青峰氏の家は留守だった。
珍太郎と顔を見合わせて、アイコンタクトだけで会話をした私達は、青峰氏を探すために走り出した。
自宅謹慎なのに、何処行ったの、もう。
誤解の処罰とはいえ、見つかったらきっともっと酷い仕打ちが待ってる。
ある通りにさしかかった。
ここは青峰氏がよく来るバスケットゴールがある所だ。
もしかして、と思い足を進める。
ボールを片手に、ゴールを見上げる青峰氏が立っていた。
ぽつり。雨が頬を伝った。
「青峰!」
「っ!」
びくりと肩を揺らした青峰が、振り返る。
そして、悲しそうに、くしゃりと笑った。
たまらず駆け出して突進するように抱きつけば、何も言わずにボールを落とす。
何回か跳ねたボールはやがて止まって、ころころと転がっていった。
青峰の大きな手が、私の背中に回った。痛いくらいに抱きしめられて、息が苦しい。けど、青峰は、もっと苦しい。
「・・・オレ、バスケ辞めたくねぇ」
「征くんがなんとかしてくれるよ」
「・・・・・」
「青峰、ほら、元気出してよ」
降り続く雨が体をぬらしていく。
ぎゅう、と力強く掴まれた制服がくしゃくしゃになった。
ぽんぽんと背中を叩けば、力尽きたようにしゃがみこんだ青峰は、そのまま私の肩口に顔を埋めた。
「なんか、お前の顔みたら、強がろうとしても無理だった」
「なにそれー」
「ちゃんと笑えてなかったろ、オレ」
「・・・まあ、うん。仕方ないよ、いらない罪着せられてさ、運動神経抜群のくせしてさ、青峰氏」
「・・・お前さっきまで青峰って言ってたのに」
「え、駄目?」
「駄目じゃねぇけどよ・・・あー」
少し体を離して、視線をさ迷わせた青峰氏の顔は、若干赤い。
「悪ぃ」背中に回した手をぶらりと下げ、青峰氏は頭を掻いた。
少しの沈黙が流れる。
雨で濡れた二人の体。寒くて身震いすれば、それに気づいた青峰氏は自分のコートを私にかけてくれた。おお、紳士。
「でも、青峰氏風邪引いちゃうよ」
「オレは鍛えてるからそんな簡単には引かねぇよ」
にか、といつもの笑みを見せた青峰氏に安心して、じゃあ、と遠慮なくコートを着直す。
髪の毛から雫が伝った。顔を振って雫を落としていると、ポケットの中でスマホが振動する。
雨に濡れないようにディスプレイを見れば、『赤司征十郎』の文字。
征くん、上手くやったんだね。
なんて確信を持って耳にスマホを当てる。
「もしもし征くん、信じてたよ、征くんならきっとやってくれるって!」
《まだ何も言っていないけど・・・青峰はいるか?》
聞いておきながらも確信しているんだろう。
青峰氏にスマホを渡せば、怪訝な顔をしながら電話の応答をしていた青峰氏の瞳が徐々に輝きだした。
「っ久遠!」
「うわっ、っちょ青峰氏!?」
「マジでさんきゅー!!」
きっと、良い報告でも聞けたんだろう。
嬉しさのあまり抱きついてきた青峰氏に、思わず笑みがこぼれる。
いつの間にか、雨はやんでいた。