私の手を引いたまま体育館に入ろうとする子テツを慌てて止める。
不思議そうな顔をする彼に、私は簡単に「女子に妬まれるのはごめんだからさ」と苦笑して見せれば、納得したように頷いた。
胸をなでおろしたのもつかの間、何故か征くんのところに駆けていった子テツが私の方を指差しているではないか。


「久遠じゃないか。来るなら言ってくれればよかったのに」


さあおいで、と私の手を引く征くん。
待て待て待て待て、これはかなりやばいんじゃないか?
練習風景を眺めに(という建前で実際はコート上にいる選手を見に)来ている生徒(主に女子そして黄瀬ファンだろう)の間から、どよめきが起きる。

いやまずいって。
私は顔がバレないように、必死で下を向いた。


「ちょ、征くん待って、私もみんなと同じように上から眺めるだけでいいんだけど・・・!」
「それより、体調はもう大丈夫なのか?」
「え、あ、うん、だいじょぶ」


征くんはスルースキルを身につけたようだ。
練習に戻って行った子テツを恨みがましい目で見る。視線に気づいたのか、彼は私を振り返ってほんのり笑った。

っく・・・!そんな可愛い顔したって騙されないんだからね・・・!!

久遠ちゃん!と嬉しそうな顔で手を振ってくれる桃井さんに駆け寄る。
傍に居た監督らしき人に頭を下げれば、彼は一瞬驚いたような顔をして(何故)会釈を返してくれた。


「君か、例の女子生徒は」
「・・・はい?例の?」
「久遠ちゃんはね、この部の中ではちょっとした有名人なの。俗に言われる"キセキの世代"全員と仲良しになれた唯一の女子生徒だって!」
「なんで桃井さん誇らしげに喋ってるの・・・」


何故か誇らしげな桃井さんに若干眩暈を覚えた。


「だって、仲良しの子が自分の部活の中だけでも有名だと、誇らしいでしょ!」
「そういうもんなの?ていうか私有名なの?」
「そりゃあもう!だって、あの赤司君と普通に話せる人は数少ないもの」


やっぱり赤司君とかって、ほら、威圧的なイメージで様付けする子もいるくらいだしね。

苦笑するように、桃井さんは言う。
・・・まあ、うん、威圧的なのは認める。でもそれは彼の人格であって、別段気にすることではない気がするのは私だけなのだろうか。

言うのも面倒くさかったから、何も言わないでおいた。

ホイッスルが鳴る。
それは休憩の合図だったようで、息を切らした部員達に駆け寄ってタオルとドリンクを配る桃井さん。
何もしないのもアレだし、私も適当に何個か配っておいた。


「久遠ちーん」
「久遠ちゃん!」
「おわっいたっ重っ!!!」


突進してきた巨人と大型犬を受け止められるわけもなく、倒れそうになる。


「危ないのだよ馬鹿」
「少しは加減っつーもんをだな」


それを支えてくれたのは珍太郎と青峰氏。
それでも腰は変な方向に曲がったままで、ありがとうの言葉も言うのが辛い。


「お前達、退け」
「久遠さん、大丈夫ですか?」


征くんの言葉によりあっちんとりょた君は俊敏な動きで私から離れ、心配してくれた子テツには「元はと言えば子テツのせいだからね!」と嫌味を言っておいた。


「・・・ほう、確かに、とても懐いているな」
「監督、"仲良し"って言ってください」


そんな桃井さんと監督のやり取りが行われていたなんて、露知らず。

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