ここ三日間見ていなかった背中を見つけて走り出してしまった僕は、やっぱり彼女のことが好きなんだろうと再確認させられた。
はずむ息を整えて久遠さんの肩に触れる。驚くこともなく振り向いた彼女に軽く頭を下げれば、「子テツ!」と嬉しそうな顔。そんな顔されると、勘違いしてしまいますよ。なんて言葉は胸の奥にしまいこむ。

もう大丈夫なんですかと問えば、彼女は笑って頷いた。


「子テツは部活のはずでしょ?また忘れ物?」


いたずらっぽく笑う久遠さんに、図星の僕も小さく笑い返す。
寒い季節になった今、突き指などの確立は飛躍的に上がるため、走りこみなどのメニューが増える。
冬なのに汗かいてるね、と驚いた風な彼女にそう言えば、納得したように頷いた。
冬だからこそ、なのだ。


「相変わらず頑張ってんねー。でもくれぐれも、」
「無理はしないように、ですか」
「お、おお分かってるじゃん」
「以前も似たように忘れ物をしたときに言われました。・・・覚えてませんか?」
「覚えてる覚えてる!なあんか、あの時はちょーっと気まずかったよ」


子テツが私に会えて嬉しい、とか言ってくるもんだから。

今思い出しても少し気恥ずかしいのか、彼女は人差し指で頬をかく。
事実なのだから仕方がない。現に今でも、こうして久遠さんに会えて嬉しいと思っている自分がいるのだから。

いっそ伝えてしまおうか、と開きかけた唇は、「一応私も女の子なんだしー」とあどけない笑みを浮かべる彼女の前に閉じる。

一応じゃなくて、あなたは女の子ですよ。
だって僕は、僕はあなたのことが。


「子テツ?」
「・・・っはい」
「なに、ボーっとしてるの!早く部活戻んないと」
「あ、そうですね」


ほらほら、と僕の背中を押す大きいとは言えない手。
触れた部分が熱を持つような、そんな感覚がした。
低くなった太陽が、彼女の頬を照らしている。オレンジに染まる廊下で、僕の上気した顔も、なにもかも、溶けてしまえばいい。

もっと、久遠さんと一緒に居たい。

気づけば僕は背中を押す彼女の手を掴んでいた。
不思議そうな、困惑したような、そんな表情の久遠さん。

意図して握ったわけではない掌だけれど、言い訳を探してうろたえる僕。


「あの、部活、見に来ませんか」


もちろん、あなたが暇だったら、ですが。

発した言葉はたどたどしく、けれど彼女に伝わったはずだ。


「え、いいの?」
「赤司君も君なら、許してくれるはずです」
「なにその特別扱い〜嬉しいな」


本当に嬉しそうに笑う久遠さんに、少しだけ赤司君が妬ましくなってしまった。
つながれた手を振り払うことなんてしない彼女。
握ったまま、僕はゆっくりと体育館に足を運んだ。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -