そろそろ昼食にしようかと征くんが皆を呼ぶ。
そんなに動いてない私でも汗をかいているのだ。あんなにはしゃいでた青峰氏達が汗をかいてないなんてことはないよねえ、とその爛々とした瞳を覗き込めば、案の定結構な量の汗をかいている。それでも楽しそうに、「おい黄瀬!早く食ってガンガン滑るぞ!」「わかってるっス!」なんて眩しいくらいの笑顔だ。もういっそ君達が太陽になればいい。
そして私は疲れた。
「久遠ちんなんか老けた?」
「ぶっ」
「失礼な。で、今秘かに吹き出したの誰かな?」
「っごほん・・・、大丈夫です久遠さん、老けてなんかいません」
「子テツか許すちくしょう」
言葉に容赦がないあっちんである。そして何気に酷い子テツである。
そりゃあ、普段から体育の授業以外で運動なんてしない奴がいきなりスキーなんてハードなもんに挑戦したら、誰でもこうなるよね!!・・・なるよね、なるはず、・・・うん。
だっせーなあ、と被っているニット越しに頭をグリグリされる。ちょ、おい手加減くらいしろよ青峰氏ぃい!!
スキー板を外して店内に入る。板をつけないとやっぱり足取り軽いや。
いい匂いが立ち込める厨房を覗き込む私の頭を、珍太郎がいやらしいからやめろと押さえつけた。だってお腹すいたんだもん。
「何食べるっスか?」
「なににしようねぇ・・・無難にカレーにしようかな」
「オレカツカレー特大〜」
「あっちんならイケるだろうね。えっと・・・八百円・・・小銭こぜ、」
すっと横から伸びてきた腕を尻目に財布を取り出して小銭を確認する。
お、あったあった、
「カレー並み盛り二つください」
「・・・赤司、お前二つもカレー食うのか?お前そんな食欲旺盛だったかよ?」
「二つも食べられるわけないだろう。一つは久遠の分だ」
え。
手の動きを止めて横に居る征くんを見る。
目が合った征くんは微妙に口角を上げて、女の子に払わせるわけないだろう、その財布はしまっておけと私の手をやんわりと握った。惚れる。
「私もう征くんと籍入れてもいいかな」
半分冗談、半分本気で言った言葉に、いくつもの大きな声で否定された。
ちょっとみんなそんなマジになんないでよ、悲しくなるじゃないか。
「赤司にお前はもったいないのだよ」
「正気かお前、本気で赤司の隣に立てるとでも思ってんのか目ぇ覚ませ」
「珍太郎も青峰氏も私になんか恨みでもあんの!?」
本気で泣くぞボケ。
素直じゃないなという横から聞こえた征くんの言葉の意味は、よく分からなかった。