桜が舞っている。
クラス替えの紙が張り出される所まで、ドキドキと高鳴る心臓を押さえながら小走りで向かった。


「あっ、久遠ちゃんおはよっス!」
「りょた君おはよ!」
「もしかして久遠ちゃん・・・」
「ん?」
「・・・なんでもないっス!今日はなんか可愛いなって」
「はぁ?いつもは?いつも!」
「いつもよりってこと!」
「・・・っふ、なにそれ〜」
「深く考えないで!あ、オレちょっと用あるんで」
「うん、またね」


「久遠」
「・・・!征くん。おはよう」
「ああ、おはよう。今来たところかい?」
「うん、もうドキドキだよ」
「クラス替えのことか」
「それしかないでしょ〜、征くんならわかってたはず!」
「オレはもう見たからね。教えようか?」
「いい!自分の目で見るよ」
「・・・だろうと思ったよ。じゃあ、また後で」
「うん!」


「! あっちーん!」
「アララ?久遠ちんだ〜」
「おはよう」
「ん。ねぇ何か持ってない?」
「こんなこともあろうかとまいう棒買っておいてよか」
「いただき〜」
「最後まで言わせてよ!」
「うわ新作じゃんコレ。久遠ちんナイス、だいすき!」
「ったくもー・・・あ、じゃあ私行くね」
「またね〜」


「久遠ちゃん!おはよう!」
「桃井さんだ!元気にしてた?」
「元気だよ!久遠ちゃんは?」
「私?見てわかるとおり」
「ふふ、元気そうね」
「うん、あ、クラス替え見た?」
「うん!またテツくんとは同じクラスになれなかった〜」
「わわ、そんなしょげないで」
「あ!久遠ちゃんのは見てない!気が利かなくてごめんね・・・」
「ううん、大丈夫。これから見に行ってくる!」
「うん、またね!」


「やっほー子テツ」
「・・・!久遠さん」
「クラスどうだった?」
「知らない人の名前がたくさんありました」
「あは、マンモス校だもんね」
「楽しいクラスになればいいなって思います」
「そうだね」
「・・・久遠さん」
「ん?」
「いえ、あの、前々から思ってたんですけど、その髪型、似合ってます」
「まじ?やった、ありがと!」
「はい・・・では」
「うん、また後でね!」


「ああ、お前か」
「ああ、お前かってなによ」
「見えないのか?オレが見てやるのだよ」
「いいよ人がいなくなってから見るし」
「人の厚意を・・・」
「ありがと」
「・・・まあ、いいのだよ」
「・・・ねぇ緑間」
「愚図愚図するな。お前がそんなだと気持ち悪いのだよ」
「気持ち悪いって失礼だなオイ」
「事実を言ったまでだ」
「くっそ・・・!」
「・・・・・・・精々がんばるのだよ」
「、分かってる。ありがと」
「素直に礼を言われるとなんだか気持ちわる、」
「気持ち悪いって言わないでよ?」
「・・・ふん。オレは先に行っているのだよ」
「あ、そ。またね」


人の波に押しつぶされそうになる。
人ごみはいつになっても慣れない、苦手だ。


「うわっ・・・」


背もあまり高くない私はとうとう、誰かに靴の踵を踏まれてしまった。
後ろに倒れそうになる。ちょ、これはやばい。
覚悟を決めて目を瞑った時、反対側に手首を引かれた。
そのままぐいぐいと引っ張られ、張り出された紙と人ごみから遠ざかる。

そうやって、なにやってんだよ馬鹿なんて言って、笑うのだろう。


「なにやってんだよバーカ」
「いったた・・・ありがとう、青峰」
「お前ほんとドジな」
「ほっといて」


そうだ、青峰を見るだけで高鳴るこの心臓に、私はもう逃げない。逃げないよ。
掴まれた手をそのままに、青峰を見上げる。
だるそうに頭をかきながら、私の視線に気づいた青峰はにいまりと口角を上げた。


「あおみね」
「なんだ?」
「えっと」
「・・・・・・」
「私、青峰が、その・・・・す」
「・・・・・す?」
「す、」
「スルメイカとか言うなよ」
「ムード!!」


台無しである。

一気に頬に熱が集まった。
なにがスルメイカだふざけてんの!いやふざけてんのか!普通にふざけてんのか!


「もう絶対言わない!死んでも言わない!」
「はァふざけんなよ言えよ」
「ぶち壊したのどこのどいつだお前だよ!」
「誰のネタだそれ」
「笑うなぁぁああ!」
「悪かったって。なんか恥ずかしかったんだよ」
「はぁ!?なんっ、・・・!チュウしたくせによく言うよ!」


言い切れば、青峰は「チュウっておま・・・!」と少し頬を染めた。
黒いのに赤い。変。
ぐっと二人して押し黙る、瞬間、同時に吹き出した。


「・・・なぁ、ちゃんと言えよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すきです・・・」
「ハッ」
「うわちょっとなにすんの!」


いつもどおり、髪の毛をぐちゃぐちゃにされて暴れていた心臓が落ち着きを取り戻し始める。
ただ、いつもと違うことが、あった。

私の手首を掴んでいた青峰の手は、そのまま私の手のひらを包む。
私より何倍も大きなそれに、落ち着き始めていた心臓は再び簡単に破裂しそうになる。


「・・・お前手汗ひっど」
「だからムード!!!」


まあ、そんな青峰も・・・
その先は悔しいから言ってやらないけど。

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