「ってなことがあったんスよ」
「はあー?」


乱暴に教室のドアを開けて女子の群れから無事生還(?)してきた黄瀬ちんは、オレの前の席の椅子を引いて座るなり胸糞悪い話を聞かせてきた。
聞けば、久遠ちんの事を悪く言ってる女子がいるとのこと。
マジ誰だし。見つけ出して捻り潰してやりてー。
一緒に帰ったあの日、少し控えめな色のマフラーに鼻まで埋めていた久遠ちんを思い出す。
久遠ちんは本当に、そのミーハー女が言ってるような子じゃない。
バスケ部に媚売ってるわけないし、なんならオレ達の方から久遠ちんに近づいてる感じ。お菓子だってくれるし、ほんといい子。


「その子になんて言ったの?黄瀬ちん」
「え?久遠ちゃんに何かしたらオレらバスケ部が許さねーって言ったっス」
「・・・んー、大丈夫なの?それ」
「オレもちょっと後悔してるっス。もうちょっと控えめに言っとけばよかった」


後悔してるっていうのは、その子のことを傷つけたことじゃない。
その子にそうやって言ったことで、さらに激昂したその子の仲間とかが久遠ちんに害を及ぼさないかどうか、ってことだ。
マジ黄瀬ちん馬鹿。ばーかばーか。

ぱり、とポッキーの袋を開けて何本か同時に口にふくむ。
噂の久遠ちんがくれたイチゴ味のポッキーだ。うん、おいしー。


「おーい黄瀬ェ」
「あっ 青峰っち!」


ぶんぶん、とさっきのテンションとは大違いの表情で入り口にだるそうな表情で立っている峰ちんに手を振る黄瀬ちん。
よほどの事がない限りうちの教室に顔を出さないのに、なにかあったのかな。
つーか峰ちんって久遠ちんと同じクラスだよね?うらやまー、絶対退屈しないじゃんそんなの。


「国語辞典貸してくんね」
「えーオレに用があったんじゃないんスか?」
「黄瀬ちん、そんな泣きそうな顔男がしてもキモいだけだから」
「これ女受けはいいんスよ!」
「黙れデルモ。早く貸せ」
「青峰っちも人にものを頼む態度ってのがあるで―――あれ、久遠ちゃん」


え、久遠ちん?
すばやく立ち上がって黄瀬ちん達の方に向かう。

ごめん 私も貸してー、と舌を出しながら手を差し出してくる久遠ちんがそこに居た。
えーオレ国語辞典とかあったかな。あっても絶対汚くなってる気がする。


「汚くてもいいから!持ち物チェックあるの今日」
「ふん、前日に準備しないからなのだよ」
「アララ?ミドチンいたの?」
「なっ、失礼なのだよ!」
「珍太郎なんでそんな髪の色してて影薄いの?」
「知らん・・・!」


オレを含めたカラフルなメンバーに囲まれる久遠ちん。
能天気な笑顔に、さっきまで抱いていた怒りはふっと消え去って、

・・・うーん、一時は悪口言われてても、久遠ちんなら大丈夫な気がする。
きっと久遠ちんが気づかないうちに、そんな悪い噂も風化してるんだろうなー。


「うっわ予想以上に汚いわ、あっちんの国語辞典」


だって、自分でも自覚してるくらいには大きな威圧感を持つオレにだって、こんな態度なんだもん。
ちょっとイラついたから、軽く頬をつまんでおいた。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -