これは夢だ。そう確信がもてる理由は、いくらでも見つかる。
仲睦まじげに肩を寄せ合いながら、手を繋いで歩く男女の後姿にはどちらも見覚えがある。
楽しそうに笑いながらどんどんと遠ざかるその影に手をかざした。

一瞬振り返った"彼女"が、小さくオレの名を呼ぶ。
いつものふざけたあだ名ではなく、オレの真の名を。ああ、なんて残酷な夢なのだろうか。

"しんたろう"


「・・・っ」


最悪な目覚めだ。
じっとりと濡れている額に手を置く。ぼやける視界で、見慣れた天井を見上げ、オレはため息をひとつ。
枕元で充電していたケータイが着信があったことを示しちかちかと光っている。

淡い期待を胸に着信メールを開けば、おちゃらけた文面と楽しげに動く絵文字。
自然と頬が緩むのを抑えられず、まあ自分の部屋なのだからこれくらいは許されるだろう。


《珍太郎でも風邪引くんだねぇ!馬鹿じゃないからか?笑 早く治して学校おいでよー、隣が空席だと物足りないぜ☆》


"しんたろう"なんて、久遠がオレのことをそう呼ぶはずがないのだ。
胸が引き裂かれそうになる夢ではあったが、そう呼ばれたことに(たとえ夢であっても)喜びを感じてしまったオレは、どうしようもない馬鹿である。馬鹿は風邪を引かないなんて、嘘っぱちだ。

最近ふられたはずの黒子が彼女の隣にいる夢なんて、なにかオレにとってよくないことでもおきるのだろうか。
ああ、また、オレは久遠のことを考えてしまっている。

本当はわかっている。
オレにはない勇気と度胸で彼女に告白をした奴が、少しうらやましいだけだ。


「・・・、はあ」


二年生も残りわずかだ。
来年度、彼女と同じクラスになれる保障なんてどこにもない。むしろ、なれない確立のほうが高いくらいだろう。

オレは、いつになれば、勇気を出せるのだろうか。
そもそも、この想いを伝えたところで何になるというのだ。・・・考えたところで、答えなど返ってこない。本当に厄介な感情なのだよ。


《明日は学校に行く》


結局何十分か考えて打った文字は、考えていた時間の割りに短くてそっけない。
いつもこうだ。中々"自分"というものは変えられない。

本当に、厄介な感情だ。

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