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珍しく風邪を引いて休んだ珍太郎宛てだ。隣がいないと、やっぱり寂しい。
彼は無愛想に見えて意外と面倒見がいいから、授業中でもわからないところは手を貸してくれるのだ。俗に言うツンデレってやつだ。もはやツンデレでしかない。デレは非常に少ないけど。
もうすぐ春休みが始まる。授業も二年生の範囲はほとんど終わってるから、ビデオを見たり復習のプリントをしたり、この時期の授業は普段厳しい先生でも若干の緩みは甘く見てくれる。
その点で言えば、珍太郎が風邪を引く時期も今でよかったよね。・・・は、まさかあいつタイミングを見計らって休んでんじゃないよね・・・・・・そこまで超人ではないか。まああのクソ真面目な珍太郎だしないよね、うんうん。
「何一人で頷いてんだ気持ち悪ィ」
「なんと失礼なお言葉だ青峰氏」
緩みきったこの空間では真面目に復習に取り組んでる人は居ない。もはや先生でさえ生徒とお喋りだ。それは青峰氏も例外じゃなく(むしろいつもどおりなのかも)、授業中はこうして私の席の近くまでやってくる。
「あれ?ちなは?」
「あー、なんか、あいつらと喋ってる」
青峰氏の褐色の指が差す方向には、楽しそうにお喋りをしているちなとその他少数の女子生徒がいた。このクラスはみんな、満遍なく仲がいいから誇りだ。
そう思えば、クラス替え、イヤだなあ。
同じクラスになるのはこれで最後かもしれないのに、こんな時期に休むなんて、やっぱり珍太郎風邪引く時期間違えたっしょ。
「なんで珍太郎休むし」
「緑間が休んだらなんか不都合なことあんのかよお前。もう授業もほとんどしねぇじゃねーか」
「・・・なんでそんな拗ねた顔すんの」
眉間にしわを寄せた青峰氏。
そんな怖い顔してちゃしわとれなくなるよー?と人差し指と中指でそれを伸ばしてやれば、大きな手で手首を掴まれた。
「うるせーよ馬鹿」
「あ、言ったな。馬鹿に馬鹿なんて言われたくないわ阿呆」
「お前が鈍感なのが悪い」
「あん?」
こんな日常だと思ってたやりとりも、もしかしたらできなくなるかもしれない。
考え出したら止まらなくて、無性に寂しくて切なくて、握られた手首をそのままに、空いた手で彼の髪の毛をかきまぜた。
「・・・お前さ、オレのことなんだと思ってんだよ」
「青峰氏」
「そうでなく!」
「寂しいんだよわかってよ」
「は?んだよ寂しいって・・・緑間のこと好きなのかお前」
「好きだよ」
「っ!」
物凄い勢いで肩を掴まれた。
力強いその行動に一瞬息を呑む。なんだどうした青峰氏目が怖いよ!?
「好きって、おま、」
「え?え?」
「・・・ああ、なんでもねぇや」
おいこらなんだそのかわいそうなものを見てるかのような目!
青峰氏に悟られるとか屈辱的なんだけど。
「久遠」
「なによ」
「簡単に好きとか言うなよ。他の奴らはお前とは感覚が違うんだから」
「え、あー・・・気をつける」
やっと繋がった思考回路。
「久遠は自分が可愛いってこと、もっと自覚するべきだと思うぜ」
そういうお前は自分が意図せずに吐いてる言葉にもっと責任持つべきだと思うぜ・・・
わざとじゃない分、本音だということが何より恥ずかしいわぼけ。