見知った紫と赤に挟まれて歩くちっちぇー背中を見つけて、歩くスピードを速める。
隣に居たテツは急なオレの歩みにゆっくりと視線を巡らせ、ああと納得がいったような顔をした。
ずいぶんと伸びた髪の毛を、高い位置で結っているその髪の束に腕を伸ばして引っ張る。
「うえっ!?」となんとも女子らしからぬ声を出して後ろにつんのめった体を軽く支えて、上から覗き込んだ。


「青峰ぇ・・・痛いからそれやめてって何回も言ってるじゃん!」
「揺れるの見たら引っ張りたくなんだよ」
「ネコか!」


久遠のツッコミに、紫原が「ぷっ、峰ちんネコだって〜」と馬鹿にしたように笑う。
それに便乗するように「ずいぶんと素直じゃないネコだな」と笑った赤司から視線を逸らして、久遠に向き直る。
クラスが離れてしまった今でも、オレ達を繋ぐ"恋人"という絆。
・・・まぁ、んな名前つけなくてもつけてても、オレはきっとこいつと縁を切るなんて選択肢、頭に浮かんですらないだろうけど。


「お前今日どうすんの」
「えー、教室かなぁ」
「おー、じゃあ部活終わったら行く」
「いいよ終わる頃には玄関にいるから」


へらっと笑ったこいつの頭を叩く。


「青峰くん、久遠さん、今日もマジバ行きますか?あとリア充見せ付けるのやめてください」
「見せ付けてないし!?」
「マジバ行くの?じゃあオレも行くしー」
「なになに!?なんの話っスかぁー!」
「うわ余計なの来た」


嬉々とした表情で黄瀬に手を引かれて迷惑そうな顔の緑間と、その傍にはさつき。
んだコレ呼んでねーのになんでバスケ部集合してんだよ。と、心の中で悪態をつきながら久遠の頭に顎を乗せる。「痛いってば!」だってお前の頭の位置顎置きやすいんだもん。


「くっつくな、見ていて暑苦しいのだよ」
「峰ちんずりー。オレにもやらせろし」
「それにしてもお前たちが付き合いだしてからもう三ヶ月か・・・はやいものだな」
「三ヶ月って、ちょうど倦怠期の時期だよ!青峰くんも久遠ちゃんも冷めないように気をつけてね?」
「気をつけるとかって・・・そういうもんなの?」
「知らね」
「まぁ青峰っち達とは無縁な言葉っぽいスよね、倦怠期とか」
「青峰くんが嫌になったらいつでも僕のところに来てくださいね、久遠さん」
「オレのこといやになる要素とかねーだろ」
「・・・・・・」


オイそこ沈黙すんなよ!
痛いものを見るかのようなみんなの視線に舌打ちする。冗談だろうが、冗談!
「いや、今の冗談は笑えないよ青峰」うるせーぞお前一応オレの彼女だろ!

予鈴が鳴る。
じゃあ、と誰からともなく自分の教室に足を運んでゆく。
その流れに乗って帰ろうとする久遠の腕を掴めば、不思議そうな顔で振り返ったそいつ。
昨日たまたまショップで見かけた青色のシュシュを、ポケットの中から取り出した。


「ん、ちょっと頭貸せ」
「なにそれ、家にあったの?」
「違ェ。昨日買った」
「昨日買ったのにそんなくしゃくしゃになるの・・・」
「別にお前にやろーと思ってたんだしいーだろ」
「いやダメでしょ」
「もう黙れよお前。・・・ほら、つけたぞ」


やっぱり、似合う。
頭の上に乗る青に、それだけで、オレはこいつを独占した気分になれた。
束縛しようとは思わない。久遠があいつらと仲が良くて嫉妬しないといえば嘘になるが、それはオレがさつきに接しているのと同じようなものだと思う。

だから、せめて、オレのものだとわかるように。
黒い髪の毛の上に飾られた青はあまり目立たないが、満更でもなさそうな久遠にオレも笑った。


「ありがとー」
「おー。じゃあ、また放課後な」
「がんばってよ」
「久遠」
「ん?」


久遠が持っていた教科書をひったくって、ついでにこいつの頭も引き寄せる。
驚いた顔した久遠に口角を上げながら、教科書で顔を隠して小さく唇を寄せた。

付き合っていた前と、接し方はそれほど変わらない。
変わったのは、オレにしか見せないこの赤い顔と、放課後の約束。


「ほらよ」
「っ、っ!、ほらよじゃねぇぇえええ!!」


聞こえてくる怒号に背を向ける。
口元は緩みっぱなしだ。

放課後、玄関で壁にもたれかかりながらオレを待つあの小さな背中に、今日はどういう風に声をかけようか。

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