薄暗くなった空を見上げる。
授業をすべて終えた放課後の教室で、私は一人自分の机に座ってただぼんやりと過ごしていた。帰らないのは訳がある。

今日は、珍太郎と一緒にスキーウェアを買いに行こうと約束していたのだ。
ただ珍太郎の所属するバスケ部にオフというものはあまり存在しない。一日くらい休んだって支障はないと思うけど、そこはやっぱり真面目な珍太郎。
普段滅多に見せない、非情に申し訳なさそうな顔をして、待っていてくれないかと一言。
レアな顔を見れた私はそれだけで満足だ。二つ返事で頷いた。

それにしても、だ。


「さっむ・・・」


マフラー手袋装着の完全防備してでも、この暖房の切られた教室に一人というのは心寂しいことも相まって、寒い。
何度でも言おう、寒い。


「珍太郎早く来い〜〜・・・!!」


寒くて寒くて死にそうである。私凍死しないかな?しないよね?
冗談抜きで心配になってきたところで、時計を見上げる。
長い針が指しているのは六。短い針が指しているのも六。あ、あと三十分もある・・・!


「もー・・・ちんたろおぉー・・・」


きっと急いで教室に来てくれるであろう彼の足を、軽く蹴ってやろう。
きっと理不尽だと怒鳴られるだろうけど。


***


「―――・・・、」


誰かに呼ばれた気がする。
振り返れば、そこにあるのは真っ白な世界。今度行くスキーも、こんな白銀の、綺麗な世界なのかな。


「・・・久遠、」


狭い視界が徐々にはっきりとした輪郭を帯びてきて、私の肩に乗るのは、大きな手。
ゆっくりと顔を上げれば、予想していたよりも近い位置にあった綺麗な顔に若干驚く。


「・・・れ?わたし、寝てた?」


ごしごしと目をこすって辺りを見渡す。
たった三十分しか経ってないのに真っ暗になっている窓の外を見て、冬の日の短さを痛感した。

私を見下ろす珍太郎はどこか不安げで、小さく首を傾げる。


「・・・動かないから、・・・心配したのだよ」


死ぬわけないじゃん、という冗談めかした言葉は喉の奥にしまいこんだ。

待たせてすまない、と私の腕を持って立たせてくれるその大きな手は、部活を頑張ってたことがよく分かる、熱い体温。


「・・・っていうか、さっき私の名前」
「いっ、行くのだよ!」
「うわあっ、ちょ、引っ張んないでよ!」


ずんずんと前を歩く珍太郎の耳は真っ赤で。
つられて熱を持つ頬を自覚しながら、蹴るの忘れてたなあと、そんなのんきなことを考えた。

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