と、まあ呑気に春休みのことを考えていた私だけども・・・

造ちゃんの胸元に誇らしげに咲くきれいな造花を見てから、空を見上げる。
真っ青なそれが逆に切ない。そう、今日は卒業式だ。
一期一会とかいう四字熟語は、本当によく考えてあるお言葉だと思う。
すんごい長い間一緒に過ごしてきた彼とだって、別れるときは一瞬なんだ。バスケ部に囲まれて、歯を見せて笑っている造ちゃんを尻目に、私はその場から一歩後ずさって背を向けた。


「なんか言わなくていーの?」


ちなの声は、とても聞き取りやすい。
こんなにぎやかい場所でもすぐに拾えるような声だ。首を振って、私は歩き出した。


「家近いし、いつでも会えるよ」


・・・明日までなら。


***


「さみしいのー?」


ぼおっと教室の窓から外を眺めていたら、いきなり背後から大きなものがのしかかってきた。考えなくてもわかる、間延びした声と、なによりこんな無遠慮にのしかかってくる人は数少ない。
振り返らないまま、私はどうだろうねと笑ってみせた。

ぷにぷに。びよよん。
あっちんの大きな手が私の頬をつついたりつまんだり、せわしない。


「久遠ちん」
「・・・んー?」
「なかないで」
「、あはは・・・」


バレたかー。

それでも涙をぬぐうことをしないまま、私はいまだ後輩に囲まれる造ちゃんを見ていた。
ずっと一緒だった。
赤ちゃんの頃から、今まで、距離感が違ってきても、結局隣にはいつも造ちゃんがいた。
私に一番近しい人。


「なあんか、素直におめでとうって・・・、っ言えそうに、ないや・・・っ・・・」
「はいはい、いい子だから泣かないでねー」
「むかつく・・・っ・・・!」
「ばーか」


もう一回頬をつままれる。
普段、めったと流さない涙が口の中に入って少しすっぱかった。


***


「おめでとうって言ってくんねーの」
「・・・オメデトウ」
「はっ、カタコト。んな寂しがるなよ」
「っ寂しいもん」


うつむきがちに言えば、驚いたような気配が伝わってきた。
素直な私に目を見開く造ちゃんの顔が頭に浮かぶ。本当に、長いときを一緒にすごしてきたんだなあ。
でもそれも、最後になってしまうんだなあ。


「・・・なに、明日槍でも降るんじゃね」
「いいよ降れば。そしたら造ちゃん遠くに行けなくなる」
「、なあ、マジ、お前さー・・・」


大きくて頑張り屋な、造ちゃんの手が後頭部に回る。
力強く引き寄せられて、おでこと彼の胸板がごつんと鈍い音を立てた。痛いけど、温かい。


「勘弁してくれよ」


造ちゃんの言ってる言葉の意味はわかってる。
自惚れとかじゃない。きっと彼だって、寂しいに決まってるのだ。

大人なのか子どもなのか、私たちはよくわからない境目にいる。


「造ちゃん」
「・・・あ?」
「おめでとう」
「・・・・・・・・・おう、」


彼の制服の裾を握れば、大きな手が私の頭を二回、優しく叩いた。

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