「は?待て待て待て、待てお前、は?」


例えばバスケの試合で強い奴を相手にしてるときの高揚感。
例えばU○Jのアトラクションに乗っているときのあの、心臓の高鳴り。
そんなものではない、それ以上の、言いようのない不安と焦りで煩い動悸。

今、オレの目の前にいるこいつは何て言ったんだ?


「フられたんです、久遠さんに」
「テツお前告白してたのかよ!?」
「ああ、君はそこからでしたね・・・はぁ」
「なんか悪ぃ」


いつも通り自主練のために残っている体育館。
冬も終わり、もうそろそろクラス替えのあるこの季節でもまだ外は暗い。
体育館の近くに植えてあるつぼみをつけ始めた桜の木を見つめながら、テツは少し口角を上げた。

フられたあとに見せるような痛々しい笑顔ではない、すっきりしたような笑みだ。
なんでこいつは笑ってんだ。


「ていうかいつの間にコクってんだよ、」
「スキーの時の帰りです。君は始終爆睡してましたね」
「あー・・・まあ、ほとんど記憶ねぇし」
「紫原くんでさえ起きてましたよ」
「・・・どういう意味だよ」
「自分で考えてください」


ボールをいじりながら、頭に浮かぶのはあいつの拗ねたような顔だった。
そういや最近、ずっと難しい顔してると思ったらテツとのことだったのか。マジで気がつかなかった。

そんなに鈍感ではねぇはずなんだが・・・


「いえ鈍感です」
「心読むなよ!」
「声に出してるんです馬鹿が」
「え、いつもより毒舌・・・?あれコレって黄瀬の立場じゃねぇの・・・?」
「少しイラッとしたので」


イラッとしたと言うわりにはその顔はいつもよりさわやかで、なにこのイケメン。え、こんなのをなんでフったのあいつ。いや付き合ってるとか言ったらそれはそれで嫌だけど。


「ていうかお前も、久遠のこと好きだったのか?」
「青峰くんは言動にもう少し気を配ったほうがいいと思います。今の発言何気カミングアウトしてますよ。隠す気はないんでしょうが・・・」
「おー、ねぇな」


そういえば、最近はよくうちのクラスに顔を出すようになってたなテツは。
久遠に会いに来るとか、そういう魂胆だったわけだ。ちゃっかりしてやがる。

でも、


「テツ」


ボールを投げる。
弧を描いたそれは、吸い込まれるようにしてリングをくぐり、そして地面に落ちる。
だんだんとボールが弾む音が館内に響いた。

テツは何を考えているのかわからない目でオレを見ている。


「オレは同情はしねぇ」
「・・・知ってます」
「だから、お前に引けを感じてあいつに何もできねぇとか、そういうのはねぇ」
「それもわかってます。例えは悪いですが、バスケの試合と同じです。相手が弱かろうとなんだとうと、手を抜かれるのは嫌だ。それと同じようなものです」
「言うと思ったぜ。やっぱお前最高だな」


恋愛絡みで、オレたちの友情が壊れるとか、そんな心配なんてしていない。

拳を突き出せば、いつもより少し強い力で拳を合わせてきたテツ。
きっとこいつも、フられようがなんだろうが、諦めはしないのだろう。バスケでも、諦めの悪い奴なのだから。


▽▲▽


《電話でごめんね、直接言う勇気がなくて・・・あの、子テツ》
「はい」


膝の上で握り締めた手が、少し震えた。
なんとなく答えはわかっている。わかっていて、言ってしまったのだから。

でも、後悔はしていない。
僕が好きなのは久遠さんで、その事実は変わってくれなくて、言っておかないと駄目な気がしたから。


《私、その、あの》
「はい、ゆっくりでいいですよ」
《・・・ごめんね》
「・・・いいえ」


夢だったことにできなくて、そしてね、子テツとの今の距離感を、壊すこともできないの。


振り絞った声は、震えていた。
そんな彼女すら愛しいと思ってしまう僕は、末期なのかもしれない。

想うだけならいいじゃないか。

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