「送る」
「・・・ありがと」


しばらくの沈黙のあと、青峰が切り出した言葉に素直に頷く。
一緒にいると挙動不審になってしまうし心臓に悪いけど、この曖昧なままお別れするのもなんだかなぁって感じだ。・・・曖昧なのは、私だけなんだけども。

手を離して、ゆっくりと歩き始めた青峰から、部活後のはずなのにいい香りがする。
なにを使ってるのかな。とても好きな香りだ。例えるなら、そう、石鹸・・・


"香水とかってすんごい匂いキツイから好きじゃないんだよね〜"
"はぁ?なんだ急に"
"やっぱ石鹸だよ石鹸!石鹸の香り!あの、ナチュラルないい匂いが一番だよ!"
"・・・意味わかんねーやつ"


いや、うん、なんだこれ、なんだこれ!
一歩先を歩く大きな背中が、急にすごくいとおしく感じる。
ただの偶然かもしれない。思い違いだったらただの自意識過剰の痛い子だ。
それでも青峰は、暇つぶしに喋ってたあのくだらない会話を、覚えていてくれたのかもしれない。

高鳴る胸と、小さくなる歩幅。
時々私の方を振り返って確認する青峰は、ついに立ち止まってしまった私を見て「なにしてんだよ」と近づいてきた。

ダメだ、もう、それ以上近寄られたら、


「くくくく来んな!ダメ!ちょっと止まって!」
「はぁ?なに言って・・・、」
「今!私!おかしいから!ダメ!」
「だから何言ってんのか意味わかんねーって」
「わたし、あおみねのこと、・・・好きかもしれない・・・・・」


俯いて見える範囲の先で、青峰の足が止まったのが分かった。
っていうか、かもしれないって、なに言ってんの私、ほんと馬鹿じゃん馬鹿。
そんな言葉、嬉しくないはずだ。自分の言葉に責任持てないまま言ってしまった。

・・・好きって言うのに、こんなにも心臓が暴れるなんて、思ってもなかった。
言ってから恥ずかしさと、後悔が募る。

止まっていた青峰の足が、再び動き出した。
顔を上げることができないまま、ぎゅっと目を瞑る。
まだ春だというのに、手汗が酷い。

しばらくして、大きな手が、私の頭に乗った。


「・・・え、」


呆然と青峰を見上げると、「やっとこっち見たな」と笑って、いつものように髪の毛をぐちゃぐちゃにされた。


「あ、青峰・・・?」
「帰るぞ」
「うわっ」


ぐいっと手首を引かれて、強制的に歩かされる。
恐る恐る見上げた青峰の瞳は、まっすぐ前を見据えていた。

きっと答えはもう出てる。

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