んえ」


それって。
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